「鉄旅日記」2006年如月【鉄道旅に目覚め、1泊2日で房総半島にまいりました。】初日-佐倉、成東、大網、上総一ノ宮、上総興津、安房鴨川、館山、安房勝山(常磐線/成田線/総武本線/東金線/外房線/内房線)
鉄旅日記2006年2月4日
2006・2・4 某リゾートクラブ安房勝山
よく晴れて冷たい、概ね気持ちのいい日だった。
我孫子で降りて、12月よりは駅前をよく歩き、成田線では印旛沼を遠望して、成田ではすぐの乗り換え。
外国人の姿をよく見かけた。
東京国際空港に降り立って、最初に見える風景の長閑さに彼等は驚いたかもしれない。
佐倉で30分待つ。
昭和60年に再建された駅舎には目新しさが残っているが、人気のない場所に立つ現代的な建物には独特の廃れた印象がまとわりつく。
12月に銚子からの帰りに通った際は、夜ということもあって駅周辺は明るく、千葉という大都会の始まりを思わせたけど、駅前には何もないと言える。
列車を待っていると、見慣れない小鳥が足元まで寄ってきて、待ち人が落としていった食べかすを啄んでいる。
愛らしい。
佐倉を出ると、銚子方面に向かう総武本線は単線になる。
成東は旅情を満たす町だった。
かつて成東から甲子園まで行った少年たちがいる。
駅も待合室も旅が似合う。
0番線ホームから東金線が出る。
閑散とした住宅地を進むが、東金駅周辺にはちょっとした繁華街が見られて降りてみたくなる。
でも次の列車の到着は1時間後。
ドアが閉まるのを待った。
大網駅は高架駅で、外房線と東金線のホームはV字に交わる一風変わった構造だった。
やってきたのは上総一ノ宮行。
途中の茂原は魅力的な街として映った。
上総国の一宮はどこにある。
駅はステンドグラスの小窓が特徴的な年代物。
駅前食堂で昼食。
ビールと中華丼。
旅先のビールは美味く、中華丼もいい味だった。
風が冷たい。
佐倉でもその風にあたりながら空を見ていたことを思い出した。
ホームの背後が鬱蒼とした竹藪になっている駅を通り、御宿を過ぎると左手に房総の海が見えてくる。
上総興津で5分の停車。
便所を借りに改札を抜ける。
かつて伊豆で見た、小さな商店街が海辺に続く懐かしい駅前風景があった。
車内の高校生たちは、11月の両毛線のようにひどいことにはなっていない。
大原、安房小湊。
線路に沿って国道を走ったあの記憶は何年前のことになるのか。
脳内で掘り起こしながらも松本清張の小説に目を落とし、時に海を眺めながら次は安房鴨川。
改札を出ようとするところを駅員に止められて気分を害したけど、彼は仕事をしただけだ。
海辺まで鄙びた通りを歩く。
そして今年初めて足元に海を置いた。
サーファーたちが波に揉まれている。
まともに立っているのは一人もいない。
波に洗われ続ける濡れたビーチが美しい。
待ち時間は長く、本屋で2冊を購入。
土産物屋では菓子を仕入れた。
赤屋根の小さな駅舎は改装中だった。
跨線橋を渡った先には巨大なジャスコ。
鴨川はリゾート地なのだろうが、冬場にその本領を見ることはムズカシイのだろう。
房総の駅と列車は親切で、発車30分ほど前から入線して車内を開放している。
成東、東金線あたりでは、どこからともなくボリュームを絞ったラジオ放送が聞こえていた。
発車まで少し眠り、発車とともに目を覚まし、旅は続く。
太海、千歳。
千歳駅はあの頃と変わっていない。
車掌車を流用した無人駅。
千倉駅はまだ工事中だった。
かつて寄った昼下がり。
そこに流れていた「テネシーワルツ」を覚えている。
館山へ。
そしてまたひとつ好きな街がリストに追加された。
椰子の木が駅前広場で存在感を放ち、海辺へと続く夕映え通りのオレンジの灯が優しい。
空は茜を残していて、雲も海も荒々しい色をしている。
突堤を進む。
釣り人に黙礼して進んでいく。
そして突堤の先端で思い切り体を伸ばして、しばらく景色に包まれた。
それはとても素敵な時間で、沖を航行する船が見えなくなるまでそうしていてもよかったが、どうして切り上げてしまうのだろう。
本当に素敵な時間とは長くは続かないものだと、人生経験が告げたわけでもあるまいし。
街には品のいい店が並び、海辺には古い旅館が連なっている。
子供たちは愛らしく素直だ。
約40分いたが、館山は飽きさせず、遠くには館山城が見えて、駅では「里見八犬伝」にちなむ展示がなされている。
南洋的とも言える駅舎を行っては戻り、それこそ飽かずに両方の出口から見える景色を楽しんだ。
館山を出るまで、海と空は夜の訪れを拒んでくれていた。
ホームで列車を待つ身が凍えた。
そして安房勝山へ。
凍えた手に息を吹きかけながら国道に面した店に入ると、おかみさんが「寒いですね」と声をかけてくる。
聞けば、今年で一番寒いという。
2週間前は雪も降り、東京と同じように積もったらしい。
料理屋では美味い寿司を。
余所者が訪ねることはほぼないのだろう。
店員の愛想はよくなかったが、味には満足した。
有線放送でビートルズを流しながら寛いでいる。
9階から見える風景は素晴らしい。
浦賀水道が一望のもとだ。
しばらく眺めていると、弧を描くように連なっている海辺の明かりが薄くなってきた。
一日はすでに終わっている。
窓を開けると強い風の音。
今見えている明かりは三浦のもの。
松本清張が描く人生も素晴らしく、旅の友として最適だった。
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