「車旅日記」2005年春 初日(松本-富山)走行距離317㎞ その2-妙高高原駅、親不知駅、アパホテル富山駅前 【松本から富山へ。今にして思えば、なぜこの旅を思い立ったのか思い出せないのでございます。】
車旅日記2005年4月29日・・・妙高高原駅、親不知駅、アパホテル富山駅前
16:44 妙高高原駅(松本駅より156㎞)
このあたりには懐かしい場所が多い。
以前は車にスキー板を結わえつけて、よく来たものだ。
斑尾高原は深い霧の中だった。
去年の日勝峠ほどじゃないにしても、視界は完全に閉ざされ、かつて3日間滞在した場所は現世から消えていた。
霧の中の走行は続き、国道を無視した走行も続く。
突き当りは野尻湖。
その名はオレの中でも有名なものだったが、湖畔に辿り着いたのは初めてだ。
気温7度の世界は山の上から始まっていた。
久々に感じる寒さ。
日本海へはもう30数キロの距離。
雪国仕様の駅が坂の上から見えた。
妙高という優しげな地名はとても素敵だ。
駅前には土産物屋と蕎麦屋が軒を並べている。
車で立ち寄る者はよく見かけるが、たいていはオレのように便所を借りて去っていく。
冬山仕様のタクシーが横長の駅に沿って並ぶ。
ホテルの名が記された看板に、ホームの様子が覗ける僅かな隙間。
九州じゃ、こんな造りの駅には出会わなかった。
寒い土地に向かうのも久しぶり。
何だかいいな。
まだまだオレの行く道はたくさん残されている。
今オレは、昔きたことがあるような、初めての場所に立っている。
18:51 親不知駅(松本駅より248㎞)
大山塊が日本海へと落ち込む名勝親不知。
付近に見られる民家は僅かで、駅のホームから凪いだ日本海を見渡す。
ここは承久の乱の古戦場でもあり、悲しい伝説や海賊話の残る場所。
いつ来ても神秘的な場所だ。
18号国道を日本海へ。
北の大地にしかないと思っていた風景は越後平野でも見られた。
妙高、黒姫と雪をかぶった険しい山塊を左に、180度に広がる空の果てに地平線が見える。
日本最大の穀倉地帯の風景は遥かだ。
日本海に出ると心が静まった。
静かな海に物静かな沿岸の町並。
赤い夕陽が浮かんだのはどのあたりでのことだったのだろう。
日が暮れるまで走ろうと決めて、着いたのがこの駅。
雪解け水は瀬を造り、川に合流して濁流となり海を目指す。
海まで到達した川水が勢いよく沖合まで流れ出す様を見ていると、胸が熱くなった。
あれは紛れもなく生き物だ。
そしてどこか哀しい。
やがて海水に揉み消される存在であることをオレは知っているが、彼等はそうとは知らずに広い場所を目指して、山上からここまでやってくる。
川の流れは龍の化身ともいう。
8号国道を富山方面に向かうのは初めてだ。
オレにできることはまだまだたくさんある。
そしてオレがやりたかったこととは、こうして波の音を聞く静かな場所で物思いにふけること。
ほんの些細なことなんだ。
これからいよいよ難所越え。
天下の険、親不知とはここから始まる。


2014年3月23日撮影
21:16 富山駅(松本駅より317㎞)
駅ビルにいる。
富山はオレ好みの街。
市電が走っているとは知らなかった。
富山駅にはかつて2度寄ったことがあるはずだが、路面電車の記憶はない。
到着した時刻が夜遅かったため、営業を終えていたのかもしれないが、記憶とはいい加減なものだ。
その拙い記憶の中じゃ、富山はもっと小さな街だった。
印象的な建物がいくつかある。
ライトアップされた富山城、α1、全日空ホテルにテレビ塔。
遠くから街の場所がはっきりと分かった。
それにしても、なぜ記憶と現実の街がこうも違うのか。
あの頃は何が目的だったのか。
オレという男もだんだん変わっていったのだろう。
もちろんいい方向に。
駅前風景はオレには絶景だ。
車通りも路面電車の本数も21時過ぎの街に相応しい。
北陸の大都会の夜景を眺めている。
24:06 アパホテル富山駅前1107号室
信越北陸路は優しさに満ちて、まるで故郷のようだった。
思えば旅を始めた頃には一番遠い場所だった。
あの頃は北海道や九州にまで延びるようなもんじゃなかった。
一人で暮らすようになって視野は広がった。
この5月で、旅を始めてからちょうど10年になる。
富山まできて悲しい話なんかしないよ。
最近じゃ遠くにばかり行っていたから、今回の旅をそれらとどこか一線を置いて捉えていることに自身気づいていたが、辿ってきた道はもちろん旅先でしか出会えない顔を見せてくれる。
ここ北陸で、、、これまではまるで逃げるように先を急いでいたけど、今回はそうしなくていい。
ここ富山で、全日本プロレスは大きな試合を組んできた。
ジャイアント馬場×ブルーザー・ブロディのPWF選手権。
ジャイアント馬場、ジャンボ鶴田×タイガー・ジェット・シン、キラー・トーア・カマタのインタータッグ選手権。
ジャンボ鶴田、天龍源一郎×テリー・ゴディ、マイケル・ヘイズ(ザ・ファビュラス・フリーバーズ)のインタータッグ選手権。
長州力、谷津喜章×ザ・ファンクスのインタータッグ選手権。
三沢光晴×スタン・ハンセン、川田利明×田上明のチャンピオン・カーニバル公式戦・・・。
最近じゃそんな興行も打たれていない。
九州や北海道でもそんな過去を持つ町を見てきたが、富山は廃れてなどはいない。
遅い時間まで路面電車が走る街並には格があった。
駅ビルでの記憶に満足して県庁前公園からNHK、城址通りと歩く。
繁華街での客引きは越中美人ではなく、外国人だった。
外国娘は今じゃどこの街にもいる。
ある意味この国の国際化を認識した。
そして黄金通りを歩き、このホテルへ。
県内を隈なく走る私鉄の名称が富山地方鉄道という、まさにローカルなもので泣かせる。
さっき駅で記したんだ。
富山には実力があると。
真下には線路が敷かれている。
列車が通るたびに腰を上げてその姿を見に行く。
同じくそうして過ごした稚内はもう1年前。
この1年はとても早かったが、今日のオレが思い出していたのは10年以上前の話だ。
このあたりには歴史がある。
もちろん地域的なこともそうだが、オレが生きてきた中にも多く登場する。
明日の昼飯はタラ汁だよ。
美味い店を知っているんだ。
今夜はその店の前を一瞬のうちに通り過ぎてしまったが、明日は寄るだろ?
あの頃の理想がどのようなものだったのか覚えていないが、今のオレがその姿をしていないことも分かっているが、その間をしっかり生き続けて、こうして10年経って富山と再会できたことを喜ぼう。
だってそうじゃないか。
未知の世界とは何もないところから始まるわけじゃない。
昨日までは相変わらずの日々。
しかも周囲はだんだんくだらなくなっていっている。
ブルートレインが富山駅を離れた。
あの夜汽車は、どこで朝を迎えるのか。
そう言えば、札幌行の夜行列車にどこかで会ったな。
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