「鉄旅日記」2018年師走【伊勢のいくつもの終着駅に降りまして、神島で2018年最後の満月を眺めたのでございます。】2日目(津-松阪-伊勢奥津-鳥羽-神島)その3-神島にて・・・八代神社、神島灯台、監的哨、ニワの浜、神島山海荘あじさい
鉄旅日記2018年12月23日・・・八代神社、神島灯台、監的哨、ニワの浜、神島山海荘あじさい
14:32 神島上陸~
14:45 八代神社石段下
うろこ雲の下で、神島で暖かな日差しを浴びている。
島に着いてからくせの強い関西弁を聞き、見かける大人はお年寄りばかりで子供は元気だ。
三島由紀夫「潮騒」の舞台で、映画化もされている。
オレも若かりし頃に小説を手にしている。
あの小説に接した誰もが口にする忘れがたい場面がある。
さっき定期船の中で触れた「その火を飛び越してこい」。
伊良湖を望んで、八代神社の石段下のベンチに腰かけている。
オレとこの島は縁が深いと伊勢の鑑定師が告げた。
信じよう。
何か疼くものを感じている。
15:08 神島灯台
八代神社の石段を上るのは骨が折れた。
神に会いにいく行為には困難が伴う。
起伏の激しい道を歩き500メートル。
恋人の聖地を謳う場所から美しい難所、伊良湖水道を望む。
伊良湖は鳴門、音戸と並ぶ日本三関門とのこと。
この灯台も小説によく登場する。
ここに灯台長の住まいがあり、ひとり娘の千代子は主人公の新治に想いを寄せている。
東京から一時帰郷した千代子は、新治と初江の逢瀬を目撃してしまい、悪意なく噂の元になり、二人を窮地に陥れてしまう。
「わたし、そんなに醜い?」と新治に尋ねる。
質問の背景を知らない新治はからからと答える。
「なあに、美しいがな」
千代子は救われ、心に幸福が灯った。
15:24 監的哨
旧陸軍の遺構は小説のクライマックスに現れる。
件の新治と初江による「その火を飛び越してこい」の舞台。
灯台もそうだが、人気のない寂しい高台の丘にある。
空気が澄んだ日には富士山も見えるという。
たどってきた道を振り返れば激しく切り立った崖。
あの山の中を歩いてきたのか。
恋人も歩く険しい道。
神にしてもそうだが、何かに行きつくには避けられない定めのように道がある。
ただ、どんなに険しくともそこに通じる道はある。
そんなことを思う道だった。
島に上陸してから1時間が経つ。
15:37 ニワの浜
カルスト地形が見られる狭い浜辺に出た。
今年も様々な場所で海を見てきたが、打ち寄せる波を間近にしたことはなかった。
強烈な磯の香りと生命力を感じている。
導かれるようにこの島にやってきて、幸福を思い、感じている。
そして、まだ見ぬ彼女に会いたいと心から願う。
20:48 神島山海荘あじさい
16:30には宿に着いていた。
夕食にはほんの少しだけ奮発した刺し盛が置かれた。
部屋からは港が見下ろせる。
夕景へと変わりゆく様を飽きずに眺めていた。
島全体が灯明山という山地で、周囲は約4km。
集落は港を中心に狭いエリアに集まっている。
港に接する道の他に平地はなく、島民は日々狭い路地を行き来している。
車は滅多に走らず、また車が活躍できる場所もなく、島で暮らすわずかな子供たちは、港近くでもはや家族と言ってもいい島民に見守られながら遊んでいる。
港に船が着けば、誰か懐かしい顔はないかと走りよる島民。
とても港湾関係者とは思えないお年を召した奥さんまでが船の着岸に手を貸していた。
過疎化が進む島で子供たちは中学校まであの起伏に富んだ道を通い、高校からは島外に通わなければならない。
それはよほどに大きな島でない限り避けられない事情であるだろう。
島の子供たちの足腰は頑健だと、この宿のおかみさんが教えてくれた。
今夜は今年最後の満月。
雲が多く出ていた空に望みはかけなかったが、「月が出てますよ」と声をかけられ階段脇の窓辺に行けば、確かに雲間から覗いている。
しばらく眺めていたら、奇跡を見るかのように満月は縦横に動き、雲間を脱してからはまるで歌舞伎役者が大見得を切るように一層の輝きを放った。
月が動く、、、少なくともオレの目にはそう見えた。
そして月と離れた雲は龍となり、さらに奇跡は増した。
急いでスマホをとりに部屋に戻り、そして彼女に送った。
今夜の奇跡はおそらく神島にいたオレにしか認識されず、この奇跡が彼女にも伝わればと思う。
これからのオレの人生が輝かしいものになることを疑わない。
【Facebookへの投稿より】
伊勢から鳥羽へ出て、神島に渡りました。
三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台になりました伊勢湾に浮かぶ周囲4kmの小島でございます。
全島山地の島内を隈なく歩いて約2時間。
地の魚はやはり美味しゅうございました。
パワースポットとして、伊良湖水道を往く海人の信仰を集め、古くから知られたこの島で、今年一年を想い、ぐっすりと眠ったのでございます。
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