「車旅日記」2004年春【旭川に下りて、思う存分に北の大地を走った旅の記録でございます】4日目(旭川-稚内)走行距離428㎞その2-雄武町日の出岬、マリーンアイランド岡島、千畳岩、神威岬、クッチャロ湖、さるふつ公園、宗谷岬、稚内駅
車旅日記2004年5月4日
14:19 雄武町日の出岬 (5月1日の旭川空港より1466km)
オホーツク紋別空港の明かりが、戻ってきたオレを出迎え、興部を過ぎた。
3日前の夜、海の気配を感じて窓を開け、波の音を聞いた区間がある。
そこにこうして明るい内に戻ってきて、あの夜には見えなかった風景の中を走る気分はとてもよかった。
オホーツク鉄道は、かつて興部まで延びていたことが分かった。
レール跡と鉄橋跡を発見して触れてみた。
枕木からレールまで全部剥がして回ったんだな。
跨線橋という名も残っている。
先に進めばさらに知りたい事実が見えてくるだろう。
海の彼方が輝きだした。
オホーツク海のムコウの国はきっと晴れている。
波が高い。
時計の針が止まった公園でひとりぼんやりしている。
北へ向かうんだ。
楽しくて仕方ない。
きれいなホテルが建つこの岬を離れ、さらに次の岬へ。
15:24 238号国道 道の駅マリーンアイランド岡島 (5月1日の旭川空港より1521km)
茫漠たるオホーツク海に沿ってひたすら北上している。
雄武から沿道に町らしいものはなく、僅かに漁港があり、あるいは集落が点在している。
5、6軒固まっているのは同じ一族だろう。
雲が低く垂れ込めた鈍い虹色の空はようやく晴れて、強い風が吹きつけている。
180度に広がる空の端にはオホーツク海と雪を頂いた連山があり、あとは原始的な河川と遊牧地。
ほとんど人の手がついていないような緑の大地が広がっている。
レールは剥がされ、人々は土地を離れた。
トム・ウェイツが歌っている。
「ここから脱け出す列車に乗ったけど、その列車じゃ故郷には帰れない」
茫々とした気分だ。
最果ての北の街に向かっていることを実感している。
稚内まで150kmを切っている。
15:45 238号国道 千畳岩パーキング (5月1日の旭川空港より1533km)
岩を見にきたんだよ。
少し風景に飽いていたから。
でも岩より、枝幸の町に向かって波が押し寄せる風景の方がいい。
そのうちゴジラでも上陸してきそうだ。
町の背後には雪を散らした低い山並が連なっている。
やけにこの風景を気に入っている。
日差しが強くなりサングラスを取りだし、Tシャツ姿になる。
そして沿岸に目を戻すと、変わらず白い波が町に押し寄せている。
波も町も山もすべてが白い。
16:09 神威岬 (5月1日の旭川空港より1551km)
マンモスの頭のような荒々しく切り立った巨岩が海に向かって突き出している。
神の庭にとうとう足を踏み入れた。
そんな気がしている。
これは神の仕業だ。
神にしか造れない風景を見ている・・・。
国道を逸れて神の庭に入ってくる者は見られない。
日の光り、轟音と共に打ち寄せる波、すべてが神々しく、岩は威厳に満ちて、しばらくここにいると波の音を神の声だと錯覚しそうになる。
この道は冬季通行止め。
神の庭に入ることを許される期間は半年のみ。
まるで台風の時のような高波が、神を慕うように何度も岬に押し寄せてくる。
どうかこれからの人生で、オレが信頼を寄せる神に加勢してやってくれないか。
16:39 クッチャロ湖 (5月1日の旭川空港より1568km)
明治の開拓民もここまでは牛や馬を引っ張ってこられなかった。
国道の風景は荒々しさを増し、打ち寄せる波は恐怖心さえ抱かせ、平原は原始のまま放置されている。
人間の抵抗の跡は4本の巨大な風力発電塔として僅かに見られる。
ここは白鳥の湖。
鴨や海猫の姿もある。
夥しい数の白鳥は群れをなし、訪れてくる人間を無視して、やかましく鳴いている。
オレは風の音を聞いている。
物凄い風だ。
神の庭は先の神威岬に留まらず、この原始の湖もそんな場所なのだと強烈に感じる。
北へ向かう者はとうとうオレだけになり、たまにすれ違う連中は北からの避難民のようにも思えてくる。
「もうこれ以上先へは行かない方がいい」。
そう言われているような気がしてくる。
17:15 238号国道 道の駅さるふつ公園 (5月1日の旭川空港より1600km)
あぁ、何と表現すべきか。
とにかく凄い場所にいる。
目の前の地平線は原野と雲で埋め尽くされ、足を踏み入れるべきではないと思わせる湿原が点在している。
海側の原生花園は広く、海は視界から消えて、まるで大陸を眺めているかのようだ。
神が寄越す風は強く、「辛抱強く生きていけ」と教えるかのようだ。
北へ向かっている。
走り去っていった者たちも意識している。
オレたちは北へ向かっているのだと。
17:55 宗谷岬 (5月1日の旭川空港より1631km)
こんなにも強く冷たい風を受けたことはない。
手は凍りつくかのように機能を失いつつある。
日本最北端の岬に身を凍らせるシベリアからの強風が吹きつけている。
天からは何層もの光が雲間を突き破り海へと消えていく。
気でも狂ったかのように若者が駆け回り、人々は身を縮めながら寒さに耐え、日本最北端の碑があるモニュメントの前に立つ。
土産物屋に客引きの姿はなく、強風の中で沈黙している。
目の前が宗谷海峡。
真っ直ぐな水平線がどこまでも延びている。
こんなにも寒いのか。
北とはこうまで寒いのか。
ここが最果て。
これ以上先へは行けない。
でも行けるのなら、いつかオレは行くだろう。
18:56 稚内駅 (5月1日の旭川空港より1667km)
函館から細々と延びてきた単線のレールが、旅の終わりの果てに到着する古ぼけた駅。
最果ての終着駅、稚内。
ホームはただひとつ。
朽ち果てそうな柱を従えて、周囲の建物に隠れるようにひっそりと鎮座している。
「ここじゃ、オレが一番古いのだ」と誇っているようにも見える。
長いこと列車に揺られてたどり着いた駅がここだったらと想像してみる。
物悲しさを感じるかもしれない。
今着いた列車が出ていけば、乗り遅れた者は3時間ばかり時間を潰さなきゃならない。
それはとてつもなく重い時間のように思える。
待合所では2名の身なりのよくない男が口論している。
駅員は改札業務を終え、駅は3時間沈黙する。
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