*

「車旅日記」2005年冬 2日目(都城-人吉)走行距離284㎞ その1-都城駅、西都城駅、財部駅、霧島神宮駅、国分駅、錦江駅、鹿児島駅 【どこへ行こうか。まっさきに浮かんだのが、昨夏に旅した南九州でございました。】

公開日: : 最終更新日:2025/05/24 旅話, 旅話 2005年

車旅日記2005年2月12日・・・都城駅、西都城駅、財部駅、霧島神宮駅、国分駅、錦江駅、鹿児島駅

2005・2・12 8:30 都城駅(2月11日の熊本空港より271㎞)
何層にも連なる雲間から光が漏れる。
薄曇りの肌寒い朝。

都城駅周辺の朝の風景は昨夜感じた印象と大差ない。
南国のありふれた地方都市。
ステーションホテルとα1というホテルが町一番の高さを競っている。

背の高い構造物があるのはいいことだと思う。
特に地元の若者にとってはいいことなのだと思う。
何もないよりは夢が広がるじゃないか。

日豊本線、吉都線とも本数は少ない。
宮崎鹿児島中央間を往復する列車が多いようで、特急「きりしま」もこの区間を快走する。

都城駅には焼鳥屋とうどん屋が入っている。
焼鳥屋の方は昨夜は繁盛していた。

当たり前だが、列車が去ると駅前は寂しくなる。

2013年8月12日撮影

9:02 西都城駅
都城にさよならを言ってからしばらく走ると、10号国道に駅周辺よりも大きな街が現れ、やがて国道に沿ってアーケードが続き、百貨店も見える。

アーケード街は朝の時間帯ということもありシャッターは下りているが、中心はこっちなのだと訴える堂々たる街が形成されていた。
地元の小さなFM局もこっちの街角にある。

そう言えば都城で時刻表を眺めたら、ここ西都城行が何本かあった。
高架駅になっていて、駅としての格も都城より上のようだが、広い改札口に人の姿はなく、まるで引っ越しが終わった後のようにガランとしている。

駅弁を売る店もまだ開いていない。
駅前には焚火をするタクシー運転手の姿がある。

見渡したところホテルはないが、大きな商店街が隠されていることを思わせる。
道は広く、市役所も近くにある。

天気のせいだが、視界が大きく開けた駅前通り周辺は果てしなく寒々としているように見える。

かつてはこの駅から志布志につながる線路が敷かれていたという。

2013年8月12日撮影

9:31 財部駅(2月11日の熊本空港より284㎞)
寒木の並木を抜け、門司港を出た日豊本線は最後の地、鹿児島に入った。
その線路に沿ったか細い県道を往く。
10号国道は鉄道とは交わらず、別ルートからさっさと国分方面へと向かっている。

赤い屋根を乗せた古ぼけた駅舎の前にタクシーが1台止まっている。
朝もまだ早い。
客の見込みはあるのだろうか。

駅前を取り巻くのは旅館と南日本新聞の販売所。
線路のムコウの小高い場所にある学校から連れ立って走る少年たちの声が聞こえてくる。

険しい峠を越えることもなく、川を渡るでもない。
とても穏やかな国境越えだった。

今日は寒いよ。
南国育ちの薩摩人には尚更だろう。
原付バイクを転がす女性は身を縮めながら都城方面に向かい、地面には霜柱が立った痕が残っている。

見かけた子供たちは素朴で、老人たちには質朴さを感じる。

あたりに大きな集落はなく、オレが眺めている地図に描かれたこの地域は、ちょっとした山岳地帯のように彩りに欠けていた。

10:07 霧島神宮駅(2月11日の熊本空港より306㎞)
都城隼人線を快走。
あたりには茶畑が散在し、南国の峰々が冬枯れている。
南国に育つ木々が冬色をしているのを見て、何だか感動した。

建物に囲まれた東京にいたんじゃ分からないけど、本来冬景色とはああいうものだ。
オレが暮らしていた場所でも昔は見たよ。

こんな寒い日に母親と玉川学園前から歩いて帰ったんだ。
甘栗を買って帰ったんだ。
その日の寒さと母親のあたたかさを思い出した。

低い峰々は全山冬色に覆われ、その中を鉄道と車道が健気に約束の地に向かって延びている。

鹿児島の中心地に向かう道は他にいくつもあるが、桜島回りの鉄路は消え、残ったのはこの単線の線路のみ。
そして霧島神宮へ。

霧島山、高千穂峰、霧島神宮といった観光場所は地図で見る限り駅からは少し離れている。
昨日通った小林えびの一帯を含めた広大な山塊が神域だという。

今いるここも神色をしている。
朱色の駅の入口には渋木の鳥居が立ち、左右には提灯が下がっている。

霧島神宮あたりから湧きだした霧島川は聖水を感じさせながら駅前を流れ、橋の欄干には天狗の顔をした猿田彦命の置物が、この地にも訪れるであろう魔神に対して睨みを利かせている。

神域が持つ涼しげな気配が漂い、目には見えない偉大な神々に対して敬虔な気分でいる。

この地は温泉郷でもある。
駅を出て左側に足湯場があり、オレが到着した頃から老人が温まっていて、そこに母娘が加わった。

今日は寒いよね。
でもオレはいいよ。
神の山も次でいい。

今のオレは町に用がある。

10:45 国分駅(2月11日の熊本空港より319㎞)
霧島峠で山頂を雲に覆われた桜島と再会。
そして国分の町を見下ろす。
錦江湾に面して整った町が見えた。

峠を下りて町の一部になると、ごく一般的な地方都市にいることが分かった。
坂の上から見たら、夢の国もきっと同じように見えるのだろう。
そして夢の国に下りたら、やっぱり国分の町と同じような印象を持つのだろう。

駅前通りは60号県道を過ぎると歩行者天国になっている。
それとも今日は祭りでもあるのだろうか。

駅には結構な人がいる。
横に長い鉄筋の駅舎で、上部が青く縁どられ、懐かしさを抱かせ、人の香りもする。

国分は桜島を望む比較的大きな町だ。
宮崎から日豊本線と分かれた日南線は志布志が終点だが、かつては志布志から大隅線が延びていて、鹿屋を通り、桜島を横目に見て、ここ国分で日豊本線と接続していた。

朴訥そうな隼人の老人が脇でゴルフ・スイングをしている。
改札口を行き来する若者に隼人の面影は見られない。

11:58 錦江駅(2月11日の熊本空港より336㎞)
国分から隼人へ。
正面に鹿児島神宮を見ると左に折れる。

夏に寄ったラーメン屋はすぐに分かったよ。
万作ラーメン。
美味いラーメンをたらふく食わせてくれる店で、働く人々は愛らしい。
勘定を受け取った婆さんも素敵な笑顔の持主だった。

隼人駅には未練があったが寄らず、隼人塚を横目に鉄路を渡り10号国道へ。
海に接したあたりで門司から430㎞という表示を見た。

錦江湾はやはり素晴らしい。
霧島峠からは霞んで見えた桜島がはっきり見える。
山頂には雲がかかっていたから今夜は雨か。

士族の町、加治木を過ぎると錦江駅は跨線橋脇に目立たぬように存在していた。

古くからの街道の匂いはその一帯にはなく、住宅街の中に駅舎を持たない駅は脇に売店を従え、単線の線路を鹿児島市内へと渡している。

この駅周辺に鹿児島を感じることはできない。
すぐ近くにある桜島も錦江湾も、ここからは線路に沿って建つ団地に遮られて見えない。

かつての歴史は風の中。
郊外の通勤駅前を穏やかな笑顔をたたえた家族が穏やかな日差しを浴びて歩いている。

12:59 鹿児島駅(2月11日の熊本空港より358㎞)
桜島にかかっていた雲が払われた。
これで明日の天気は分からなくなった。

桜島を正面に見たくて10号国道でポイントを探った。
まずは別府川の流れ込み。
錦江湾は圧縮され、桜島に向けて注がれているように見える。

姶良バイパスを過ぎると快走路。
去年の夏と同じ感動を味わう。
この風景を知った人生を素晴らしいと思う。

竜ヶ水を次のポイントに選んでいたけど、車を止めることができない。
そして鹿児島駅へ。

中心駅は鹿児島中央駅だが、オレはこっちの雰囲気が好きだ。
駅に港。
近代鹿児島の重厚な歴史がこの周辺には詰まっている。

煤けたような駅舎のムコウにホームが見えて、雨除けの上屋は古びている。
脇には港に面して広大な貨物基地が広がり、中島美嘉さんによく似た女子高生が駅の階段を上がっていく。
中島美嘉さんは鹿児島の出身だという。

13時の時報だろうか。
妙な鐘の音が聞こえた。

ここが市電の始発駅で、古く大きな傘の下、客車が折り重なって止まっている。
路面電車が走る方向に目をやると山形屋百貨店が見えて、そこから繁華街が始まっている様子が分かる。
夏に友と飲んだ天文館は市電に乗って5分とある。

市電乗場の屋根に鳩が多くとまり、桜島は正面に見えて、その桜島に渡るフェリー乗場があり、ザビエル上陸地や薩英戦争の砲台跡もすぐ傍にあるという。

近代はここから始まり、その時代の空気がまだ周辺には残っている。

そしてまたひとり中島美嘉さん似の少女が街を往く。


2013年8月13日撮影

関連記事

「鉄旅日記」2008年初秋 初日(東京-羽咋)その1-東京、大垣、米原、長浜、敦賀、鯖江、西鯖江、大聖寺、加賀温泉(東海道本線/北陸本線) 【秋になると北陸に行きたくなるものでございます。能登半島をはじめ、いくつもの終着駅へと行き着いたのでございます。】

鉄旅日記2008年9月13日・・・東京駅、大垣駅、米原駅、長浜駅、敦賀駅、鯖江駅、西鯖江駅、大聖寺駅

記事を読む

「鉄旅日記」2016年夏 3日目(小樽-富良野)その2-深川、増毛、留萌、北一已、深川、旭川、美瑛、千代ヶ丘、富良野(留萌本線/函館本線/富良野線) 【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】

鉄旅日記2016年8月12日・・・深川駅、増毛駅、留萌駅、北一已駅、深川駅、旭川駅、美瑛駅、千代ヶ丘

記事を読む

「鉄旅日記」2008年皐月 4日目(徳島-善通寺)その1-徳島、中田、旧小松島駅、南小松島、阿南、牟岐、海部、甲浦(牟岐線/安佐海岸鉄道) 【旅は京都から始まり、山陰から下関へ。そして四国へと渡ったのでございます。】

鉄旅日記2008年5月5日・・・徳島駅、中田駅、旧小松島駅、南小松島駅、阿南駅、牟岐駅、海部駅、甲浦

記事を読む

「車旅日記」1997年梅雨明け【疲れきった若き日々。またしても向かうのは北でございました。】(東京-鳴子温泉)初日-町田、用賀、築地、北松戸、荒川沖駅、美野里パーキング、常陸多賀駅、いわき久ノ浜パーキング

車旅日記1997年7月19日 1997・7・19 19:42 東京町田 さしたる感慨も浮かばない。

記事を読む

「鉄旅日記」2016年夏 2日目(弘前-小樽)その1-弘前、蟹田、津軽二股、奥津軽いまべつ、木古内、札苅、桔梗、新函館北斗、大中山(奥羽本線/津軽線/北海道新幹線/道南いさりび鉄道/函館本線) 【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】

鉄旅日記2016年8月11日・・・弘前駅、蟹田駅、津軽二股駅、奥津軽いまべつ駅、木古内駅、札苅駅、桔

記事を読む

「鉄旅日記」2007年皐月 3日目(福山-岡山)-福山、三原、呉、広島、三次、備後落合、東城、岡山(山陽本線/呉線/芸備線/伯備線) 【夜汽車で東京を離れ、山陰山陽へ。鉄旅最初の長旅でございました。】

鉄旅日記2007年5月5日・・・福山駅、三原駅、呉駅、広島駅、三次駅、備後落合駅、東城駅、岡山駅(山

記事を読む

「車旅日記」1996年1月【旅を友として生きていくと決めた27歳。年頭の誓いでございます。】-町田、伊勢原駅、山北駅、沼津駅、富士駅、道の駅富士川、吉原駅、田子の浦

車旅日記1996年1月1日 1996・1・1 20:43 東京町田 始動だ。 久し振りに動かした筋

記事を読む

「鉄旅日記」2018年弥生 最終日(会津若松-新潟-吉田-三条-東京)その2-新潟、白山、内野、巻、吉田、燕(越後線/弥彦線) 【青春18きっぷを握り、目指したのはまたしても会津。練馬から旅立つ最後の旅でございます。】

鉄旅日記2018年3月4日・・・新潟駅、白山駅、内野駅、巻駅、吉田駅、燕駅(越後線/弥彦線) 11

記事を読む

「鉄旅日記」2021年師走 最終日(古川-東京)その1 ‐古川、岩出山、有備館(陸羽東線)/岩出山城址(城山公園) 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月5日・・・古川駅、岩出山駅、有備館駅(陸羽東線)/セレクトイン古川/岩出山

記事を読む

「鉄旅日記」2019年如月 最終日(安中-東京)その3-海尻、八千穂、信濃川上、佐久海ノ口、甲斐小泉、小淵沢(小海線)/海尻城址 【週末パスで東京から伊豆。そして上州、信州へ。友人は言ったものでございます。何気に大層な移動距離だと。】

鉄旅日記2019年2月10日・・・海尻駅、八千穂駅、信濃川上駅、佐久海ノ口駅、甲斐小泉駅、小淵沢駅(

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2021年師走 最終日(古川-東京)その1 ‐古川、岩出山、有備館(陸羽東線)/岩出山城址(城山公園) 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月5日・・・古川駅、岩出山駅、有備館駅(陸羽東

「鉄旅日記」2021年師走 初日(東京-古川)その3 ‐千徳、宮古、盛岡、古川(山田線/東北新幹線)/蛇の目寿司 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月4日・・・千徳駅、宮古駅、盛岡駅、古川駅(山

「鉄旅日記」2021年師走 初日(東京-古川)その2 ‐水沢江刺、盛岡、上米内(東北新幹線/山田線)【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月4日・・・水沢江刺駅、盛岡駅、上米内駅(東北

「鉄旅日記」2021年師走 初日(東京-古川)その1 ‐金町、東京、くりこま高原(常磐線/東北新幹線) 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月4日・・・金町駅、東京駅、くりこま高原駅(常

「鉄旅日記」2021年秋 最終日(飯坂温泉-東京)その5 ‐仙台、鹿島、原ノ町、浪江、常陸多賀(常磐線) 【4度目の緊急事態宣言明け。これ以降そのようなものが発令されることはございませんでした。阿武隈急行、峠駅、立石寺。お宿は飯坂温泉。秋の東北を満喫すべく常磐線に乗りました。】

鉄旅日記2021年10月10日・・・仙台駅、鹿島駅、原ノ町駅、浪江駅

→もっと見る

    PAGE TOP ↑