「車旅日記」2004年夏【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】3日目(宮崎-志布志-枕崎-鹿児島)走行距離382㎞その2-隼人駅、枕崎駅、開聞駅、指宿、鹿児島東急イン
車旅日記2004年8月13日・・・隼人駅、枕崎駅、開聞駅、指宿、鹿児島東急イン
2004・8・13 14:15 隼人駅(8月11日の佐賀空港より791㎞)
大隅半島南部。
廃線跡を見かけたよ。
確か鹿屋までは延びていた。
今は鉄道が走っていないことを正確に知ったのは、延岡で購入した地図を見た時だった。
道はなかなかに混んでいた。
風景は平板だし、言ってみれば浮かない気持ちでいたら、不意に桜島との出会いが訪れた。
散々暴れてきた荒々しい男の面相をしていた。
「昔からここにいたよ。オマエ、やっときたのか」。
そう言われているような気がしたよ。
山頂付近にうっすらとかかっているのが噴煙なのか雲なのか、オレには判別がつかない。
道を往き、桜島が真正面に見える地点までくると、目を見開き、あの厳つい大男の面相を嘗め回すように眺めた。
錦江湾には、まるで桜島が暴れだすのを監視するかのように、多くの漁船が浮かんでいた。
視界から桜島が姿を消すと、道はまた進まなくなる。
寄り道になるがここに寄ったのは、隼人という地名に魅かれたからだ。
日豊本線と肥薩線が合流する交通の要衝、隼人。
駅周辺はひっそりとして、飯を食わせる店は見当たらない。
でも駅舎が素晴らしい。
駅そばも弁当を売る店もないが、壁面は美しく竹で覆われ、丸に十文字の島津家の紋に続き、隼人駅と横書きで大書され、別に縦書きで隼人駅と墨書された木札がかかり、便所入口には男女の別を示すのに紺と茜の布がかかっている。
その涼しげな偉容は高級料亭も及びがたい。
車を止めてあたりを少し歩き、美味いラーメンを食わせる店に入った。
甲子園では福井高校と天理高校の試合が始まっていた。
2015年8月14日撮影
16:50 枕崎駅(8月11日の佐賀空港より881㎞)
隼人を出て10号海岸線を往く。
錦江湾に沿って国道と鉄道が並走するポイントだ。
晴天下に聳える雄大な桜島を横目で見ながら、またひとつ素晴らしい海岸線に出会えたことを喜んだ。
鹿児島の街中はたいしたものだ。
市電が行き交い、山形屋百貨店は威厳に満ちている。
あの界隈はまるで東京日本橋あたりのようで、市電の専用軌道と並行することから、やたらに道幅の広い交差点に戸惑いもした。
鹿児島中央駅から下ってくる道と交差する地点で、もう一度桜島を見る。
今夜はあのあたりで友人と酒を飲む。
南へ向かっていることを忘れていた。
北へ向かう時には明確にその意識があるのに、最南端に向かっていることを、なぜその地へ急いでいるのかを忘れかけていた。
そう、この駅に着くまでは。
無造作に丸太などが放置された寂しげな空地に、南の終着駅があった。
駅舎はもう何10年も使用されているような年代物で、白壁に瓦屋根という懐かし気な造りで、潮に錆びている。
売店は営業しているが、駅員の姿はなく、窓には風除けの板が打たれている。
台風の通り道にあたるからだろう。
ホームは砂っぽく、その先で枕木は朽ち、雑草が茂っている。
列車はもうここにはやってこないのではないか。
訝しそうな風情で、鈍い空の下、枕崎駅は南国の風に吹かれていた。
待合室には客の姿がある。
若い娘が薩摩隼人の末裔に膝を貸し面白がっている。
強い風が吹いた。
駅前には、本州最南端の終着駅枕崎と記された坊ノ岬の模型が置かれている。
この駅で行き止まりなわけじゃないが、もう行くなと言われている気がした最果ての南の町は、北の町よりも寂しく感じたよ。
2015年8月14日撮影
17:46 開聞駅(8月11日の佐賀空港より910㎞)
枕崎の鄙びた商店街を戻り、南薩道路に出ると鰹節の香りに包まれた。
南国の鄙びた夏の道にはいろいろな風景がある。
2人のお孫さんをリヤカーに乗せて国道を往く爺さん。
僅かに点在する集落。
所々に煙が上がり、夕暮れ時の切なさが空気を伝って流れてくる。
開聞岳が見えた時、焦りを忘れた。
この駅に着くまで、ずっと眺めていたよ。
富士山と同じような美しい姿を眺めていた。
そしてオレが暮らす町からはあまりにも遠い場所にそれはあった。
頂に雲がかかり流れている。
まるで山の神が常に新しい雲を呼び込んでいるかのようだ。
便所から出た時、静寂に包まれた開聞岳の麓で、今この瞬間がこの夏最高の思い出になるような気がしていた。
蝉の声の中にいる。
ここに駅舎はなく、ホームは草に覆われ、雨除けの庇だけが構造物として存在している。
次に列車がやってくるのはいつなのか。
時刻表らしきものを見た覚えはない。
2015年8月14日撮影
18:21 指宿駅(8月11日の佐賀空港より925㎞)
町に着いた。
砂風呂を売りにしている南の町。
きれいな駅だ。
隼人に指宿。
JR九州はなかなか粋な駅を造る。
指宿駅は黒い木目のシックな造り。
これも料亭で通る。
この街を知ったのは20年前。
全日本プロレスが指宿で興行を打ち、テレビ放送された。
「キングコング」ブルーザー・ブロディが暴れ、生中継で全国放送される中で、ジャンボ鶴田がニック・ボックウィンクルを倒してAWA世界王者になったシリーズのことだった。
今回の旅で、真っ先に行先として浮かんだ町だった。
待合室には旅行者が続々と戻り、鹿児島方面に向かう列車の到着を待っている。
駅前広場には椰子の植え込み。
オレは南の街にいる。
角の3階建ての廃ビルがやけに目立つ。
2015年8月14日撮影
20:00 鹿児島東急イン829号室(8月11日の佐賀空港より973㎞)
流れない道に苛立ちは募ったが、なかなか素敵な道中だった。
指宿を出るとすぐに桜島が見えた。
しばらく走ると鉄道と並走する海岸線になる。
そんな区間が断続した。
鹿児島市内の入口は明るく、街路灯も素敵な色をしている。
鹿児島中央駅への表示に従って左折すると今度は市電と並走する。
ひどい渋滞に悩まされたこの街じゃ、市電が一番まともに走る。
巨大な観覧車が見えた。
西鹿児島駅あらため、鹿児島中央駅はとても巨大だった。
今夜これから友人と酒を酌み交わす。
2015年8月13日撮影
関連記事
-
「鉄旅日記」2015年春【名鉄電車2DAYフリーきっぷで行く、中京旅】初日その2(東京-岩倉)-三河高浜、碧南、高浜港、亀崎、半田、知多半田、内海、富貴、河和(名鉄三河線/武豊線/名鉄河和線/名鉄知多新線)
鉄旅日記2015年3月7日その2・・・三河高浜駅、碧南駅、高浜港駅、亀崎駅、半田駅、知多半田駅、内海
-
「鉄旅日記」2013年春【青春18きっぷで、関東途中下車旅】その2-結城、下館、川島、岩瀬、笠間、十王、小木津、磯原、湯本、内原、羽鳥、土浦、ひたち野うしく(水戸線、常磐線)
鉄旅日記2013年3月31日その2・・・結城駅、下館駅、川島駅、岩瀬駅、笠間駅、十王駅、小木津駅、磯
-
「鉄旅日記」2019年師走【由利高原鉄道鳥海山ろく線に乗りにいきました。初冬の日本海は荒々しく、美しゅうございました。】初日(東京-酒田)その1‐金町、北千住、上野、高崎(常磐線/高崎線)
鉄旅日記2019年12月7日・・・金町駅、北千住駅、上野駅、高崎駅(常磐線/高崎線) 2019・12
-
「鉄旅日記」2020年盛夏【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】3日目(肥前鹿島-門司港)その2‐諫早、古部、島原港、島原船津、島原(島原鉄道)
鉄旅日記2020年8月15日・・・諫早駅、古部駅、島原港駅、島原船津駅、島原駅(島原鉄道)
-
「鉄旅日記」2013年春【青春18きっぷで、甲斐駿河途中下車旅】その1-新宿、初狩、笹子、酒折、善光寺、甲斐岩間、波高島、内船、芝川、西富士宮(中央本線、身延線)
鉄旅日記2013年3月3日その1・・・新宿駅、初狩駅、笹子駅、酒折駅、善光寺駅、甲斐岩間駅、波高島駅
-
「鉄旅日記」2020年睦月【秋田内陸縦貫鉄道に乗りにいきました。五能線の名所も歩いた旅初めでございます。】2日目(湯沢-鷹ノ巣)その2‐鯉川、東能代、岩館、深浦(奥羽本線/五能線)
鉄旅日記2020年1月12日・・・鯉川駅、東能代駅、岩館駅、深浦駅(奥羽本線/五能線) 10:19
-
「鉄旅日記」2018年春【伊那谷へ。長篠へ。安曇野へ。木曽へ。青春18きっぷを握ったそんな旅でございます。】初日(東京-岡谷-長篠-飯田)その1-国立、高尾、宮田、伊那八幡、三河東郷、新城、三河一宮(中央本線/飯田線)
鉄旅日記2018年4月7日・・・国立駅、高尾駅、宮田駅、伊那八幡駅、三河東郷駅、新城駅、三河一宮駅(
-
「鉄旅日記」2020年盛夏【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】初日(東京-防府)その3‐三滝、横川、宮島口フェリー乗場、宮島フェリー乗場、広電宮島口、宮島口(可部線/山陽本線/JR西日本宮島フェリー)
鉄旅日記2020年8月13日・・・三滝駅、横川駅、宮島口フェリー乗場、宮島フェリー乗場、広電宮島口
-
「鉄旅日記」2019年年始【雪が見たくて北へ向かいました。そして初めて仙台空港線に乗ったのでございます。】初日(東京-一ノ関)その3-米沢、福島、仙台、一ノ関(奥羽本線/東北本線)
鉄旅日記2019年1月5日・・・米沢駅、福島駅、仙台駅、一ノ関駅(奥羽本線/東北本線) 17:34
-
「鉄旅日記」2017年冬【会津へ。会津へ行きたかったのでございます。】最終日(喜多方-会津若松-会津高原尾瀬口-下今市-東京)その3-鬼怒川温泉、東武ワールドスクウェア、上今市、今市、下今市、南栗橋(野岩鉄道/東武鬼怒川線/東武日光線)
鉄旅日記2017年12月3日・・・鬼怒川温泉駅、東武ワールドスクウェア駅、上今市駅、今市駅、下今市駅