「車旅日記」2005年初夏【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】2日目(山形-左沢-新庄-鶴岡-新潟)走行距離313㎞ その1-アパホテル山形駅前大通、羽前山辺駅、寒河江駅、左沢駅、柴橋駅、天童駅、村山駅、新庄駅、羽前前波駅
車旅日記2005年7月17日
2005・7・17 8:51 アパホテル山形駅前大通802号室
空の青は濁っているけど、今日も晴れだ。
神様はオレのことを見てくれている。
東京にはすっきりとした気持ちで戻れるだろう。
山形をうまく書けないことが心残りだけど、さっぱりして海へ出よう。
今日は日本海との再会を予定している。
そして今日ばかりは、10年前の記憶が大切な要素として持ち上がるかもしれない。
9:28 羽前山辺駅(7月16日の長岡駅より398㎞)
朝の山形市内は夏の静けさをまとい、「今日はきっと暑くなる」と空を見てつぶやいていた。
市内を流す。
線路に沿った道を探した。
あったよ。
電化されていない1本のレールが北に延びている。
線路沿いから眺めた広くて白い風景。
あんな一瞬のためにこの旅はある。
山辺町へ。
駅前通りに屋台が並んでいる。
今日は祭だろうか。
山形の祭りといえば花笠祭。
開催は8月だという。
いい季節だな。
駅前で待つタクシーは、翼を広げるように両のドアを開けて車内に冷気を入れている。
客のアテはそれなりにあるのだろう。
古い家を見かければ昔を思い出す。
駅前旅館がそうだ。
駅舎もそこに含まれる。
上下から列車が近づいてきた。
どちらも多くの客を乗せている。
広場で煙草を吸った。
山形はまだ喫煙者に優しい。
そしてこれから本格的に訪れる今年の夏を想った。
鳥が飛んでいる。
10:03 寒河江駅(7月16日の長岡駅より408㎞)
10年前に通行を阻止された寒河江へ。
ようやくこれたよな。
ミュージアムなような美しい駅が建っている。
灰皿が置いてあったよ。
見晴らしロビーがあり、改札口脇に待合室がある。
待ち人の姿がある。
純粋な山形弁が外を飛び交い、ぽーっと汽笛が鳴った。
いい音だ。
駅の横には仏閣を模したようなガラス張りの建物があり、神輿が収まっている。
この町でも祭が始まるんだな。
広大な穀倉地帯を走った時の気分はよかったよ。
そしてまた汽笛が一声。
暑くなってきた。
10:41 左沢駅(7月16日の長岡駅より419㎞)
左沢線も終点へ。
終点の町は大江町。
最上川舟唄発祥の地だという。
この駅に着く前に見た最上川は冷たそうな色をしていた。
米沢あたりじゃ随分小さくしていたけど、このあたりじゃいい風情だ。
土地の老人が土地の言葉で大きな声で喋っている。
理解はできる。
最上の殿様もあんな言葉を喋っていたのだろう。
左沢の地名の由来は諸説ある。
伝説とはそういうもので、駅は大正の頃からあるようだ。
寂れた駅舎などではなく、町の会議場も備えた美術館のような造りをしている。
なぜ線路がここで途絶えたのかは分からないが、乗客の多くは山形寒河江間を移動しているようだ。
駅前は閑散としているが、ここに辿り着くまでに眺めてきたサクランボ畑や、田園が広がる山形の夏色は懐かく、いい色をしていた。
10:57 柴橋駅(7月16日の長岡駅より421㎞)
西部街道から階段を上がった小高い場所に小さな駅がある。
煙草は吸えなかったが、大江町が見晴らせる。
最上川は堤防に隠れているけど、涼しい場所だった。
地上じゃ聞きとれない鳥の声を聞いたよ。
ビール片手にこの駅に立ち寄ることを想像した。
そんな暑さだ。
山形の夏はいいものだよ。
11:38 天童駅(7月16日の長岡駅より435㎞)
とうもろこし畑の先に駅が見える。
在来線用の駅舎だ。
東口に回ったら、新幹線を止める駅の顔をしていた。
将棋の町に強い日差しが降り注ぎ、暑さに慣れない山形人はしきりに汗を拭う。
牧歌的な廃品回収車が行き交い、上空をジェット機が往く。
空港が近いのだろう。
着陸態勢に入ったようだ。
新幹線で東京と一直線につながる天童の繁華街は、とてもローカルな町並だった。
駅ビルPALTE屋上はビヤガーデンになっている。
12:31 村山駅
ミカン畑から線路を渡り、羽州街道を北へ。
町中の風景は退屈なものだったけど、サクランボをイメージした東根駅を過ぎ、ここ村山に至ると右手には陸奥を実感させる奥羽山脈が現れた。
あの山並は仙台方面への通行を容易に許さない遥かなるもの。
そんな風景を「駅そば」が食べられる食堂から眺めていた。
みちのく。
これからさらに山深くなっていく。
村山駅は最上川に架かる橋をイメージしている。
新幹線開通によって旧駅名の楯岡から村山に変わったという。
オレが見ている古い地図には楯岡駅と記されていて、楯岡の名は今もタクシー会社、交差点などに残っている。
食堂ではヤンキースとマリナーズ戦を映し、クラブ帰りの高校生がオレと同じように大盛そばを食べながらぼんやりと見ている。
隅っこには女子高生が二人だらしなく座り込み、あの年代を生きる者が持つであろう共通の悩みについて熱心に喋っていた。
あまり深く考えるものじゃないよ。
そう言ってあげたいよ。
北行はもう少し続く。
涼しい風が吹いてきた。
13:45 新庄駅(7月16日の長岡駅より487㎞)
奥羽本線はこの街を過ぎてもまだ先へと続く。
山形新幹線はここで北上を断念した。
終着の特急駅は賑わっていて、新庄祭り開催間近の街は浮き立っている。
義経伝説や「奥の細道」の舞台、新庄。
最上川がオレの知っている姿を見せたのは13号バイパスに入ってからだった。
土産は必然的にこの街で決めることになった。
新庄。
いい響きだ。
確か、車寅次郎とこの街には縁がある。
腹を空かして駅前を歩いている時に見かけた食堂で、有り金を持たない彼が腕時計を差し出して、「これで何か食わせてくれ」と頭を下げると、食堂の女性は「困った時はお互い様」と、暖かい豚汁と大盛飯を置いてくれたことが彼の口から語られる。
その街が新庄で、その女性との縁は、やがて桜田淳子さん演じる娘さんが彼を訪ねることにつながる。
その頃はこんなに賑やかではなく、寒い街並だっただろうか。
あるいはその街は寒河江だったかもしれない。
雪の新庄と街では謳っている。
今日は祭みたいなものだ。
隣接したセンターでは舞台ショウが行われている。
北行はこの街で終わり。
庄内へ向かう。
14:10 羽前前波駅(7月16日の長岡駅より498㎞)
羽前の大都市新庄は城下町。
北へ行くと最上公園という涼しげな情緒を持つ公園に行き当たった。
街中を一回りしてから日本海へ向けて県道を往く。
脇には陸羽西線の単線のレール。
小高い場所に無人の駅がある。
田んぼ脇に車を止めて階段を上がる。
ホームからは日本の田舎風景が見渡せる。
旧家に田んぼ。
美しい緑色だ。
線路の先に目をやると駅を挟んで両側にトンネルがある。
そのトンネルの先が見える。
その先が明るくてね。
トンネルに入ったら入りっぱなしなんてことはないんだよ。
短い風景が人生を語るように教えてくれる。
風が葉を揺らしている。
鳥が囀り、蜩が鳴きだした。
ビールでもあれば、日が暮れるまでここにいられる自信がある。
いい旅が続いている。
ここから見える羽前前波駅の侘しげな姿に心惹かれる。
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