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「車旅日記」2004年秋【瀬戸内から山陰へ。そんな旅がしたかったのでございます。】初日(東京-京都-丹波-赤穂-宇野)走行距離275㎞-金町駅、東京駅、京都駅、二条駅、馬堀駅、古市駅、竜野駅、播州赤穂駅、宇野港

公開日: : 最終更新日:2023/04/27 旅話 2004年

車旅日記2004年11月20日
2004・11・20 5:09 金町駅
昨夜のたったひとつの夢は叶い、まだ夜が続いている駅で、丘ともいえるようなホームに立ち、見慣れた町の風景を眺めている。

雨の音が途切れた時だった。

まさにその時だったよ。

憂いが消えたんだ。

2019年11月2日撮影

6:06 東京駅
心地はいい。
きっといい旅になる。

東の空の雨雲は拭われ、一番星が輝きを取り戻している。

人気のない東京駅でタバコを吸う。

何かが確かに始まろうとしている。
その実感がオレをうれしい気持ちにもさせている。

次は京都駅にて。

8:44 京都駅
箱根の山をくぐると天下は光に満ちていた。

富士川を渡り、霧の立ち込める大井川を掠め、やがて広大な濃尾平野。
何度も行き来してきた東海道に、故郷で嗅ぐような匂いを車窓越しに感じる。

山科を過ぎると京の都。
鴨川も霧に覆われていた。

オレを乗せてきた「のぞみ41号」広島行を見送り、霧に煙る京都駅に降り立つ。
タバコを吸い、懐かしい八条口を見下ろす。

これから烏丸口のゲートをくぐりに行こう。
そこにはオレが一番好きな風景が広がっている。

少しだけ寒い。

2014年3月21日撮影

10:00 二条駅(11月20日の京都駅より4㎞)
小路を歩きレンタカー屋へ。

堀川通りから四条大宮。
そして山陰へと続く道の途中、京都駅から嵯峨野線で2駅目の二条へ。

ドーム型の傘がかかった二条駅周辺に鈍い日差しが降りてきた。
この駅には特急列車も止まるようだ。

すでに郊外の匂いがする。
このあたりが新選組の屯所が置かれた壬生だという。
今年は大河ドラマの影響で随分と賑わったことだろう。

2014年3月21日撮影

12:07 馬堀駅(11月20日の京都駅より37㎞)
丸太町通りを北へ。
洛北と呼ばれる一帯は太秦、嵐山と続き、雅な渡月橋を歩道をはみ出すほどの大群が行き来している。

秋の古都は騒然としている。
渋滞の最中にそんな光景を眺めていた。

あの大群がどこへ移動していくのか知らないが、オレなりの嵐山観光を車の中で楽しんだ。

五条天神川から9号国道。
千代原口、そして老ノ坂。

かつてこの坂の途中で明智光秀に率いられた軍隊が進路を変えて本能寺へと向かった。

その坂でいつも思う。
帰ってきたのだと。

坂を上がると丹波の国。

都とは風景が異なる。
茫漠とした田園風景が広がっている。

丹波から京都へ向かう車列に綻びはないが、丹波には独自の交通事情があるようで滞り、やがてこの駅へ。

周辺にこれといって記すものは見当たらず、駅前は開発途中といった風情で、高層マンションが一棟、この町に未来を想像する機会を与えている。

そんな駅に京都から着いた列車が多くの客を下ろし、人々は例外なくトロッコ駅に向けてぞろぞろと歩いていく。
保津峡下りの名所があるという。
オレも後について歩いていくと、洒落た木造駅に着いた。

それにしても都人の歩みは遅い。
きっとよその国まで出かけていく理由がないのだろう。
それに紅葉のいい季節だ。

かつて京都で恋をしたけど、それもこの頃だった。

馬堀駅もトロッコ亀岡駅も田園風景に身を置いてあたりに溶け込まず、ある種の違和感を放ちながら、かといって目立つことなく存在している。

13:48 古市駅(11月20日の京都駅より91㎞)
湯の花温泉を抜けて、丹波の道を往く。
372号国道は3度目になる。
あの夏の日に見た夕映えの空を覚えている。

明るいうちに走るとすべてが新しかった。
水の風景があり、野焼きの煙が上がる。

八上城址はオレには幻らしい。

織田信長の晩年は殊に血なまぐさい。
明智光秀に攻められ、城主の波多野兄弟は捕らわれ、安土で磔刑につく。

あるいは光秀の勧告に従い城を降りた兄弟を信長は許さず、代わりに人質として城に送った光秀の母が同じく磔刑にかかったとの説がある。

ドラマでは後者の説がよく使用される。
そうした悲劇がそうさせたのか、八上城址を指す表示は見かけたものの、城跡への道を発見することはできなかった。

大阪へ向かう特急列車が通過する谷間の小さな駅に車を止めた。
駅員の姿は見えないが、アナウンスが聞こえてくる。
誰もいないホームに、次に停車予定の列車の到着が遅れることを告げていた。

馴染みともいえる京から丹波への道に思いを新たにしたところで、遅れていた列車が通過していった。

14:31 社町駅(11月20日の京都駅より118㎞)
明石、西脇、京都を結ぶ交通の要衝地に無人の駅があった。

古民家を思わせる瓦屋根の小さな駅舎。
工事関係者に呼び止められ、逆に便所の場所の教えを乞う。

駅前ではとても美しい播州娘がしゃがみこみながらタクシーを待っていた。
やがて仲の良い母娘が駅に入ってきた。

六甲山の背後の町々に人影はなく、曇り空の下に広がる海のようにグレーな印象を与える。

姫路が近づいている。
丹波国は終わり、播磨国へ。

赤穂あたりの海はどんな色をしているだろうか。

16:41 竜野駅(11月20日の京都駅より170㎞)
映画「男はつらいよ」で、太地喜和子さん演じる「ぼたん」という名の色っぽい芸者がいた一角はどこだったのだろう。

夕日に向けて車を走らせる気分はよく、竜野で迷い、揖保川に目を奪われ、姫路の交差点では駅と城に目をやり、2号国道を横切り、この駅に辿り着いた。

白壁に瓦屋根。
小さな駅だ。
駅員は3名。
誰もが気持ちのいい紳士だった。

駅前商店街には喫茶スナックの看板を掲げた店しかなく、タクシードライバーの話し声だけが聞こえる。

心残りは、車寅次郎が「ぼたん」と出会った蔵のある景色に会えなかったことだけだ。
揖保川の岸にそれらしい風情はあったが、特定はできなかった。

昭和の終焉とともに絶えたわけでもないだろうが。

17:48 播州赤穂駅(11月20日の京都駅より202㎞)
日が暮れる前に海に出られてよかった。

地図はアテにならなかったけど、オレには分かったよ。
あの山を越えれば海だと。

播磨の海岸線は険しい。
上下に蛇行する道を往くと御津、相生。

相生駅にはかつて寄ったことがある。
寂しいあたりに新幹線が止まっていた。

相生から海に通じる道にはきれいな灯が点き、恋人たちにはいい空間だった。
そして何度目かの山登りを終えると、坂の上から赤穂の町が見えた。
千種川沿いに連なる車列の光もまた美しい。

ようやく町らしい町に着いた。
京都、大阪、神戸を走る列車の終着駅としてたびたび見かけた播州赤穂駅。
この名の響きにたまらない旅情を感じて、重厚な町の姿を想像した。

2階建ての駅舎は商業施設を従え、真新しく見える。
あたりには品のいい店が並んでいる。

この町の売りは、遠く元禄時代まで遡る。
赤穂浪士による吉良上野介邸への討ち入りは12月14日だったという。
ここ赤穂でも様々な祭りが計画されているようだ。
駅には浪士ひとりひとりの肖像画が並べられていた。

千種川という大河が流れ込む赤穂には豊かな香りが漂うが、この暗さじゃ町は見えない。
冬になれば、太陽の国の日の入りは早い。

22:17 宇野(11月20日の京都駅より275㎞)
小豆島行のフェリーが出る日生。
小さな港町は闇に包まれ、船着き場にはレトロな灯が点る。

その景色の中を一瞬のうちに通り過ぎる。
車を止めたかったが、停車を許さない急峻な場所だった。

備前には思い入れがあった。
かつて2号国道から見渡した整然とした町並。
その武家的ともいえるたたずまいに遥かな歴史を感じていた。

でも今夜、宵闇はすべてを隠し、かつての地理的感覚を麻痺させた。
新幹線の高架がどこからともなく現れ、しばし並走すると闇間にちらちらと輝きを見て、やがてそれが吉井川の流れなのだと判明した時、呆然とした。

長船に近いそこはかつての旅で2度通り、2度とも好きな場所と記した地点だった。
大ケ池の向かいに存在していたレストハウスはやはり闇に隠されていた。

岡山への表示を目指しながら2号バイパスを飛ばし、海峡への町へと左に折れる。
道は流れ、やがて巨大な明かりと共に鉄道基地と港が現れた。
そこが宇野。

一杯飲んで駅に行けば、昔懐かしい緑と橙色の列車が止まっていた。
こじんまりとしたきれいな駅舎で、港と同じ色をした暖色系の灯を点して人々を迎えている。

この町が、こんな町がオレにはちょうどいい。
オレの終着駅に相応しい。

かつては「瀬戸」という名の寝台特急が東京宇野間を走っていた。
宇高連絡船華やかなりし頃の話だ。

今は連絡船の発着駅という重責から解放されて、単なるローカル線の終着駅となり、この駅を出る列車は岡山までしか行けない。

でも宿の女将の話じゃ、最近になってやっと町がきれいになったとのこと。
その事情は分かるよ。
昭和はあらゆる意味で雑然とした時代だった。

オレみたいな流れ者は多く出入りしていたが、町で暮らしている人々は以前からそう多くなかったという。
港近くを歩いても人影はなく、駅前には飲み屋から出たオレの他には、停車中の岡山行に乗り込んだ女性の姿だけがあった。

海峡の終着駅と港町にはいつの時代にも哀愁が漂っている。
駅と港の灯に見放された一帯は闇に勝ることをためらっている。

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