「鉄旅日記」2012年夏【青春18きっぷで、北海道途中下車旅】3日目(室蘭-岩見沢)-室蘭、苫小牧、鵡川、静内、様似、追分、夕張、新夕張、清水沢(室蘭支線、室蘭本線、日高本線、石勝線、夕張支線)
鉄旅日記2012年8月13日・・・室蘭駅、苫小牧駅、鵡川駅、静内駅、様似駅、追分駅、夕張駅、新夕張駅、清水沢駅(室蘭支線、室蘭本線、日高本線、石勝線、夕張支線)
2012・8・13 6:12 室蘭(むろらん)駅(室蘭本線室蘭支線 北海道)
鉄の町にお別れを。
昨夜は営業を終了していた室蘭。
行き交う車もなく、店の灯も落ち、オレの腹の具合もよくはなかった。
隣の母恋駅から歩こうかとも思っていたが、断念した。
そんないくつかの諦めがあった室蘭での夜。
この街には申し訳ないけど、気分的に少しくさっていたよ。
大漁旗が掲げられた中央商店街。
前回寄った回転寿司屋。
地球岬からの眺めは忘れてしまったけど、街並は覚えていた。
ホテルミリオンの向かいに聳えるペンキの剥がれた建物に既視感を抱いた。
即座に子供の友人家族が暮らしていた町一番のコーポと記憶がつながり、懐かしさでしばし仰いだ。
ホテルの働き者のおかみさんには世話になった。
朝食の時間を繰り上げてオレのために別メニューを用意してくれたんだ。
洗面所周りがひどく狭く、窓のない殺風景な部屋を割り当てられたが気にしない。
今朝は小雨のスタート。
すでに汽車の中。
3両編成でワンマン運転とはJR北海道の苦闘の様子が垣間見えるようだ。


8:00 苫小牧(とまこまい)駅(室蘭本線/日高本線/千歳線 北海道)
全国制覇の街だ。
そう言えば昨日、オレが最も応援する京都代表、龍谷大平安は旭川工業相手に9回裏ツーアウトランナーなしから2点差を追いつき延長戦の末に初戦を突破した。
苫小牧は王子製紙の街でもある。
室蘭でも苫小牧でもテレビじゃロンドン五輪の閉会式。
最終日。
ボクシング、レスリングで金メダルを獲得して日本勢は大会を締めた。
メダル獲得総数は38。
やるもんだ。
しかし政治が恥ずかしい。
閑散としているかと思いきや日高本線の座席は埋まっている。
旅行者が多い。
その大半とはおそらく行き帰りとも呉越同舟となるだろう。
小雨の街を錆びた階段を上がり駅への連絡橋に足を踏み入れると、そこには無人の通路。
繁華街はどこにあるのか。
旅が続くのならやがてまた訪れて宿をとることがあるだろう。
原野を往くが如く日高へ。

8:35 鵡川(むかわ)駅(日高本線 北海道)
牧場が見え、背後の広大な土地を認めるとそこは北海道。
かつて鵡川から甲子園に行った少年たちがいたことをオレは覚えている。
駅前に商店などの営業施設はなく、苫小牧行を待つ人の列は決して短くない。
雨はやまない。

9:51 静内(しずない)駅(日高本線 北海道)
苫小牧から終点の様似までは3時間かかる。
羽田那覇間に匹敵する時間だ。
静内には寄ったことがある。
清潔なカフェはそのままで乗客もかなり下りた。
雨は強くなり涼しいがビールが飲みたくなり一本。
どうでもいいが、村上春樹さんが描く小説の登場人物はよくビールを飲む。
同席の紳士はラフななりをしているが、どこかの企業でそれなりの地位を得ている人物のような知性を表情に浮かべている。
ミスター・ビーンにとてもよく似ている。
海辺の絶景ポイントでカメラを構え、舌打ちするかのように顔を歪めるところなどそっくりだ。
とても豊かな表情の持ち主だ。
静内が海辺の町だったという認識はなかった。
町を離れると海と牧場。
おそらく今までの人生で目にしてきた馬の数と同等の頭数を刻んで東京に帰ることになるだろう。

11:57 様似(さまに)駅(日高本線 北海道)
海と馬と牛と草原と。
馬という動物に馴染みのない人生だったが、あれだけ多くの立ち姿に接して、美しく凛々しい姿であることを知った。
人類が手本とすべき姿を有する愛すべき存在だ。
かつて襟裳岬に行ったのも真夏だった。
じりじり焼けてくるような日差しを浴びた記憶がある。
そのあとにここに寄ったんだ。
駅そのものの印象も違う。
今日は生憎の雨だが、当時ざわついていたように記憶している駅に人の姿はなく、周囲にやたらと廃屋が並ぶひどくうらぶれた駅だった。
アボイ岳も姿を隠している。
ビールだけは美味かった。
白川道さんの小説「天国の階段」に描かれた絵笛の景色は秀一だった。
目に鮮やかな黄色の花が目に焼き付いている。
苫小牧に戻る汽車はすでに動き出している。


16:33 追分(おいわけ)駅(室蘭本線/石勝線 北海道)
苫小牧に戻り、室蘭本線岩見沢方面へ乗り換え。
本降りの雨。
歪んだ道に溜まりができている。
東京じゃ同じような場所を年に一度は掘り返しているが、全国共通の現象ではないようだ。
雨だと虫がいなくていい。
こんな日に連中はどうしているのか。
接続がうまくいっていない。
この駅の発車は10分遅れ。
また降りるべき駅をひとつ失いそうだ。
道内ではおそらく本州ほど時刻遅れは深刻な事態ではないのだろう。
理解に苦しむほどじゃない。
開業120周年の追分駅は大鉄道駅だった。
下りた町は、町と呼ぶことに疑問符はつくが、本州のありふれた駅のようで、ホテルが一軒あったのと交差点のムコウに函館を思わせる坂が伸びていたことを除けば印象に残ったものはない。
あと、川を渡ったな。
川の名は忘れた。

18:08 夕張(ゆうばり)駅(石勝線夕張支線 北海道)
雨はやまない。
ただ明日は道内全域晴れだと酒屋の亭主が断言してくれた。
2度目の夕張。
そうだったよ。
冗談みたいな小さな駅を出るとホテルマウント・レースイがある。
一昨年だったかの「全国おかみさんサミット」はあそこでやったのだろう。
さぞかし騒々しい一日だったことだろうが、会の主旨には賛同している。
財政破綻で騒がせた旧炭鉱の都。
国が負った負の遺産そのものだが、責任の所在をくらます例の手法がとられ、誰が悪いのか皆目分からない。
同じような犠牲は今後も増えるだろう。
責任者が明確なら罰を与えるべきだ。
迷惑を被るのは増税くらいにとどめてほしい。
駅横の屋台村には気持ちをそそられた。
でもオレは紅葉山に行くよ。
夕張は雰囲気のある土地だ。
紅葉山、沼ノ沢、清水沢、鹿ノ谷と谷だの沢だのと、どこかおどろおどろしい地名が続く。
清水沢ではもうすぐ祭だ。
温泉旅館のような駅横に舞台が整いつつある。
流れる雲、豪壮な水の流れ。
人類以外の何者かが支配していそうな土地だ。
それはおそらく神でもない。
かつて訪れて人ひとりいない場所に車を止めて外に出た際、得も言われぬ恐怖を感じてすぐに車に戻ったことがあるんだ。
思い出したよ。
夕張には引き寄せられる。
これが最後じゃないだろう。
たぶん、
おそらく、
きっと。

18:49 新夕張(しんゆうばり)駅(石勝線/夕張支線 北海道)
紅葉山で記憶を紐解き、当時感じた雄大さを再び収める。
祭は夕張全山同時開催のようだ。
階段下にやはり舞台ができている。
アナウンスに誘われ再び夕張への道を引き返す。
満足をひとつ取り戻す。



19:33 清水沢(しみずさわ)駅(夕張支線 北海道)
再び夕張方面の列車に乗る。
旅にクライマックスは必ずある。
清水沢で下りてそんな感慨に耽っている。
列車を待っていると振興会館から「ばちさばき」の音が聞こえてくる。
構内には夕張と室蘭の関係についての展示があり、日本人として知っておくべきことがそこには記されていた。
川崎のように室蘭も工場夜景を売りにしているらしい。
製鉄は昼夜操業か。
リスペクトはある。
時代が終わった夕張清水沢で酒屋を求め歩き、見つけところにたまらなく好きな通りがあった。
お孫さんを連れた老婦人が「おばんです」と挨拶をしてくれる。
酒屋の亭主が「お盆が過ぎたら涼しくなるからねえ」と笑いかける。
人懐っこい夕張人に触れて足取りも軽く祭の音がする方へと歩いていった。
そのドンツキに大きな宴会酒場があった。
スナックも灯を入れている。
きっと車寅次郎も何度となく商売をしに訪れたことだろう。
そんな町だったよ。
この旅でのマイナス要素はすべて忘れた。
夕張には必ず戻る。
酒を飲みに必ず戻ってくるよ。




関連記事
-
-
「車旅日記」2006年皐月 5日目(青森-安達)その2-宮古駅、吉里吉里駅、盛駅、大船渡駅、気仙沼駅、女川駅、石巻駅、利府駅、道の駅あだち 【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】
車旅日記2006年5月6日・・・宮古駅、吉里吉里駅、盛駅、大船渡駅、気仙沼駅、女川駅、石巻駅、利府駅
-
-
「車旅日記」2006年皐月 4日目(大曲-青森)その2-弘前駅、道の駅つるた、毘沙門駅、津軽中里駅、三厩駅、中小国駅、駅前ホテルニュー青森館 【東京から出かける最後の車旅。関東、東北を2,265㎞走った記録でございます。】
車旅日記2006年5月5日・・・弘前駅、道の駅つるた、毘沙門駅、津軽中里駅、三厩駅、中小国駅、駅前ホ
-
-
「鉄旅日記」2022年皐月 初日(東京-磐梯熱海)その4 ‐関都、猪苗代湖畔、上戸、磐梯熱海(磐越西線)/志田浜~上戸浜/伊東園ホテル磐梯向滝【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】
鉄旅日記2022年5月7日・・・関都駅、猪苗代湖畔駅、上戸駅、磐梯熱海(磐越西線)/志田浜~上戸浜
-
-
「鉄旅日記」2019年師走 最終日(酒田-東京)その4‐水上、高崎、籠原(上越線/高崎線) 【由利高原鉄道鳥海山ろく線に乗りにいきました。初冬の日本海は荒々しく、美しゅうございました。】
鉄旅日記2019年12月8日・・・水上駅、高崎駅、籠原駅(上越線/高崎線) 18:36 水上(みな
-
-
「鉄旅日記」2020年文月 初日(東京-香住)その3‐米原、京都、梅小路京都西、丹波口、花園(東海道本線/山陰本線) 【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】
鉄旅日記2020年7月23日・・・米原駅、京都駅、梅小路京都西駅、丹波口駅、花園駅(東海道本線/山
-
-
「鉄旅日記」2007年如月 初日(東京-天王寺)-東京、名古屋、大垣、米原、草津、柘植、京都、木津、京橋、天王寺(東海道新幹線/東海道本線/草津線/奈良線/学研都市線/大阪環状線) 【初日天王寺、2日目奈良。宿泊地だけを決めて、心のままに移動した記録でございます。】
鉄旅日記2007年2月10日・・・東京駅、名古屋駅、大垣駅、米原駅、草津駅、柘植駅、京都駅、木津駅、
-
-
「鉄旅日記」2009年皐月【四国へ、途中下車の旅】4日目(高知-宇和島)-高知、朝倉、伊野、斗賀野、須崎、窪川、中村、宿毛、宇和島(土讃本線、土佐くろしお鉄道中村線/宿毛線、予土線)
鉄旅日記2009年5月4日・・・高知駅、朝倉駅、伊野駅、斗賀野駅、須崎駅、窪川駅、中村駅、宿毛駅、宇
-
-
「鉄旅日記」2019年年始 初日(東京-一ノ関)その3-米沢、福島、仙台、一ノ関(奥羽本線/東北本線) 【雪が見たくて北へ向かいました。そして初めて仙台空港線に乗ったのでございます。】
鉄旅日記2019年1月5日・・・米沢駅、福島駅、仙台駅、一ノ関駅(奥羽本線/東北本線) 17:34
-
-
「鉄旅日記」2006年新春-馬橋、流山、幸谷、新松戸、佐貫、竜ケ崎(常磐線/総武流山電鉄/関東鉄道竜ヶ崎線)【雪の降った翌日。近くのローカル線に乗りに出かけました。】
鉄旅日記2006年1月22日・・・馬橋駅、流山駅、幸谷駅、新松戸駅、佐貫駅、竜ケ崎駅(常磐線/総武流
-
-
「鉄旅日記」2009年初夏【上信越ひとり旅】2日目(十日町-長岡)-十日町、戸狩野沢温泉、長野、松本、信濃大町、南小谷、直江津、柿崎、長岡(飯山線/篠ノ井線/大糸線/北陸本線/信越本線)
鉄旅日記2009年7月19日・・・十日町駅、戸狩野沢温泉駅、長野駅、松本駅、信濃大町駅、南小谷駅、直
