*

「車旅日記」1998年夏【20代最後の旅でございます。青森港から北海道上陸を目指して北へ向かったのでございますが・・・。】初日(東京-青森フェリー埠頭)-東京町田、加平PA、千代田PA、東海PA、差塩PA、福島松川PA、泉PA、金成PA、北上金ヶ崎PA、岩手山SA、湯瀬PA、津軽SA、青森フェリー埠頭

公開日: : 最終更新日:2024/04/13 旅話, 旅話 1998年

車旅日記1998年8月12日
1998・8・12 7:21 東京町田
夏の第1ラウンドのツアーから3週間が経過して、またツアーの季節がやってきた。

甲子園には横浜高校の怪童松坂投手が現れて、季節感としての夏が盛の中、季節としての夏は終わりゆこうとしている。

出発の空は曇り。
予報では東京は雨。
この連休はきっと涼しいのだろう。

旅立ちは朝が相応しい。
朝食を済ませてシャワーを浴びて、まだ家族も揃っている。

今回はちょっと長旅になる。
だからちゃんと挨拶くらいしておきたい。

それじゃまた5日後に、ここで。

9:27 首都高速自動車道-加平PA 52㎞
胸のあたりがもやもやしている。
渋滞のせいだろうか。

そう言えば空気も悪い。
おそらくそうした要素も関係するのだろう。

家を出てしばらくすると、昨日オレに声をかけて帰っていった彼女のことが気になりだして、なぜかとても切なくなった。

紛れもなくオレは彼女に思いを寄せている。
そして東京に未練が生まれて、すぐに思い直す。

オレは彼女にとって何者でもない。
連絡先すら知らない。
彼女に対してどういう行動もとれない。

この夏にも諦めがあった。
そうして男は旅に出る。
車寅次郎がそうだった。

今は一刻も早くこの澱んだ空の下から抜け出したい。
しかし道路状況は芳しくない。

ここにきて温度は上がり、体からは大量の汗が噴き出している。
次々に高速で通り過ぎていく車の振動に気持ちも尖る。

さあ、前途に明かりを見つけよう。
幸いなことに、東京に残っているべきだったという後悔は見当たらない。

自分でも言うのもなんだが、サングラス姿がよく似合っている。

10:48 常磐自動車道-千代田PA 110㎞
関東平野に雨が降りてきた。
渋滞が続いている。

ひとしきり走って、また止まったように進む。
この単調さに眠気が襲ってくる。

オレにはクーラーの冷気は向いていない。
仕事中は冷房の効いた車の中でよく眠っていた。
もちろん運転するのはオレじゃないが。

だから窓を開けて走っている。
そんなオレの走行を雨が邪魔している。

夏休みに、本当の夏を期待してここでひと休みしている人々は、この曇り空の下で何を思っているのだろう。
やはり計画通りに出かけてきたことを喜んでいるのだろうか。

それならそれがいい。
やけくそになって無茶苦茶な運転をされるのは迷惑だ。

家を出て100㎞が過ぎた。

しかし北海道とはつくづく遠いと思う。
まだ調子が上がってこないから尚更そう思う。

旅の始まりはいつも同じようにどこか迷っている。

12:09 常磐自動車道-東海PA 162㎞
雨が上がり虫の声が騒がしくなってきた。

サングラスをかけるとアウトロー気分にぴったりはまる。
ただ、すべての景色がセピア色に見えることが難点として挙げられるけれど。

この先道路状況は好転する。
渋滞にはまるのはしゃくだが、この時期にこの騒ぎに巻き込まれたのが90分で済んだことは幸運と思わなければならない。

音楽は日本のミュージシャンに変えた。
歌いながらいけば気分も晴れる。
そしてだんだん日常が離れていく。

不思議なものだ。
いつも思うが、こうして世俗を離れることは人間として、いや動物としてとても必要なことのように思う。

ただ単純に、「生きる」という行為を想うから。

13:33 磐越自動車道-差塩PA 250㎞
少し横になった。
夏本来の気候じゃないとはいえ、快眠できるほど甘くない。
だけどそれでいいと思う。

ベンチに座ってゆっくり煙草を吸った。
こんな時の煙草はいい。
とても平和な気持ちでいた。

日常のしょうもないことは何も浮かんでこない。
そして不意に4日前に町田の風俗店で肌を合わせた女性のことを想った。

潤いのない日々に生じたあの記憶は、オレにとってどれだけ貴重だったかを同時に考えた。
わずか30分ばかりとはいえ、あの女性には計り知れない好意を持った。

「10$の恋」。
そんな切ない楽曲が浮かぶ。

オレの背には「海へ」と刻まれた記念碑がしゃがむように立っている。

とても平和だ。
自然も美しい。

15:00 東北自動車道-福島松川PA 329㎞
夏の日差しが戻っている。

ギターを積んだライダーは木陰でひと休み。
中年のご夫婦がベンチに座って小豆のアイスキャンディをかじっている。

オレもひとりならひとりらしく、それなりの態度をとれたらいいと思うが、うまい具合に思いつかない。

それぞれの夏。

あのライダーにはどこかの町でステージでも用意されているのだろうか。
そうじゃなく、誰に聞かすわけでもなく、例えば川の畔でつま弾くとでも言うのなら、ついて行ってもいい。

こうして風の中で夏を楽しむのもいい。

蝉と秋の虫が上手なハーモニーを聞かせてくれている。
期間限定でしか聞けない珠玉の演奏だよ。

17:06 東北自動車道-泉PA 427㎞
東北道中間地点の表示を見て、まだまだ先が長いことを知った。
一日で行けるとはいえ、日本は決して狭くない。

渋滞は岩手に入っても発生しているらしい。
さすがにこの時期といえる。

少し疲れていたけど、横になって目を閉じたら楽になった。

青函フェリーの最終が出るまで、あと9時間ばかり。
たどり着く頃にはきっとくたくたになっているだろう。
今日の内にたどり着かなくてもいいじゃないかという内なる意見もある。

体との相談になる。
調子はいいよ。

18:15 東北自動車道-金成PA 493㎞
さすがに疲れたよ。
呆然となった状態で運転もしていた。
オレを追い抜いていく周りばかりが気になった。

これは疲れている証拠だ。
いずれにしろ一日に500㎞も走らなければならない理由などどこにもない。

ケータイは意味不明の信号を発信している。
ここらはきっとツーカーのサービス圏外なのだろう。
暑くて壊れたとも考えがたいし。

さて、これからだ。
5月に通っているとはいえ、この果てしない東北道を走破するのにあとどれくらいの時間と、どれくらいの体力が残っていればいいのかが分からない。

気持ちが乗ればかなりいけるのだろうが。

19:14 東北自動車道-北上金ヶ崎PA 543㎞
ハイウェイでの風を受けての走行が負担になることが分かったよ。
窓を閉めればずいぶん違う。
音楽も耳に心地よくなってきた。

青森までの正確な距離が出た。
計画通りいこう。

ここからがタフだが、実行前はいつでもその気でいる。
そしてそれを正確に実行する意義は大いにある。

ここ4日間はひとりで生きていかなければならない。
問題はその方法だ。

とりあえずハイウェイの走破。
話はそれからだ。

20:50 東北自動車道-岩手山SA 622㎞
かなり調子が上がってきている。

ここがどういう場所なのか暗くてよくは分からないが、ひとつだけはっきりしていることは、ここが今夜の目的地から150㎞ほど離れたところということ。

不安を抱えながらの走行だったけど、もう大丈夫。
路上はオレの生活の場。

一日に800㎞も走るのはこれが最初で最後になるかもしれない。
充実もしている。
でも何かが足りない気がしている。

それが何なのかオレにもよく分からない。

21:40 東北自動車道-湯瀬PA 670㎞
八戸方面に分かれていく分岐点を過ぎて、今夜最後のルートに入った。

あれだけ賑わっていた路上もここまで来ると通る車さえまばらになり、ここに車を止めているのはオレと日通の運転手のみ。
思えば遠くへ来たものだ。

調子が上がっている。
そのことを喜びたい。

どこへでも行ってやるという気力も生まれてきている。
そう、これからだよ。

ここは秋田県らしい。
青森はまだ先。

北へ進路をとって700㎞。
そこが今夜の目的地。

22:30 東北自動車道-津軽SA 732㎞
友の声を聞いた。
さっきは母親の声を聞いた。
また不安がよぎってきた。

でもこれはオレの性分。
ムリはしていない。

大丈夫。
きっと、いい旅になる。

23:52 青森フェリー埠頭 774㎞
深夜にできた車と人の列。
車検証を持って一応は並んだよ。

想定していたフェリーで北海道に渡るのは困難であることを聞いた。
何しろこれほどの列。
事態はオレが考えているほど甘くないようだ。

だけどがっかりはしない。

とりあえず風呂を見つけて汗を流そう。
あとのことはそれからだ。

関連記事

「鉄旅日記」2008年初夏【まほろばの路から紀州へ。紀伊半島で過ごした短い夏の記憶でございます。】2日目(和歌山-松阪)その1-和歌山市、和歌山、海南、西御坊、御坊、紀伊田辺、白浜(紀勢本線/紀州鉄道)

鉄旅日記2008年7月20日・・・和歌山市駅、和歌山駅、海南駅、西御坊駅、御坊駅、紀伊田辺駅、白浜駅

記事を読む

「車旅日記」2003年晩秋【紀伊半島に焦がれる日々。南海道を往くのは2度目でございます。】3日目(伊勢志摩-吉野-奈良-京都)走行距離239㎞ -大王崎、御座港、鵜方駅、飯高駅、天誅組終焉之地、吉野駅、吉野神宮駅、吉野口駅、京都ホーユウコンフォルト二条城

車旅日記2003年11月24日 2004・11・24 9:40 大王崎 薄曇り。 小雨が時に混

記事を読む

「鉄旅日記」2020年如月【東日本大震災で被害を受けた大船渡に泊まりにまいりました。山田線完全乗車も目指しておりましたが・・。】最終日(釜石-東京)その4‐安積永盛、鏡石、須賀川、新白河、黒磯、宇都宮(東北本線)

鉄旅日記2020年2月24日・・・安積永盛駅、鏡石駅、須賀川駅、新白河駅、黒磯駅、宇都宮駅(東北本線

記事を読む

「鉄旅日記」2018年春【伊那谷へ。長篠へ。安曇野へ。木曽へ。青春18きっぷを握ったそんな旅でございます。】最終日(飯田-安曇野-木曽-東京)その1-飯田、伊那大島、伊那松島、辰野、松本、柏矢町、豊科(飯田線/中央本線辰野支線/篠ノ井線/大糸線)

鉄旅日記2018年4月8日・・・飯田駅、伊那大島駅、伊那松島駅、辰野駅、松本駅、柏矢町駅、豊科駅(飯

記事を読む

「鉄旅日記」2018年秋【サンキューちばフリーパスでめぐる上総下総安房旅】最終日(松戸-五井-大原-安房鴨川-松戸)その1-市川塩浜、五井、上総牛久、馬立、上総鶴舞、里見(京葉線/外房線/小湊鉄道)

鉄旅日記2018年9月23日・・・市川塩浜駅、五井駅、上総牛久駅、馬立駅、上総鶴舞駅、里見駅(京葉線

記事を読む

「鉄旅日記」2018年師走【伊勢のいくつもの終着駅に降りまして、神島で2018年最後の満月を眺めたのでございます。】最終日(神島-鳥羽港-伊良湖岬-三河田原-豊橋-東京)その2-中之郷駅、伊勢湾フェリー乗場、道の駅伊良湖クリスタルボルト(伊勢湾フェリー)

鉄旅日記2018年12月24日・・・中之郷駅、伊勢湾フェリー乗場、道の駅伊良湖クリスタルボルト(伊勢

記事を読む

「鉄旅日記」2015年春【名鉄電車2DAYフリーきっぷで行く、中京旅】最終日その3(岩倉-東京)-津島、須ヶ口、神宮前、豊明、岡崎公園前、中岡崎、東岡崎、国府、豊川稲荷、豊川(名鉄津島線/名鉄本線/名鉄豊川線)

鉄旅日記2015年3月8日その3・・・津島駅、須ヶ口駅、神宮前駅、豊明駅、岡崎公園前駅、中岡崎駅、東

記事を読む

「鉄旅日記」2018年神無月【北陸へ。信州へ。友を訪ねての巡礼旅でございます】最終日(松本-辰野-天竜峡-岡谷-東京)その3-勝沼ぶどう郷、大月(中央本線)

鉄旅日記2018年10月8日・・・勝沼ぶどう郷駅、大月駅(中央本線) 17:25 勝沼ぶどう郷(か

記事を読む

「鉄旅日記」2016年夏【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】4日目(富良野-大館)その1-富良野、滝川、岩見沢、白石、新札幌、北広島、恵庭、千歳、新千歳空港(根室本線/函館本線/千歳線/石勝線)

鉄旅日記2016年8月13日・・・富良野駅、滝川駅、岩見沢駅、白石駅、新札幌駅、北広島駅、恵庭駅、千

記事を読む

「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】2日目(高山-速星)その4‐富山大学前、丸ノ内、南富山駅前、南富山、電鉄富山駅前、富山(富山地方鉄道市内線)

鉄旅日記2020年3月21日・・・富山大学前電停、丸ノ内電停、南富山駅前電停、南富山駅、電鉄富山駅前

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】最終日(速星-東京)その4‐藤枝、静岡、熱海、上野、北千住(東海道本線/常磐線)

鉄旅日記2020年3月22日・・・藤枝駅、静岡駅、熱海駅、上野駅、北千

「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】最終日(速星-東京)その3‐多治見、金山、豊橋、御厨(太多線/中央本線/東海道本線)

鉄旅日記2020年3月22日・・・多治見駅、金山駅、豊橋駅、御厨駅(太

「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】最終日(速星-東京)その2‐猪谷、高山、久々野、古井、美濃川合(高山本線/太多線)

鉄旅日記2020年3月22日・・・猪谷駅、高山駅、久々野駅、古井駅、美

「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】最終日(速星-東京)その1‐速星、越中八尾、楡原(高山本線)

鉄旅日記2020年3月22日・・・速星駅、越中八尾駅、楡原駅(高山本線

「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】2日目(高山-速星)その5‐府中鵜坂、西富山、速星(高山本線)

鉄旅日記2020年3月21日・・・府中鵜坂駅、西富山駅、速星駅(高山本

→もっと見る

    PAGE TOP ↑