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「車旅日記」2005年初夏【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】2日目(山形-左沢-新庄-鶴岡-新潟)走行距離313㎞ その2-高屋駅、鶴岡駅、鼠ヶ関駅、村上駅、坂町駅、新潟駅、新潟東急イン

公開日: : 最終更新日:2023/04/27 旅話, 旅話 2005年

車旅日記2005年7月17日
14:40 高屋駅(7月16日の長岡駅より513㎞)
駅を出て、最上峡を背にして止めた車が絵になっていた。
そんな場所にいる。

県道から47号国道へ。
その手前で陸羽西線の古びた鉄橋と並走して最上川を渡る。

壮観だったよ。
目の前には広大なる10年前の最上川。
川下りを終えた舟が戻ってきている。

酒田に通じる道だが、最上川に沿うまで10年前の道だとは気づかなかった。
だからこそ旅はいい。
オレにとって地図は穴が空くほど見るものじゃないし、分析するものでもない。
行先さえ記されていればそれでいい。

今ここにいることを知らせたくて。
この風景を見せてあげたくて。
そう思う女性がオレにはいるようだ。

東京じゃいろいろあって、なかなか気持ちも落ち着かないが、こんな場所にいることで導かれるものがあるようだ。

帰ることを考えるとしようじゃないか。
そうしたら自然に母親の顔が浮かんでくる。
例えばそのように彼女の顔が浮かんでくる。
新庄で購入した土産は彼女に渡すさ。

列車が駅に着いた。
随分と洒落た客車じゃないか。
最上川によく合っている。

この風景だけはよく覚えていたよ。
あの滝は見られるだろうか。
鶴岡への道はその先だろうか。

舟唄が聞こえてきた。
そういえば祭囃子もどこかの町で聞いた。

15:34 鶴岡駅(7月16日の長岡駅より541㎞)
白糸の滝サービスエリアは高屋駅からほど近くの場所にあった。
あの滝を目にするのは3度目になる。
その滝を目指してたくさんの車が集まっていた。

あんなにも人が集う場所なのに、10年前はたったひとり車を止めて、寒さに震えながら目を閉じた。
空は星で埋め尽くされ、怖いほどだった。

雄大な最上川も立川まで。
続いた風景は180度に広がる庄内平野。
そして穀倉都市鶴岡へ。

駅は改築中で、庄内米の看板がかかり、2階屋がちょこんと乗っかっていた。
駅前は時計の風景。
玉姫殿、庄内交通ビル。
通りを挟んで、MARICAには渡り廊下が架かる。

鶴岡には、藤沢周平さんの本を一冊くらい読んでから来たかった。
でもこの訪問の仕方じゃ街の様子は分からない。
今日はこれでいい。

「雪の降る町を」の歌碑が建っている。
鶴岡で生まれた楽曲だったのか。
歴史を持つ街じゃなきゃ、そんな詩情は生まれないのかもしれない。

幕末戊辰戦争で、奥羽越列藩同盟に組した鶴岡庄内藩は「破軍星旗」を掲げ、戦争では負けることはなかったが、降服の道へと進み、西郷隆盛の温情により会津や長岡が辿ったような辛酸を舐めずに明治を迎えた。

山形県の旅はまだ続く。
いよいよ日本海へ。

2012年8月11日撮影

16:53 鼠ヶ関駅(7月16日の長岡駅より589㎞)
庄内平野を後にして道は7号国道。
横を往くのは羽越本線。
子供たちは標準語で話し、鴎が鳴いている。

羽州街道には様々な思い出がある。
母親に電話したのはたぶんあの場所だろう。
電話ボックスはもう置かれていなかった。

温海では空を見上げた。
次に寄った時には想いを寄せる女性へと「こけし」を購入した。
美味しい刺身料理を出してくれた海辺の食堂は健在だった。

新潟方面に向けて7号国道を走るのは初めてで、ここ鼠ヶ関が県境になる。
この関を越えれば新潟県。

1時間近く海辺を走っていたけど、ようやく列車とすれ違った。
電化路線だが、普通列車はディーゼル車を用いているようだ。
酒田行の列車で、すぐに見えなくなってしまった。

テトラポットで隔離された海水浴場に傘が開いている。
昨日あたりから海開きしたのだろう。
予報と違って今日もよく晴れている。

鼠ヶ関は水戸街道の勿来、日光街道の白河と並び奥羽三大古関に数えられている。
京都から平泉へと逃避行を続けた源義経一行が海路から上陸した地で、諸説あるようだが、歌舞伎で有名な「勧進帳」の舞台は鼠ヶ関を指すともいう。

17:00の時報が鳴った。
やけに長い。
そして上り列車がやってきた。

2011年8月13日撮影

18:03 村上駅(7月16日の長岡駅より634㎞)
今日のところは日本海とおわかれ。
海辺の道は海水浴客で混みあい、夕日の名所には車列ができている。
庄内人と比較して越後人はアクティブなのだろうか。

懐かしい楽曲をかけながら西日を浴びて走る心地よさに酔っていた。
村上といえば瀬波温泉。
今朝言ったはずだ。
今日は10年前と深い縁を持つ旅になると。

あの日、日没時刻に向かって車を走らせ、そして日本海に沈む夕日を胸いっぱいの気持ちで見送った。
あの時のピュアさは今のオレには残っていないのかもしれないけど、似たようなものならまだあるだろう。
だからこうして今日も車を走らせている。

村上駅は素敵な駅だ。
どこか洋食屋さんのようで、茶色いロールケーキを連想させる。
駅前には古ぼけたタクシー会社に観光案内所の入る雑居ビル、レンタカー屋くらいのものしかないが、通りに出れば旅館もある。
美味いものを食わせてくれる店もあるだろう。

羽越本線はさらに延びて、東北の匂いがここ村上までやってきている。
村上は、上杉謙信に帰属しながらも何度も歯向かった本庄一族が治めた気骨のある町。
おそらく他の新潟県民とは血脈が違うのだろう。

長岡といい、庄内といい。
オレはそういうものを見に来たんだよ。

2012年8月11日撮影

18:37 坂町駅(7月16日の長岡駅より648㎞)
米坂線の草蒸した単線の線路を越えた時、あぁそうだなと思ったよ。
当初はここから米沢に向かうつもりでいたが、とてもムリだ。
このまま今夜の宿泊地の新潟に向かう。

坂町駅に沈む紅の夕日を見た。
昨日と同じで見事な円形だった。

坂町駅は東京じゃなかなか聞くことのないターミナル駅で、羽越本線と米坂線が通じている。
役場のような駅舎で、2階は鉄道員が起居する施設になるのだろうか。
同じくターミナル駅の鹿児島県の吉松駅、岡山県の新見駅がこのような駅舎だった。

知らずのうちにオレは新潟を都会と見なしていたようで、こんな駅に辿り着くと何だかホッとする。
あたりは寂しいものだ。
そして新潟という初めての都会に向かう気持ちが和んでくる。

2012年8月11日撮影

20:12 新潟駅(7月16日の長岡駅より701㎞)
想像の都会に田舎駅が建っていた。
新幹線の改札口は在来線と一緒で、よそよそしくない。

アルビレックス新潟の試合速報を構内放送で流している。
いいことだ。
それに今夜のアルビレックスはどうやら勝利したようだ。

2009年7月20日撮影

22:55 新潟東急イン902号室
再会した風景は懐かしいというより優しかった。
あれからの歳月の中で、用無しの烙印を押されたものも見かけなかった。

思えば今日は、過去とはずっと逆を行く旅だった。
そして初めての町にも立ち寄った。
様々なものが線でつながり、東京に帰ってからはしばらく退屈せずに済むだろう。

夕暮れ時の7号国道は忘れがたい。
明日のルートは10年どころじゃない過去を辿るものになるかもしれない。
地図を眺めれば、どのルートもいい。
明日があってよかった。

昨日長岡を出て、こうして新潟まで戻ってきたけど、その間には700㎞の旅があった。

新潟市内は初めてなわけじゃない。
あれももう10年以上前。
まだ旅を始める前の話だ。
正月の3日にブラザーと呼ぶ男と立ち寄ったんだ。

万代橋は覚えている。
他に覚えているのはひどい二日酔いで頭痛に苛まれていたこと。
楽しかったけど、彼との旅にはいつも寂しさが付きまとっていた。

万代橋は今じゃ文化財だという。
あの時渡った時は雨だった。
白く煙っていたような気がする。

今夜は星こそ出ていないが、満ちてはいない月が出て空気は澄んでいた。
橋の袂にキリンのビヤホールがあったっけ。

あらためて渡った新潟のシンボル橋は飾り気のない伝統的な姿をしていた。
橋のムコウには高い塔があって賑やかそうだ。
店の多くは閉まっていたけど、駅周辺に繁華街が集中するわけじゃなく、万代橋のあたりが昔ながらの盛り場なのだろう。
高級ホテルや三越が橋の袂にある。

途中、バスを待つ新潟美人と目が合った。
街に着いたら、せめてそれくらいの記憶は持ち帰りたい。
新潟スタジアム帰りのアルビレックス・サポーターを何人も見かけた。
それまでプロ・スポーツと縁を持たなかった新潟にとって、アルビレックスの存在は輝かしいものであるだろう。

ユニフォームには亀田製菓のロゴが印刷されている。
地図を広げたら亀田は近い。

このあたりの記憶はすべてが10年以上前のもの。
当時そこにいた人々はもう傍にはいない。
もう一度一緒にやろうっていうこともないだろう。
人生とはそういうものだ。

だけどオレは、さらなる縁をつなぎにこの街にやってきた。

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