「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】2日目(香住-東萩)その1‐香住、柴山、餘部(山陰本線)
鉄旅日記2020年7月24日・・・香住駅、柴山駅、餘部駅(山陰本線)/余部鉄橋
2020・7・24 6:26 香住(かすみ)駅(山陰本線 兵庫県)
日本海と言えば松場蟹。その町で酔った。
素敵に内装された店でカルパッチョとイカの刺身。
ここらじゃイカを食べるもんだよ。かつて入った城崎の寿司屋で勧められたことを思い出す。
正直こう思ったものだ。「イカかよ」。
でも食べてみると、それまでに東京をはじめとした地で食べてきたイカとは明らかに違う食べ物で、以来イカの地位はオレの中で飛躍的に向上して、スーパーで売っているイカもよく食べている。
入ったお店も泊まったお宿も家族経営で、かわいらしい少女がまずはじめに挨拶をくれた。
お宿の若主人の話す言葉は柔らかく、これまでに聞いたどの関西弁とも違っていた。館内はうっすらと香が薫り、最初の目覚めで起き上がった。ほのかにヒグラシの声が聞こえた。
少し方向感覚を失っていたようだ。外に出るまで線路を挟んで海側にいたことにまるで気づいていなかった。
浜辺までは歩いて約5分。人気のない海辺でスサノオに祈りを。そして毎朝の祈りを。
駅にいる。一番列車の到着が近づき、多くの青少年が集まってきた。今日は海辺に沿って進んでいく。
7:07 柴山(しばやま)駅(山陰本線 兵庫県)
豊岡方面にひと駅戻る。
地図を見て海辺の村だと知っていた。駅前に立派なホテルがある。海辺に下りていく途中にも清潔なたたずまいの宿があり、海辺に面してはいくつか並び、蟹料理を謳う。
時に銃砲声のような響きが轟き、柔らかな雨が降る。
丹生大明神に詣でて、さらに祈りを。
海辺ではスサノオに。
祈りは深まり、名の知らない鳥の飛行を目で追う。
恋人に自撮りした写真を送った。この静かな村で過ごした朝を愛している。
8:11 餘部(あまるべ)駅(山陰本線 兵庫県)
ここには7:39に着いている。天空の駅は様変わりしていた。
余部橋梁が付け替えられたことは知っていた。貴重な文化遺産の喪失を悲しんだが、保存のきく大きさじゃない。それでも再訪を心待ちにしていた。
旧橋脚とそこに乗る線路は部分的に残されて、空の駅として開放されている。広場にはかつての余部橋梁の姿が残されている。
人工的なものかと錯覚するほどに鴬は鮮やかに鳴き、静かに雨は降る。
クリスタルタワーを伝って人々が上がってくる。そこから駅までの距離を線路に沿って歩くことができる。何度も行き来したよ。そしてしばらくそこにいる。
あのエレベーターは使わず、下界には道を伝って下りた。
海辺には小さな集落がある。断崖を伝うような道があり歩いたが、ほどなくして行き止まり。
橋を見上げる他にやるべきことを思いつけない。いつまでもそうしていた。
かつての姿を覚えている。丹後を過ぎて、たまたま通りかかったんだ。
威容に驚き、すぐそばにあった喫茶店に車を止めた。その店はもうなかった。そしてその旅の途中で、余部橋梁が印刷されている絵葉書を探した。
2度目は夜だった。闇の中で巨大な存在感を放つ姿を覚えている。
さっき下ってきた道を上がり、駅にたどり着いたかつて。当時も駅舎はなく、当然のように人気はなく、ここじゃないどこかの惑星に存在する銀河鉄道の停車駅のようだった。
次に列車が止まるのはいつだろう。それが例えば今夜でも明日じゃなくても不思議に思えないような現実離れした存在に映った。
断片的な映像しか覚えていないが、昭和の頃に放送されたNHKの番組で、吉永小百合さん主演の「夢千代日記」の冒頭に当時の余部橋梁が登場すると母から聞いたことを思い出した。
離れがたい場所だが、時間がきた。8:38鳥取行に乗る。
関連記事
-
「車旅日記」2000年春【一年のブランクを経て、旅再開。出発場所は東京町田から、下町葛飾へと変わっております。】初日(東京‐足利‐鬼怒川‐会津若松‐新潟豊栄)その2‐足利郊外ポテチーノ、下今市駅、鬼怒川ホテルニュー岡部、上三依塩原駅、会津若松駅、津川町、道の駅豊栄
車旅日記2000年5月3日 15:12 293号国道‐足利郊外ポテチーノ 108㎞ 繁華街を抜け
-
「鉄旅日記」2020年卯月【緊急事態宣言発令直前のことでございます。常磐線全線運転再開を祝して人知れず旅に出たのでございます。】最終日(新津-東京)その2‐会津若松、郡山富田、喜久田、郡山(磐越西線)
鉄旅日記2020年4月5日・・・会津若松駅、郡山富田駅、喜久田駅、郡山駅(磐越西線) 9:07 会津
-
「鉄旅日記」2009年秋【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】初日(東京-新山口)その1-金町、北千住、東京、岡山、笠岡、尾道、糸崎、入野(常磐線/山手線/東海道・山陽新幹線/山陽本線)
鉄旅日記2009年9月18日・・・金町駅、北千住駅、東京駅、岡山駅、笠岡駅、尾道駅、糸崎駅、入野駅(
-
「鉄旅日記」2019年年始【雪が見たくて北へ向かいました。そして初めて仙台空港線に乗ったのでございます。】最終日(一ノ関-東京)その2-本吉、柳津、前谷地、石巻、宮城野原、仙台空港(気仙沼線/石巻線/仙石線/仙台空港鉄道仙台空港線)
鉄旅日記2019年1月6日・・・本吉駅、柳津駅、前谷地駅、石巻駅、宮城野原駅、仙台空港駅(気仙沼線/
-
「鉄旅日記」2008年初夏【まほろばの路から紀州へ。紀伊半島で過ごした短い夏の記憶でございます。】2日目(和歌山-松阪)その2-串本、新宮、尾鷲、紀伊長島、三瀬谷、多気、松阪(紀勢本線)
鉄旅日記2008年7月20日・・・串本駅、新宮駅、尾鷲駅、紀伊長島駅、三瀬谷駅、多気駅、松阪駅(紀勢
-
「鉄旅日記」2007年如月【初日天王寺、2日目奈良。宿泊地だけを決めて、心のままに移動した記録でございます。】初日(東京-天王寺)-東京、名古屋、大垣、米原、草津、柘植、京都、木津、京橋、天王寺(東海道新幹線/東海道本線/草津線/奈良線/学研都市線/大阪環状線)
鉄旅日記2007年2月10日・・・東京駅、名古屋駅、大垣駅、米原駅、草津駅、柘植駅、京都駅、木津駅、
-
「鉄旅日記」2020年盛夏【コロナ禍の内緒旅VOl.2。宮島へ。錦帯橋へ。筑豊へ。島原へ。千綿駅へ。そして若松~戸畑の渡船。日本晴れの4日間の記録でございます。】3日目(肥前鹿島-門司港)その1‐肥前鹿島、肥前大浦、長里、湯江(長崎本線)/鹿島城跡
鉄旅日記2020年8月15日・・・肥前鹿島駅、肥前大浦駅、長里駅、湯江駅(長崎本線)/鹿島城跡
-
「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】2日目(高山-速星)その2‐中滑川、滑川、猪谷、宇奈月温泉、宇奈月、寺田(富山地方鉄道本線)
鉄旅日記2020年3月21日・・・中滑川駅、滑川駅、宇奈月温泉駅、宇奈月駅、寺田駅(富山地方鉄道本線
-
「鉄旅日記」2016年春【東日本大震災被災地へ】最終日(水沢-東京)その1-水沢、花巻、遠野、陸中大橋、小佐野、釜石、恋し浜、盛(東北本線、釜石線、三陸鉄道南リアス線)
鉄旅日記2016年3月6日その1・・・水沢駅、花巻駅、遠野駅、陸中大橋駅、小佐野駅、釜石駅、恋し浜駅
-
「鉄旅日記」2009年皐月【四国へ、途中下車の旅】2日目(三ノ宮-琴電琴平)-三ノ宮、元町、和田岬、兵庫、須磨、西明石、加古川、網干、上郡、和気、高松、志度、琴電屋島、瓦町、一宮、琴平(山陽本線、和田岬支線、瀬戸大橋線、予讃本線、高徳本線、琴平電鉄志度線、琴平電鉄琴平線)
鉄旅日記2009年5月2日・・・三ノ宮駅、元町駅、和田岬駅、兵庫駅、須磨駅、西明石駅、加古川駅、網干