*

「鉄旅日記」2007年皐月【夜汽車に乗って東京を離れ、山陰山陽へ。鉄旅最初の長旅でございました。】2日目(米子-福山)-松江、宍道、出雲横田、出雲坂根、備後落合、塩町、府中、福山城、福山(山陰本線/木次線/芸備線/福塩線)

公開日: : 最終更新日:2024/05/11 旅話, 旅話 2007年

鉄旅日記2007年5月4日・・・松江駅、宍道駅、出雲横田駅、出雲坂根駅、備後落合駅、塩町駅、府中駅、福山駅(山陰本線/木次線/芸備線/福塩線)
2007・5・4 10:21 松江駅(山陰本線 島根県)
大山が見たかった米子の朝。

8:07に通り過ぎた安来では、懸命に「安来節」を思い出そうとした。

街の大きさを見誤って、松江で2時間を過ごすことになった。

かつて2度の訪問はいずれも雨だったけど、3度目の正直の今日は晴れ。
昨日の親父からのメールを受けて、母親に電話を入れる。
そしてここ松江で正式に見合い話が決まった。

偶然一緒に降りた雲州娘が宍道湖大橋までの道連れ。
湖畔で大きく伸びをして風の強い街を歩いていく。

中海とをつなぐ運河に架かる橋に旅情を感じ、一度は駅に戻った。
だけど出雲市行は出たあと。

気を取り直して松江城に向かうバスに乗った。
松江城に興雲閣。
観光客は多い。


帰りはタクシーで駅まで。
運転手さんに街のことを聞くと、大人にはいいが、子供には退屈だと言う。
ただ街に対する誇りは感じられる。

「一畑」というブランドが松江にはある。
百貨店に、鉄道に、その冠がついている。

人情のいい街だ。
美人もまた多い。
鳥取、米子もそうだったが、自動改札は導入されておらず、笑顔の素敵な駅員さんが迎えてくれる街でもある。

ビールを飲みながら、次にくる益田行を待っている。

10:59 宍道駅(山陰本線/木次線 島根県)
宍道湖に沿う景勝路線で、湖と表情に愁いを帯びた出雲美人を眺めていた。

木次線へ。
広島へ。
計画とは違ったが、接続はいい。

涼し気な駅前から宍道湖は遠い。
地図を眺めるオレの横には、松江で見かけた時刻表を持つTシャツ姿の外人。

駅舎にはターミナル駅としての風格があった。
何やら車掌さんにケチをつけている男や、山登りの一団などを乗せてディーゼル車が間もなく発車する。

彼女にメールを送る。

12:48 出雲横田駅(木次線 島根県)
数分の停車。

13:17 出雲坂根駅(木次線 島根県)
スイッチバックと延命水の駅にはトロッコ列車が止まり、多くの鉄道ファンが集まり、そして乗り込んできた。

スイッチバック区間に差しかかり、車内が色めいている。
こうした雰囲気に乗り合わせるのは初めてだ。

鉄道にとっては尋常じゃない標高差を上がっていくわけだ。
出雲坂根駅が右下に見えた。

駅に残った人々はずっと列車の運行を見守っていたようだ。
手を振ってるよ。

車掌さんがさらに説明を加え、列車はあえいでいる。

13:59 備後落合駅(芸備線/木次線 広島県)
松江から一緒だった例の時刻表を抱えた外人は新見方面に去った。

東京で仕入れていた情報とは違う。
備後落合~備後西城間は台風の後遺症で、1月の高山本線の時のように代行バスが出ているはずじゃないのか。

普通に三次行が走っている。
復旧したのなら、それに越したことはない。

交通の要衝、備後落合は谷間の小集落だった。

木次線についで芸備線もまた険しい路線で、狭い崖上を速度を落として這うように進んでいる。

16:24 塩町駅(芸備線/福塩線 広島県)
ずいぶんと鄙びた駅に降り立ったものだ。
「福塩線」という線名の由来にもなっていることだし、てっきりターミナル駅かと思っていたが、たんなる分岐駅だった。

あたりに人里はあるが、商店はない。
一段高い位置にあるホームに降りた時には、駅舎すら持たない駅なのかと途方に暮れたけど、地下通路をくぐると駅舎内。

高校生がひとり待っている。
口笛だか鼻歌だかを発していたが、オレの姿を認めるとやめた。
礼儀正しい少年だと、その時思った。

駅舎を出て煙草を吸いながら身の振り方を考える。
でもいい案が浮かばない。
昼飯のアテもない。

そこへさっきの少年がいつの間に駅舎を抜け出していたのか、目の前を通りかかった。
丁重に聞いた。
ここで1時間半をつぶさなきゃならないが、何かアテはないだろうかと。

すぐの場所にはないが、セブンがあるという。
「セブン・イレブン」のことだ。
始終広島弁を喋ったいた少年がたった一言発した都会語だった。

そこまで案内してくれないかと頼むと、彼は快く引き受けて、共に川沿いの国道を往復40分歩いた。

庄原で生まれた彼は、塩町駅から坂を上がった場所にある高校に通う一年生で、バスケットボールをやっている。
そして黄金週間の今日も部活で学校に行っていたわけだ。

「オレも君の当時はそうだった。
剣道をやっていて休みなんかなかったよ」と、懐かしく話して聞かせた。
彼もいろいろな話を聞かせてくれたよ。

気になったのは、高校を卒業したら町を出るだろうと言ったこと。
そういうものなのかと応じた。
オレのような身勝手な旅行者は、できれば彼のような男には、生まれた町に残って、しっかりやっていってほしいと思う。

でも様々な情報を容易に手にできる現代人としては、ここでは得られない刺激を感じずにはいられないだろう。
またそれを感じずに老いていかなければならないのだとしたら、それはフェアじゃない。

セブンではビールや昼食を購入して、彼にも何でも好きなものをカゴに入れろと勧め、駅に戻り話を続けた。
無人だと思っていたが、委託されたのであろう老人が事務室から出てきて一瞥をくれる。

やがて少年を庄原に帰す列車の到着時間が迫ってきた。
彼と同じ高校に通う少年たちもちらほらと集まってきた。

「頑張れよ」と彼の肩を叩く。
ホームに上がった彼はケータイに目を落とす。

そうしていれば退屈はしないのだろうが、きっとその行為を退屈だと思っていたのだろう。
だからオレの正体も聞かずに仲良くしてくれたのだろう。

もともと性質のいい少年だったことは言うまでもない。
この旅の一番の思い出になることだろう。

あの少年はセブン・イレブンに案内するにあたり、彼の荷物はすべて駅に置いたまま歩き出した。
気にする風もない。
そして当然のごとく、駅に戻ると彼の所持品は手つかずに置いてある。

東京での想像とは違ってとても小さな町だったけど、人が暮らすうえで実に美しい町だった。

18:29 府中駅(福塩線 広島県)
福塩線は、さっき少年と歩いた川沿いの道と離れずに山陽に向かう。

たどっていく駅はどれも小さく、駅員の姿はほとんど見られない。
福山への直通列車はなく、三次を出たワンマンカーはことごとくが府中で折り返す。

学生の下校時間にあたるから乗客は多かった。

府中に着く。
首無し地蔵に、日本一の石灯篭がある街。

国府の名のついた古い街を歩く。
駅から少し離れたところにある古いアーケード街に営業している店はなかった。
そういう時間帯だったのか、あるいは祝日ということも事情に挙げられるのだろうか。

路地では幼い少女が自転車に乗って遊んでいる。
オレはたんなる古い街を歩いていたのか。
府中にいる間は何とも不思議な時間だった。

福山行に乗っている。
女子高生たちの語尾はまるで東京言葉。
塩町で出会った少年とはまるで違う。

塩町から府中までは約90分。
福塩線とは長大な距離を走る列車なのだと知った。
福山はまだ遠い。

府中は不思議な印象を残した。
飲み屋は一軒もと言っていいほど見かけなかった。
街の役割を思うと足りないものが多い気がして、現実の街を歩いている実感を持てなかったけど、見ていたのは確かに街だった。

19:31 福山城にて

22:16 福山プラザホテル201号
味のある大将の店でひとり飲んだ。
他に客はいなかった。

無口な男だった。
聞かれたことには答えるが、余計なことは喋らない。
注文されたものを揃えたら店の隅で船を漕いだりしている。

出されたものはすべてが美味く、スープ付きの湯豆腐を初めて食べた。

高倉健似の大将に、塩町で出会った少年。
今回の広島での思い出はそれだけでも構わないと思えるほど濃厚だった。

21:00に灯が消えた福山は、オレを誘いもせず、好きにしていろと広島弁で言った。
ヤクザがいたな。
花を抱えた者もいた。

この福山で、オレがこうしていることにもきちんと意味はあるのだろう。
そしてこの福山を故郷に持つ者を、オレは最高の友にしている。

島田雅彦さんの「無限カノン3部作」が止まらない。
そして彼女を想う。

メールを送りたいが、酔っている。
それが今夜の代償だというのなら、後悔する気はまったくない。

関連記事

「車旅日記」2005年春【松本から富山へ。今にして思えば、なぜこの旅を思い立ったのか思い出せないのでございます。】最終日(富山-岩瀬浜-糸魚川-松本)走行距離218㎞ その2-泊駅、越中宮崎駅、市振駅、糸魚川駅、頸城大野駅、小滝駅、平岩駅、白馬大池駅、安曇追分駅

車旅日記2005年4月30日・・・泊駅、越中宮崎駅、市振駅、糸魚川駅、頸城大野駅、小滝駅、平岩駅、白

記事を読む

「鉄旅日記」2011年夏【みちのくひとり旅】3日目(函館-鹿角花輪)-函館、木古内、湯ノ岱、江差、津軽新城、川部、深浦、能代、東能代、十和田南(江差線/津軽海峡線/奥羽本線/五能線/花輪線)

鉄旅日記2011年8月15日・・・函館駅、木古内駅、湯ノ岱駅、江差駅、津軽新城駅、川部駅、深浦駅、能

記事を読む

「鉄旅日記」2020年盛夏【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】3日目(肥前鹿島-門司港)その5‐肥前山口、久保田、西唐津、博多、門司港(佐世保線/唐津線/筑肥線/福岡市地下鉄空港線/鹿児島本線)

鉄旅日記2020年8月15日・・・肥前山口駅、久保田駅、西唐津駅、博多駅、門司港駅(佐世保線/唐津

記事を読む

「車旅日記」2005年初夏【長岡、会津、庄内。戊辰戦争ゆかりの地を巡りたかったのだと記憶しております。】2日目(山形-左沢-新庄-鶴岡-新潟)走行距離313㎞ その1-アパホテル山形駅前大通、羽前山辺駅、寒河江駅、左沢駅、柴橋駅、天童駅、村山駅、新庄駅、羽前前波駅

車旅日記2005年7月17日・・・アパホテル山形駅前大通、羽前山辺駅、寒河江駅、左沢駅、柴橋駅、天童

記事を読む

「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】2日目-友人夫婦と過ごした一日

車旅日記1996年5月4日 1996年5月4日の記憶 一夜明けた。 友人夫婦はそこでしっか

記事を読む

「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】最終日(速星-東京)その4‐藤枝、静岡、熱海、上野、北千住(東海道本線/常磐線)

鉄旅日記2020年3月22日・・・藤枝駅、静岡駅、熱海駅、上野駅、北千住駅(東海道本線/常磐線)

記事を読む

「鉄旅日記」2003年冬【ご縁と別れがあり、34歳の誕生日を北九州で迎えた日の記憶でございます。】最終日(博多-小倉-門司港-宇部)その2-門司港にて

鉄旅日記2003年2月16日 2003・2・16日の記憶 門司港行の鹿児島本線に乗る。 門司港レトロ

記事を読む

「鉄旅日記」2020年如月【東日本大震災で被害を受けた大船渡に泊まりにまいりました。山田線完全乗車も目指しておりましたが・・。】初日(東京-大船渡)その3‐多賀城、高城町、石巻、鹿又(仙石線/石巻線)

鉄旅日記2020年2月22日・・・多賀城駅、高城町駅、石巻駅、鹿又駅(仙石線/石巻線) 12:44

記事を読む

「鉄旅日記」2008年初秋【秋になると北陸に行きたくなるものでございます。能登半島をはじめ、いくつもの終着駅へと行き着いたのでございます。】最終日(福井-東京)-福井駅前、武生新、武生、大府、武豊、知多武豊、刈谷、安城、蒲郡、東京葛飾(福井鉄道福武線/北陸本線/東海道本線/武豊線)

鉄旅日記2008年9月15日・・・福井駅前駅、武生新駅、武生駅、大府駅、武豊駅、知多武豊駅、刈谷駅、

記事を読む

「鉄旅日記」2020年如月【東日本大震災で被害を受けた大船渡に泊まりにまいりました。山田線完全乗車も目指しておりましたが・・。】最終日(釜石-東京)その1‐釜石、遠野、宮守(釜石線)

鉄旅日記2020年2月24日・・・釜石駅、遠野駅、宮守駅(釜石線) 2020・2・24 5:39

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】初日(東京-砺波)その1 ‐金町、東京、黒部宇奈月温泉、新黒部(常磐線/北陸新幹線/富山地方鉄道本線)

鉄旅日記2020年11月21日・・・金町駅、東京駅、黒部宇奈月温泉駅

「鉄旅日記」2020年神無月【ツレと筑波山を訪ねたのでございます。関東に暮らす身にとりまして、高所に上がりますと平野の果てに浮かぶ筑波山はいつか登るべき山でございました。】-北千住駅、つつじヶ丘駅、女体山、男体山、筑波山頂駅、宮脇駅、筑波山神社、沼田バス停、つくば駅(つくばエクスプレス/筑波山シャトル/筑波山ロープウェイ/筑波山ケーブルカー)

鉄旅日記2020年10月4日・・・北千住駅、つつじヶ丘駅、女体山、男

「鉄旅日記」2020年初秋【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】最終日(高松-東京)その2 ‐茶屋町、岡山、倉敷、倉敷市、水島、常盤、栄、三菱自工前(宇野線/伯備線/水島臨海鉄道)/倉敷センター街、阿智神社、倉敷美観地区

鉄旅日記2020年9月22日・・・茶屋町駅、岡山駅、倉敷駅、倉敷市駅

「鉄旅日記」2020年初秋【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】最終日(高松-東京)その1 ‐高松港3番乗場、直島宮浦海の駅、宇野港、宇野駅(高松→直島宮浦フェリー/直島宮浦→宇野フェリー)

鉄旅日記2020年9月22日・・・高松港3番乗場、直島宮浦海の駅、宇

「鉄旅日記」2020年初秋【時空の友を訪ねて讃州高松へ。金比羅さん、瀬戸大橋、大歩危、小歩危などを友とめぐり、義仲寺に寄り、直島に渡り、水島臨海鉄道にも乗った4日間の記録でございます。】3日目(高松)その2 ‐金刀比羅宮、善通寺駅、高松港公園、八十場駅、白峰宮、天皇寺、磯禅師墓

車旅日記2020年9月21日・・・金刀比羅宮、善通寺駅、高松港公園、

→もっと見る

    PAGE TOP ↑