「車旅日記」2005年初夏【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】初日(長岡-会津-福島-山形)走行距離388㎞ その2-福島駅、峠駅、今泉駅、荒砥駅、アパホテル山形駅前大通
車旅日記2005年7月16日・・・福島駅、峠駅、今泉駅、荒砥駅、アパホテル山形駅前大通
17:00 福島駅(7月16日の長岡駅より255㎞)
あれから10年だったな。
信夫山のことは忘れていた。
礼儀正しい磐城人が通り過ぎていく。
郡山で暮らす友人夫婦のように、磐城国の人々は穏やかそうだ。
東北に足を踏み入れるのは5年ぶりになる。
たぶん変わっていないのだろう。
そう、何もかもが。
福島盆地は東京のような蒸し暑さに見舞われている。
夕立でもくれば、また歴史の雨ともなるが、そうはなりそうもなく、またそれでいい。
5月の富山以来、大きな街に着いた。
いい街だな。
今日はまったく歩いていないが、オレは東口の繁華街を知っている。
福島入りの前には土湯温泉を抜けてきた。
あそこだろ。
子供の頃の記憶に残っている温泉街は。
近くの川が錆び色をしていたよ。
18:03 峠駅(7月16日の長岡駅より288㎞)
峠を上り山形県へ。
そして峠の駅へ。
峠で雨が降った。
少し大粒の雨が峠駅上空から落ちてきた。
でも駅は濡れない。
長いトンネルをくぐってきた奥羽本線。
山形新幹線はここで格納庫に収まるように停車する。
この木柵の向こうに何があるのか。
まさか駅があるとは誰も思わない。
駅名に魅かれて寄ってみたが、こんな想像を絶するような面白さを持つ駅であることに驚いた。
歴史の雨はこの峠で降った。
もっとも、よく降るのだろう。
峠とはそういうものだ。
こんな場所にわざわざやってくるのは、オレみたいなもの好きだけだろう。
暗いトンネルの中に照らされたホームはとても幻想的だった。
19:35 今泉駅(7月16日の長岡駅より337㎞)
峠で赤い真ん円の夕日を見た。
米沢を抜けて13号国道を迂回して、287号国道。
今泉駅はJR米坂線と山形鉄道が乗り入れる風情のある駅だった。
駅前で迎えの車を待つオッサンと少女。
空はまだ明るさを残している。
東北の空がこんなにも暮れないことを知らずにいた。
今はもう夏か。
蝉の声が小さくなり、蛙をはじめとした地下や地上の虫たちがさわさわと動き出す音が聞こえる。
田舎の夏の音だ。
気温はまだ20度以上を残している。
今になって東北の山河に包まれている喜びが湧いてきた。
昔ながらの駅舎に灯がついている。
京都では今夜が祇園祭の宵々々山にあたるはずだ。
2019年1月5日撮影
20:00 荒砥駅(7月16日の長岡駅より354㎞)
山形鉄道の終着駅は廃れちゃいない。
まるで結婚式場のようなきれいな駅舎が、闇夜に浮かぶように建っている。
今日の仕事はすべて終えているけど、きれいな灯をともして、「よかったら使ってくれ」と言ってくれている。
この先にも線路は延ばせるが、ここでおしまい。
今日のオレもそうだ。
これで思い残すことなく山形で眠れる。
煙草が吸える粋な駅だった。
夏の夜の風情は、人気のないこのあたりにも濃厚に漂っている。
23:38 アパホテル山形駅前大通302号室(7月16日の長岡駅より388㎞)
サクランボ娘はいかしていた。
東北のラッパーのスタイルは東京と同じだが、敵対心はなさそうで、ギター弾きは地下道で夢を見ている。
山形牛に里芋鍋。
美味かったよ。
美味いものを食べたのは富山以来だな。
東京での暮らしに疲れて、今日はそんな心の疲労を引きずっていた。
山形の街が案外狭くてよかった。
今日のオレじゃあちこち歩いて回れないから。
10年前の記憶は今も鮮明で、人のいい山形人に救われたことを覚えている。
オレにできる借りの返し方は山形県で金を使うこと。
でも悪いな。。
せいぜいあの程度だ。
あとは明日ガソリンでも入れて、昼飯を鶴岡あたりでと思っている。
今日のオレは10年前のオレでもなく、旅人でもなく、何となく車を転がしていただけの男のようだった。
どことなく冴えなくて。
それでも400㎞近く車を転がしてここまできた。
やりたいことはしている。
彼女の顔は何度も浮かんだ。
でもとどめておこうとは思わなかった。
ひとり旅だ。
それでいい。
相変わらず明日のルートは明確じゃない。
早く路上に出たいけど、今夜はゆっくり眠りたい。
こんなに静かな夜。
山形がせっかく差しだしてくれている。
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