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「車旅日記」2004年夏 3日目(宮崎-鹿児島)走行距離382㎞その2-隼人駅、枕崎駅、開聞駅、指宿駅、鹿児島東急イン 【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】

公開日: : 最終更新日:2025/05/24 旅話, 旅話 2004年

車旅日記2004年8月13日・・・隼人駅、枕崎駅、開聞駅、指宿駅、鹿児島東急イン

2004・8・13 14:15 隼人駅(8月11日の佐賀空港より791㎞)
大隅半島南部。

廃線跡を見かけたよ。
確か鹿屋までは延びていた。
今は鉄道が走っていないことを正確に知ったのは、延岡で購入した地図を見た時だった。

道はなかなかに混んでいた。
風景は平板だし、言ってみれば浮かない気持ちでいたら、不意に桜島との出会いが訪れた。

散々暴れてきた荒々しい男の面相をしていた。
「昔からここにいたよ。オマエ、やっときたのか」。
そう言われているような気がしたよ。
山頂付近にうっすらとかかっているのが噴煙なのか雲なのか、オレには判別がつかない。

道を往き、桜島が真正面に見える地点までくると、目を見開き、あの厳つい大男の面相を嘗め回すように眺めた。

錦江湾には、まるで桜島が暴れだすのを監視するかのように、多くの漁船が浮かんでいた。

視界から桜島が姿を消すと、道はまた進まなくなる。

寄り道になるがここに寄ったのは、隼人という地名に魅かれたからだ。

日豊本線と肥薩線が合流する交通の要衝、隼人。

駅周辺はひっそりとして、飯を食わせる店は見当たらない。
でも駅舎が素晴らしい。

駅そばも弁当を売る店もないが、壁面は美しく竹で覆われ、丸に十文字の島津家の紋に続き、隼人駅と横書きで大書され、別に縦書きで隼人駅と墨書された木札がかかり、便所入口には男女の別を示すのに紺と茜の布がかかっている。

その涼しげな偉容は高級料亭も及びがたい。

車を止めてあたりを少し歩き、美味いラーメンを食わせる店に入った。

甲子園では福井高校と天理高校の試合が始まっていた。

2015年8月14日撮影

16:50 枕崎駅(8月11日の佐賀空港より881㎞)
隼人を出て10号海岸線を往く。
錦江湾に沿って国道と鉄道が並走するポイントだ。

晴天下に聳える雄大な桜島を横目で見ながら、またひとつ素晴らしい海岸線に出会えたことを喜んだ。

鹿児島の街中はたいしたものだ。
市電が行き交い、山形屋百貨店は威厳に満ちている。
あの界隈はまるで東京日本橋あたりのようで、市電の専用軌道と並行することから、やたらに道幅の広い交差点に戸惑いもした。

鹿児島中央駅から下ってくる道と交差する地点で、もう一度桜島を見る。
今夜はあのあたりで友人と酒を飲む。

南へ向かっていることを忘れていた。
北へ向かう時には明確にその意識があるのに、最南端に向かっていることを、なぜその地へ急いでいるのかを忘れかけていた。
そう、この駅に着くまでは。

無造作に丸太などが放置された寂しげな空地に、南の終着駅があった。

駅舎はもう何10年も使用されているような年代物で、白壁に瓦屋根という懐かし気な造りで、潮に錆びている。

売店は営業しているが、駅員の姿はなく、窓には風除けの板が打たれている。
台風の通り道にあたるからだろう。
ホームは砂っぽく、その先で枕木は朽ち、雑草が茂っている。

列車はもうここにはやってこないのではないか。
訝しそうな風情で、鈍い空の下、枕崎駅は南国の風に吹かれていた。

待合室には客の姿がある。
若い娘が薩摩隼人の末裔に膝を貸し面白がっている。

強い風が吹いた。
駅前には、本州最南端の終着駅枕崎と記された坊ノ岬の模型が置かれている。

この駅で行き止まりなわけじゃないが、もう行くなと言われている気がした最果ての南の町は、北の町よりも寂しく感じたよ。

2015年8月14日撮影

17:46 開聞駅(8月11日の佐賀空港より910㎞)
枕崎の鄙びた商店街を戻り、南薩道路に出ると鰹節の香りに包まれた。

南国の鄙びた夏の道にはいろいろな風景がある。
2人のお孫さんをリヤカーに乗せて国道を往く爺さん。
僅かに点在する集落。

所々に煙が上がり、夕暮れ時の切なさが空気を伝って流れてくる。

開聞岳が見えた時、焦りを忘れた。

この駅に着くまで、ずっと眺めていたよ。
富士山と同じような美しい姿を眺めていた。
そしてオレが暮らす町からはあまりにも遠い場所にそれはあった。

頂に雲がかかり流れている。
まるで山の神が常に新しい雲を呼び込んでいるかのようだ。

便所から出た時、静寂に包まれた開聞岳の麓で、今この瞬間がこの夏最高の思い出になるような気がしていた。

蝉の声の中にいる。
ここに駅舎はなく、ホームは草に覆われ、雨除けの庇だけが構造物として存在している。

次に列車がやってくるのはいつなのか。

時刻表らしきものを見た覚えはない。

2015年8月14日撮影

18:21 指宿駅(8月11日の佐賀空港より925㎞)
町に着いた。
砂風呂を売りにしている南の町。

きれいな駅だ。
隼人に指宿。
JR九州はなかなか粋な駅を造る。

指宿駅は黒い木目のシックな造り。
これも料亭で通る。

この街を知ったのは20年前。
全日本プロレスが指宿で興行を打ち、テレビ放送された。
「キングコング」ブルーザー・ブロディが暴れ、生中継で全国放送される中で、ジャンボ鶴田がニック・ボックウィンクルを倒してAWA世界王者になったシリーズのことだった。
今回の旅で、真っ先に行先として浮かんだ町だった。

待合室には旅行者が続々と戻り、鹿児島方面に向かう列車の到着を待っている。

駅前広場には椰子の植え込み。

オレは南の街にいる。
角の3階建ての廃ビルがやけに目立つ。

2015年8月14日撮影

20:00 鹿児島東急イン829号室(8月11日の佐賀空港より973㎞)
流れない道に苛立ちは募ったが、なかなか素敵な道中だった。

指宿を出るとすぐに桜島が見えた。

しばらく走ると鉄道と並走する海岸線になる。
そんな区間が断続した。

鹿児島市内の入口は明るく、街路灯も素敵な色をしている。
鹿児島中央駅への表示に従って左折すると今度は市電と並走する。
ひどい渋滞に悩まされたこの街じゃ、市電が一番まともに走る。

巨大な観覧車が見えた。
西鹿児島駅あらため、鹿児島中央駅はとても巨大だった。

今夜これから友人と酒を酌み交わす。

2015年8月13日撮影

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