「車旅日記」1998年春【下北半島を目指した春。男の旅は北を目指すものと思っていた20代後半。高倉健さんの影響でございましょうか。】初日(東京-岩手山SA)-町田、蓮田SA、都賀西方PA、黒磯PA、阿武隈PA、吾妻PA、菅生PA、前沢PA、岩手山SA
車旅日記1998年5月1日
1998・5・1 11:53 東京町田
出発を前にして空が晴れてきた。
仲間はみんな仕事をしているけど、そんなことは忘れていたよ。
きっとトラブルも起こらないだろう。
今日の仲間にも。
そしてツアー中のオレにも。
今も道路状況を知らない。
相変わらずだ。
ただいつも言っていることだけど、混んでいようが混んでいまいが決めた道を往くのがオレの流儀。
計画の変更を余儀なくされるような事態は、よほどのことだと考えていいい。
さあ、シャワーも浴びた。
荷物の点検ももういいだろう。
あとはビールをクーラーに詰めるだけ。
起きる間際には彼女と裸で抱き合うことを想像してみた。
これまではそういう想像を否定してきたけど、今朝はそれもいいじゃないかと思った。
もう、ひとりの時間はいらないということなのだろう。
そんなことを真剣に考えるツアーがこれから始まっていく。
出発だ。
14:42 東北自動車道-蓮田SA 82km
首都高は日常のような具合だった。
東京はまだ黄金週間に浸ってはいないようだ。
それもそのはずで、仲間はいつもと何ら変わることなく働いている。
オレの予想では、おそらく今夜あたりからこの東北道では例年の渋滞騒ぎが始まるだろう。
体は多少だるくても宇都宮までは行っておいた方がいいだろう。
少なくともオレはあの騒ぎの恐ろしさを知っている。
隅田川沿いを走っているあたりではまだ仕事場の風景が頭に浮かんでいた。
大切なものを置いてきたわけではないが、サラリーマンが働く日を返上して心の底から楽しめるまでには、ある一定の時間が必要なようだ。
ストーンズをかけて歌おうと思ったけど、思うように声は出なかったよ。
それに体が疲れていることを自覚している。
いずれにしろ、もう少し走ってみる必要がある。
ハイウェイはやはりオレのとるべき道ではないが、今回はその利便性を大いに活用できそうでとても満足している。
体調にもよるが青森には案外早く入れそうな気がする。
でもまあ、のんびりいくさ。
座ったベンチの下で小蟻が獲物の上で群れていた。
多かれ少なかれ、動物はみんな同じような行動をとるものらしい。
空は曇り、風は凪いでいる。
16:16 東北自動車道-都賀西方PA 148㎞
調子の上がらない走行だった。
ここに来て少し横になり、安いうどんを食べたことにより多少気分が上向いている。
どうやら予報通り雨が落ちてきそうだ。
確か去年もこの時期の天気は冴えなかったが、今年も空はそんな具合で推移していきそうだ。
調子が上がらないから、時としてなぜオレはこんなところを走っているのかと自問自答することがあるが、好きなことをしているという実感だけはある。
今オレは好き好んでこの場所にいるのだと。
あまり評価していなかったハイウェイにも見るべきものはあった。
太古の昔、この周辺は古墳群だったという。
ここにはそのミニチュアが置かれている。
いい趣だと思う。
旅に必要な要素がここにはあった。
もう東京を離れて100㎞近く来ている。
17:20 東北自動車道-黒磯PA 214㎞
いいペースで休息をとっている。
隣の車ではご夫婦揃って横になり、片方では職人風の男が犬を連れだしてやはり休息をとらせている。
もっとも犬の場合は外に出て歩くことが休息なのだが。
考えてみればオレもそうだ。
犬のように思い切り羽を伸ばせないが、背を伸ばして関節をほぐすことくらいはできる。
追い立てられているような気持ちはもうなくなった。
さっきまで胃のあたりがおかしかったのは、きっと車に酔っていたのだろう。
最初に車に乗り込んだ時にはすでに独特の臭気が充満していた。
でももう大丈夫。
全開とはいかないまでも、ハイウェイでも窓を開けて走ることはできる。
外はずいぶんと寒くなった。
さらに北へ車を進めればもっと寒くなるだろう。
18:05 東北自動車道-阿武隈PA 247㎞
パーキングの表示につられてここに入り、また少し横になった。
ハイウェイでは人々が急ぐことを目的に数珠つなぎになっている。
今回はあの連中をけなすのはやめよう。
ちょうど夕暮れ時。
連中にも暗くなる前に目的の場所に着かなければならない事情があるのかもしれない。
まあ知ったことじゃないが。
オレはオレのペースで進んでいく。
今から5時間ほど前、「Time is on my side」が流れた時、不意に込みあげるものがあって、涙がこぼれそうになった。
うまく説明ができない。
うまく説明ができないが、きっとかつてこの季節に経験した事どもが映像を伴わずに心の奥底から駆け上がってきて、季節との再会を喜び、叫んだのだろう。
いつも車にいたんだ。
ここ2、3年の間、ずっと。
19:20 東北自動車道-吾妻PA 326㎞
1時間近く走った。
首のあたりに張りを覚える。
300㎞という距離はそれなりにこたえるものだ。
外は少し風が出て寒くなってきている。
でも東京から来た連中はことごとくが半袖姿。
連中も違う土地にきていることを文字通り肌で感じていることだろう。
最近はオレが走る日に、月が姿を見せてくれない。
寂しいが、本当に寂しいのは月のせいじゃない。
今までにオレが何を得て、何を得なかったのかという話だ。
もう友の暮らす土地からはだいぶ離れた。
3年前は友に会うためにこの道を使った。
あの日は渋滞で苦労したが、今回その苦労はない。
しかし3年前より疲労感を覚える。
きっとそれが3年の月日の重みなのだろう。
20:43 東北自動車道-菅生PA 388㎞
両親に連絡を入れた。
母親が出て、以前父親に言われたことを思い出した。
もう母親に心配をかけるトシじゃないだろうと。
そのとおりだ。
今のオレに言えるのはそれだけ。
でも大丈夫。
オレは心配ない。
こういう場所で世間に身を置いて、ひとりで飯を食うのはちょっぴり寂しい。
そんな時は贅沢な時間を過ごしている感覚を忘れる。
でもきっと朝になれば、いつもの路上のオレに戻れるだろう。
あまり心配はしていない。
22:28 東北自動車道-前沢PA 506㎞
あれから100㎞走って岩手に入った。
もう大丈夫。
すっかり元の調子に戻っている。
音楽にノって楽しくやっていたよ。
そしてこの場所。
2年前に6人で立ち寄った。
オレもいろんな場所にいたものだと、あらためて思う。
昔を思い出したのは懐かしむためじゃない。
ただたんに思い出しただけだ。
もう完全に路上に馴染んでいる。
これからだが、場所の如何にかかわらず24:00で走ることはやめる。
それだけ走れば今日はもう十分だ。
走りを止めたら今日はそれでおしまいってわけじゃない。
冷たいビールを飲まなきゃ終わらない。
暗くてあたりの状況はよく分からないが、岩手にいるという実感ならある。
今回はこの地に用がないのは残念だが、オレのことだ。
また来るだろう。
経験と同じで、思い出もまた積み重ねていくものさ。
23:52 東北自動車道-岩手山SA 607㎞
心配ないさ。
いろんなヤツが寝ているよ。
普段通りさ。
静かだな。
とても静かだ。
北の国の住人はいつもこんな感じなのか。
オレにとってはこっちの方がありがたいけど。
今日はここまでだ。
よく走ったよ。
最初の調子悪さがウソのように気持ちもノっている。
だからあまり休憩もとらずにここまで来た。
どんな時もノっている時はそれに従っていた方がいい。
こうして疲れ果てるまでは。
さあビールを飲み干したら歯を磨きにいこう。
今夜はこれで終わりだ。
外には凄い風が吹いている。
関連記事
-
「鉄旅日記」2019年弥生Part.1【和歌山電鐵に乗るために、青春18きっぷで紀伊半島一周を思い立ったのでございます。】初日(東京-紀伊田辺)その1-金町、名古屋、多気、川添、三瀬谷(常磐線/東海道本線/関西本線/伊勢鉄道/紀勢本線)
鉄旅日記2019年3月2日・・・金町駅、名古屋駅、多気駅、川添駅、三瀬谷駅(常磐線/東海道本線/関西
-
「鉄旅日記」2015年夏【日本最南端の終着駅、枕崎までの往復旅】3日目(鹿児島中央-西鉄柳川)その1-指宿、枕崎、入野、開聞、山川、喜入、瀬々串、慈眼寺、南鹿児島、郡元(指宿枕崎線)
鉄旅日記2015年8月14日その1・・・指宿駅、枕崎駅、入野駅、開聞駅、山川駅、喜入駅、瀬々串駅、慈
-
「鉄旅日記」2018年エイプリルフール【8年振りに金町に帰ってまいりました。青春18きっぷはまだ3日分残っております。呼んでくれたのは会津でございました。】その1-金町、上野、鹿沼、日光、東武日光、宇都宮、野崎(常磐線/東北本線/日光線)
鉄旅日記2018年4月1日・・・金町駅、上野駅、鹿沼駅、日光駅、東武日光駅、宇都宮駅、野崎駅(常磐線
-
「鉄旅日記」2015年春【名鉄電車2DAYフリーきっぷで行く、中京旅】最終日その3(岩倉-東京)-津島、須ヶ口、神宮前、豊明、岡崎公園前、中岡崎、東岡崎、国府、豊川稲荷、豊川(名鉄津島線/名鉄本線/名鉄豊川線)
鉄旅日記2015年3月8日その3・・・津島駅、須ヶ口駅、神宮前駅、豊明駅、岡崎公園前駅、中岡崎駅、東
-
「鉄旅日記」2018年弥生【青春18きっぷを握り、目指したのはまたしても会津。練馬から旅立つ最後の旅でございます。】最終日(会津若松-新潟-吉田-三条-東京)その1-会津若松、広田、野沢、徳沢、津川、五十島(磐越西線)
鉄旅日記2018年3月4日・・・会津若松駅、広田駅、野沢駅、徳沢駅、津川駅、五十島駅(磐越西線) 2
-
「鉄旅日記」2016年夏【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】3日目(小樽-富良野)その2-深川、増毛、留萌、北一已、深川、旭川、美瑛、千代ヶ丘、富良野(留萌本線/函館本線/富良野線)
鉄旅日記2016年8月12日・・・深川駅、増毛駅、留萌駅、北一已駅、深川駅、旭川駅、美瑛駅、千代ヶ丘
-
「鉄旅日記」2020年文月【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】2日目(香住-東萩)その3‐末恒、浦安、米子、揖屋(山陰本線)
鉄旅日記2020年7月24日・・・末恒駅、浦安駅、米子駅、揖屋駅(山陰本線) 10:39&n
-
「車旅日記」2005年冬【どこへ行こうか。まっさきに浮かんだのが、昨夏に旅した南九州でございました。】初日(熊本空港-高森-湯前-都城)走行距離270㎞-羽田空港、熊本空港、立野駅、高森駅、湯前駅、小林駅、都城グリーンホテル
車旅日記2005年2月11日・・・羽田空港、熊本空港、立野駅、高森駅、湯前駅、小林駅、都城グリーンホ
-
「鉄旅日記」2009年秋【遅い夏休みをとり、長崎までの切符を買いました。】初日(東京-新山口)その2-廿日市、広電廿日市、宮島口、広電宮島口、大竹、岩国、徳山、新山口(山陽本線/岩徳線)
鉄旅日記2009年9月18日・・・廿日市駅、広電廿日市駅、宮島口駅、広電宮島口駅、大竹駅、岩国駅、徳
-
「鉄旅日記」2020年卯月【緊急事態宣言発令直前のことでございます。常磐線全線運転再開を祝して人知れず旅に出たのでございます。】最終日(新津-東京)その3‐小野新町、要田、いわき(磐越東線)
鉄旅日記2020年4月5日・・・小野新町駅、要田駅、いわき駅(磐越東線) 12:33 小野新町(おの