「鉄旅日記」2012年夏【青春18きっぷで、新潟・みちのくひとり旅】初日(東京-横手)-郡山、津川、亀田、さつき野、水原、坂町、村上、あつみ温泉、鶴岡、余目、刈和野(東北本線、磐越西線、信越本線、羽越本線、陸羽西線、奥羽本線)
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最終更新日:2023/04/25
旅話 2012年
鉄旅日記2012年8月11日
2012・8・11 9:35 郡山(こおりやま)駅(東北新幹線/東北本線/磐越東線/磐越西線 福島県)
東北のウィーン、楽都郡山。
オレが知っていた郡山の冠は、昔Ecさんが教えてくれた東北のシカゴ。
かつて喜多方ラーメンに舌鼓を打ったホームの「駅そば」は消え、すぐに慣れたが街に降りた時には何か人体に悪影響を及ぼしそうな異臭を嗅いだ。
原発の影響か?
オレにも偏見なんてものがあるのかと訝ったが、あればここにはいない。
会津に向かう列車が混んでいる。
オレも磐梯山が見たい。
生涯の友人、Eさんとの再会から一年。
オレからの返事が遅れているが、彼から達筆な便りが届いた。
郡山には何度となく降りてきた。
でも去年を除けばそのすべてが10年以上昔の出来事で、街並にもEさんの結婚式前夜に立ち寄ったステーキを食わせる店にも、居留守を使われたような余所余所しさを覚えた。
来年のプロ野球オールスター・ゲーム招致に動いている開成山球場。
オレは今でもそこまで歩いていけるだろうか。
素敵な夜もあった。
あの女性の連絡先を聞けずに分かれて、その夜も翌日も、しばらく切ない日々だったように記憶している。
何もかもが積み重ねだ。
そしてこうして今も生きている。
12:33 津川(つがわ)駅(磐越西線 新潟県)
狐の嫁入りの町の昼下がり。
蜩の声を今夏初めて聞く。
休日出勤のOくんと懸案事項を電話で話しながら阿賀野川岸に出ると、赤い橋が架かった風景に出くわした。
初めての旅路に見た風景がそこにあった。
おそらく喜多方あたりまで右側に見えていたゴツゴツした山が磐梯山だったんだろう。
隣席の幼い少女の口から“エンヤー会津磐梯山は宝の山”の節が聞こえてくる。
広大な会津藩領はここ津川を含む。
そして幕末戊辰戦争における防衛線は伸び、若松に悲劇が降った。
もはや遠くなった会津盆地は白く霞んでいた。
阿賀野川の写真が撮れたことを喜んでいる。
昨日までの東京の暑さはここにはない。
13:32 亀田(かめだ)駅(信越本線 新潟県)
甲子園の常連になった新潟明訓は今夏も出場を果たす。
その喜びを表す横断幕が迎えた。
遠くに見えた白く波打つ巨大な造形物はアルビレックス新潟の本拠地か。
スポンサーの亀田製菓の姿は見かけなかった。
亀田祭り開催を告げるポスターが下がる駅の乗降客は多く、車窓を緑に染めた新潟平野もここからじゃ見えない。
新潟の街に近づくにつれて殺風景になる。
そして寂しい気持ちが不意に去来する。
13:51 さつき野(さつきの)駅(信越本線 新潟県)
1駅戻る。
駅前には焼鳥屋が一軒。
どんよりと曇った空の下、暑い空気が張り付いている。
住宅地に駅があるのは当然として、この町の住民には悪いが、この町で降りて、いろいろ探し歩いたとしても面白みを発見できる自信を持てない。
ここに僅かな時間存在できた喜びならある。
ただこんな曇の日には寂しさもつきまとう。
15:01 水原(すいばら)駅(羽越本線 新潟県)
新津駅で乗り換え。
幕末会津の物語を読むまでこの町を知らなかった。
会津藩の飛び地として北陸戦線の前線基地となり、やがて撤退。
阿賀野市の地図に代官所跡があった。
駅前の一本道を行くと古い大衆食堂、美容室とケーキ屋が並んだ古くて洒落た一角があり、時計屋、タクシー会社。
飲み屋は見かけず、ビールを売る店を見つけられない町だったけど、何がしかの住民の意思は見えた。
そうそう、病院もあった。
駅にも風格があり、乗降客も多く、羽越本線の特急も停車するようだ。
ふと風景に目をやると、なぜ今オレはこんな場所にいるのかと思うが、ひとまず水原で良かったと思う。
ロンドン五輪サッカー三位決定戦の結果が気になる。
有楽町の街頭テレビに見入る人々。
そんな光景が現出されたロンドンの世界祭典もこの旅の途中で終わる。
16:16 坂町(さかまち)駅(羽越本線/米坂線 新潟県)
数分の停車。
いくつもの線路が剥がされた広い駅構内。
今も米沢に向かう路線と交わるターミナル駅だが、かつてここには何があったのか。
町では上質を連想させる旅館、寿司屋が出迎え、一本道は果てしない。
かつてオレはあのムコウからやってきた。
本から風景に目を移すと清々とした田園風景。
県境が近くなり乗客は減った。
17:03 村上(むらかみ)駅(羽越本線 新潟県)
ここでは長く停車する。
鮭といで湯の城下町。
最初の旅で落日を眺めた瀬波温泉は恋人たちの聖地を謳う。
オレもまたあの場所に一度だけ風景に紛れたことがあるが、そんな心持でたたずんだものだ。
ささやかに蜩の声が聞こえる駅頭で酒と握り飯を3つ。
村上駅の便所はとてもきれいだった。
そして、、、海だ!
あれは佐渡か?
18:09 あつみ温泉(あつみおんせん)駅(羽越本線 山形県)
海岸線に出るとうれしくて席を移動する。
夕暮れ国道と並走。
温海での思い出話は「こけし」だ。
照れくさいことをして想いを伝え、そして何事かを重ね、今を生きている。
素晴らしいじゃないか。
だから今のオレなりにこの夕日を伝えるだろう。
ここでも数分の停車。
今年も若い女性の一団が乗ってきた。
駅は閑散として職員の姿もないが、温海温泉を支持する層がああいった女性たちであることが、なんだかオレを誇らしい気持ちにさせている。
車窓からの夕景
18:55 鶴岡(つるおか)駅(羽越本線 山形県)
庄内の城下町の日が暮れて、品のいい明かりが灯っていた。
駅の姿を写真に収めて便所に行ったら僅かな時間が尽きたけど、旅を続けていればそのうちここにも泊まることになるだろう。
社会的にもオレにとっても鶴岡はそういう街だ。
19:18 余目(あまるめ)駅(羽越本線/陸羽西線 山形県)
とうとう降りた。
この庄内のターミナル駅に。
月山山頂のまち、か。
朝市会場は円盤の下にあり、和装の余目ホテルでは食事の支度が整っている。
もう少し時間が欲しかった。
4日後にもう一度通るが、さらに時間はない。
ここ余目で陸羽西線に乗り換え。
接続に猶予はあまり与えられていない。
22:51 刈和野(かりわの)駅(奥羽本線 秋田県)
新庄で奥羽本線に乗り換え。
ある物語に魅せられて22:15に着いた町。
川上健一さんの「祭り囃子がきこえる」で描かれた刈和野。
幻の大にいちゃんが帰ってきた町。
物語は、現在もこの町で続いている日本一の大綱引きを題材にしたもの。
駅横にその巨大な姿が展示されている。
勝負は毎年長期戦になり、倒れる者も出る壮絶極まる一年の行事だという。
そんな土地で関東では見られない吸血族と闘いながらひとり横手に戻る列車を待っている。
客室灯の消えた回送列車が通り過ぎる。
まるで幽霊列車だ。
秋の虫の声を聞くのもこの季節。
東北の短い夏はすでに終局に近づき、刈和野は涼しかった。
歩いていて長野の田舎で嗅いだ朝餉の香りにふと立ち止まった。
見上げれば星がきれいだ。
一軒だけ開いていた飲み屋は近寄りがたく、貧相な食事で済ませた初日。
暑いには暑いがビールを欲っしなかった。
独り者のままだったら寄りつかなかったであろう刈和野。
夜更けに異郷の寂しい駅にひとりでいたことはさすがのオレにもなかったよ。
孤独という言葉は今のオレにはない。
跨線橋に旧駅舎のこじんまりとした姿を写した写真が飾ってあった。
商工会が一枚噛んだ現駅舎には町一番のレストランも入っていた。
オレが歩いた通りが綱引き会場なんだろう。
真相を知らぬまま死んでしまうかもしれないが、知りたかったことはそのことじゃないんだ。
刈和野という地名に反応する人生になったことをオレは喜んでいる。
横手に向かう列車が賑わっていて、秋田美人の車掌に休む暇を与えない。
秋田でこんな時間にこんなに混んでいるものだとはまったく思っていなかった。
オレはまた去年の鹿角花輪のように、ひっそりと街に着くものだとばかり思っていたよ。
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