「車旅日記」2004年夏【九州を一周してみよう。そう思いたった、真夏の日々でございます。】最終日(長崎-島原-唐津-福岡空港)走行距離291㎞その2-厳木駅、西唐津駅、唐津駅、筑前前原駅、葛飾金町
車旅日記2004年8月15日
2004・8・15 14:01 厳木駅(8月11日の佐賀空港より1562㎞)
肥前の鄙びた街道を唐津へ。
真夏日を生きてきたオレも、九州の地でひとまず区切りがつき、今聞こえているのは秋の虫の声。
草蒸した線路をJR唐津線が走る。
時刻表を見ると1時間に1本は走っている。
そこそこの役割はまだ持たされているようだ。
雨を降らす雲は気紛れに九州全域を移動し、気が向けば関門海峡を越えて本州に移動するつもりでいるのだろう。
無人の鄙びた駅。
瓦屋根の平屋造り。
このあたりじゃ、駅を改築する予算もなかなか回してもらえないのだろう。
歴史的な小さな建造物が、駅として多く残されている。
ホームからはありふれた日本の古里の風景が見渡せる。
たいして標高の高くない山が壁となり、その先にあるであろう集落の姿を隠している。
でもオレはこんな風景が好きで、その風景の中に今参加していることがうれしい。
まったく知りもしなかった街道。
まったく想定外の街道で、線路があることに感動し、ここにいられることを幸運に思っている。
14:46 西唐津駅(8月11日の佐賀空港より1585㎞)
周囲を集合住宅に囲まれた終着駅。
たった今出ていった佐賀行に乗客の姿は確認できなかった。
無味乾燥な駅舎に「西唐津駅」と墨書された木札がかかっている。
なんだかミスマッチにも感じるが、木札に救われたような気持になる。
せっかくの終着駅だ。
もう少し風格のある姿を見たかった。
駅員はひとり。
本来はひとつ手前の唐津駅が終着駅になるところを、その先に鉄道基地を設ける都合上ついでに造られた駅という印象を受ける。
そしてここが集合住宅街が尽きる地帯でもある。
唐津で腹に何か入れるつもりでいる。
暑くなってきた。
ひょっとしたら30度は超えたかもしれない。
そしてとうとう引き返す地点まできた。
15:23 唐津駅(8月11日の佐賀空港より1587㎞)
福岡方面と佐賀方面との分岐点の町、唐津。
ここは高架駅で、規模は小さいが駅ビルの機能も併せ持っている。
「駅そば」はなく、じゃあ寿司でも食おうと思う。
海辺に来たらその地の魚を食べて帰りたい。
豊臣秀吉が大陸進出の野望を漲らせて築城した名護屋城址は唐津にあるとのこと。
さて、潮時だ。
焦りが出てきた。
最後の地、福岡空港へ。

2009年9月22日撮影
16:28 筑前前原駅(8月11日の佐賀空港より1621㎞)
唐津城を遠くに眺め、松浦川を渡ると福岡県。
いくつもの入江を横目に博多が近づいた。
海水浴場では僅かな客が盆の夏を楽しんでいる。
いくつも通り過ぎてきた町と同じように、テレビ塔の他に高層建造物の見当たらない前原に、視覚障害者用の警告音が鳴り響き、人の気配だけはあたりに旺盛に漂っている。
博多が近い。
国道を入ったところに素敵な公園があった。
ここが最後。空港に行くよ。

2009年9月22日撮影
18:19 福岡空港(8月11日の佐賀空港より1648㎞)
福岡市内に日が差している。
九州最後の海は玄界灘。
今宿あたりで見たよ。
かつて九州の男たちが元軍の上陸を阻んだ海岸で、博多っ子が海水浴を楽しんでいた。
そして博多へ。
ホークスの試合があったようで、ある一角から大勢の人があふれ出てきた。
天神、中洲。
博多の街は大きい。
一年ぶりになる。
街のど真ん中を突っ切って福岡空港へ。
博多駅へは2駅分の距離にある。
空港に晩夏の日差しが降り注ぐ。
空港の周囲を大きな看板が取り巻いている。
その看板たちが光を浴びている。
その光景がオレが最後に見た8月の思い出になる。
島原半島と大村湾ではスコールのような雨に打たれ、昨日は筑後川周辺でもひどい降りに遭った。
歴史的な雨といつもオレは表現している。
太古の昔から変わらない地球の営みが、数多くの自然を残した土地を濡らす瞬間に立ち会う時、雨は東京で浴びるものと違って、ある意味虹色を帯びる。
激しければ激しいほど、記憶に残る。
かつての青森、松山。
そして今は夏。
昨日の桜島には雲がかかっていた。
天文館で飲んだ友が言っていた。
桜島に雲がかかった翌日は雨が降ると。
そしてその通りになった。
敬虔な気持ちでいる。
旅はここで終わり、友にメールを送り、幸せな気持ちでビールを飲んでいる。
素晴らしいエンディングだ。
24:17 東京葛飾金町
ここに戻ってくるまで旅は続いた。
東京モノレールでは、荷物置きの手摺に腰を下ろして、羽田の明かりが届くあたりまでは、時折思い出したように東京の夜景を眺めていた。
九州の大地はオレから女々しさを奪った。
そっちのことはそっちでしっかりと考えろと、きっと九州の様々な神が教えてくれたのだろう。
東京で暮らす悩みやその他のつまらない思いが九州で顔を出すことはなかった。
土地の神には今日も救われた。
当初の計画に従って佐世保に行っていたら、フライトには間に合わなかっただろう。
仮に間に合ったとしても、焦って最後の行程を空しく費やすことになっただろう。
こっちも雨が降ったんだな。
今夜は涼しい。
ずっと30度以上の気温が続いていた歴史的な記録は、今日で途切れたのだろう。
関連記事
-
-
「鉄旅日記」2016年夏【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】2日目(弘前-小樽)その1-弘前、蟹田、津軽二股、奥津軽いまべつ、木古内、札苅、桔梗、新函館北斗、大中山(奥羽本線/津軽線/北海道新幹線/道南いさりび鉄道/函館本線)
鉄旅日記2016年8月11日・・・弘前駅、蟹田駅、津軽二股駅、奥津軽いまべつ駅、木古内駅、札苅駅、桔
-
-
「鉄旅日記」2015年夏【日本最南端の終着駅、枕崎までの往復旅】初日(東京-新南陽)-はりま勝原、阿品、島田、新南陽(山陽本線)
鉄旅日記2015年8月12日・・・はりま勝原駅、阿品駅、島田駅、新南陽駅(山陽本線) 2015・
-
-
「鉄旅日記」2019年長月【三陸鉄道、八戸線に乗りにいきました。区界、吉里吉里など、駅旅の者として見過ごせない駅にも寄りましてございます。】2日目(盛岡-宮古)その2-釜石、津軽石、宮古、田野畑、堀内(三陸鉄道リアス線)
鉄旅日記2019年9月22日・・・釜石駅、津軽石駅、宮古駅、田野畑駅、堀内駅(三陸鉄道リアス線)
-
-
「鉄旅日記」2016年夏【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】3日目(小樽-富良野)その2-深川、増毛、留萌、北一已、深川、旭川、美瑛、千代ヶ丘、富良野(留萌本線/函館本線/富良野線)
鉄旅日記2016年8月12日・・・深川駅、増毛駅、留萌駅、北一已駅、深川駅、旭川駅、美瑛駅、千代ヶ丘
-
-
「鉄旅日記」2008年初秋【秋になると北陸に行きたくなるものでございます。能登半島をはじめ、いくつもの終着駅へと行き着いたのでございます。】初日(東京-羽咋)その2-新西金沢、野町、加賀一の宮、西金沢、羽咋(北陸本線/北陸鉄道石川線/七尾線)
鉄旅日記2008年9月13日・・・新西金沢駅、野町駅、加賀一の宮駅、西金沢駅、羽咋駅(北陸本線/北陸
-
-
「鉄旅日記」2012年夏【青春18きっぷで、北海道途中下車旅】3日目(室蘭-岩見沢)-室蘭、苫小牧、鵡川、静内、様似、追分、夕張、新夕張、清水沢(室蘭支線、室蘭本線、日高本線、石勝線、夕張支線)
鉄旅日記2012年8月13日・・・室蘭駅、苫小牧駅、鵡川駅、静内駅、様似駅、追分駅、夕張駅、新夕張駅
-
-
「鉄旅日記」2014年春【青春18きっぷで、丹後若狭から北陸、信州へ】初日(東京-西舞鶴)その2-東雲、宮津、天橋立、豊岡、国府、和田山、梁瀬、福知山、西舞鶴(北近畿タンゴ鉄道宮津線/山陰本線)
鉄旅日記2014年3月21日その2・・・東雲駅、宮津駅、天橋立駅、豊岡駅、国府駅、和田山駅、梁瀬駅、
-
-
「鉄旅日記」2016年夏【じきに廃線を迎える留萌~増毛に用がありました】最終日(大館-東京)-大館、十和田南、荒屋新町、前沢、一ノ関、愛宕、国府多賀城、陸前山王、北白川、東白石、蒲須坂、片岡(花輪線/東北本線)
鉄旅日記2016年8月13日・・・大館駅、十和田南駅、荒屋新町駅、前沢駅、一ノ関駅、愛宕駅、国府多賀
-
-
「鉄旅日記」2012年夏【青春18きっぷで、新潟・みちのくひとり旅】初日(東京-横手)-郡山、津川、亀田、さつき野、水原、坂町、村上、あつみ温泉、鶴岡、余目、刈和野(東北本線、磐越西線、信越本線、羽越本線、陸羽西線、奥羽本線)
鉄旅日記2012年8月11日・・・郡山駅、津川駅、亀田駅、さつき野駅、水原駅、坂町駅、村上駅、あつみ
-
-
「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】最終日(JR難波-東京)その1-JR難波、八尾、奈良、笠置、伊賀上野、上野市、伊賀神戸、伊勢中川、近鉄長島、長島(関西本線/伊賀鉄道/近鉄大阪線/近鉄名古屋線)
鉄旅日記2017年3月20日・・・JR難波駅、八尾駅、奈良駅、笠置駅、伊賀上野駅、上野市駅、伊賀神戸