「車旅日記」2000年春【一年のブランクを経て、旅再開。出発場所は東京町田から、下町葛飾へと変わっております。】最終日(郡山‐茂木‐下館‐東京)郡山スターホテル、新白河駅、黒羽くらしの館、茂木駅、下館駅、みつかいどうロードパーク、葛飾金町
車旅日記2000年5月7日
2000・5・7 8:35 郡山スターホテル510号室
最後の朝がやってきた。
空は相変わらず曇っている。
朝食の場所は昨日集まって飲んだ店。
オレたちが座っていた席はただひっそりとしていた。
思い出の場所に行った時のような気分だったよ。
友の暮らす街でひとりの素敵な女性と出会えて、友との再会も喜べたこの旅は、運にも恵まれた素晴らしい旅だった。
あと今日を残すのみ。
心境としてはやるべきことをすべて終えて、東京に帰るというのに一番近い。
今日も走ったことのない道を往く。
それが今回の旅のこだわり。
10:08 新白河駅 1309㎞
たんたんと事が運んでいる。
今日最初にかけたバート・バカラックもたんたんとライヴを進行して終わり、やがて何度か寄ったことのあるこの駅に着いた。
郡山への最後の挨拶もたんたんとしたもので、もう離れてしまった。
道中頭に浮かんだことを思い出せない。
何か不安を抱えていたような気がする。
10:53 294号国道‐黒羽くらしの館 1340㎞
鉄道沿線を外れたこのルートに期待は抱いていなかったが、旅情あふれる素晴らしいカントリーロードだった。
ところどころ狭い区間もあるが、大体はよく舗装され、とても走りやすい。
路傍には石碑がいくつか並び、沿道の道々がたどってきた歴史に対する住民のリスペクトが感じられる。
田圃を越え、いくつもの川を渡ると、この場所に出た。
「くらしの館」はとても興味深いものだった。
そこにいたのはわずかな時間だが、思わず笑みがこぼれた。
車の中で甲斐バンドの「シーズン」がかかると目頭が熱くなった。
さよなら昨日までの素晴らしき日々。
12:02 茂木駅 1386㎞
少しタフなワインディングロードを抜け、ここは真岡鉄道の終着駅。
終着駅には他の駅には感じない思いを持っている。
オレが本当にやりたいと思っているのは線路を歩いていくことなんだ。
真岡を通り過ぎたその旅はここで終わる。
その時の気持ちに思いを馳せた。
初日の栃木路とはずいぶん趣が違う。
今日の方が野趣に富んでいる。
こうした駅に寄ると、まだ旅の途中であることを実感できる。
関東にもまだまだ知らない場所が残されている。
13:30 下館駅 1430㎞
益子市街を抜けると、ルートには東京の匂いがちらほらしてきた。
遠くに見えた立派な益子駅が、この旅最後の旅情を映す場所を思わせた。
見慣れない列車が止まっている。
この駅にはJRに関東鉄道、そして真岡鉄道が通っている。
東京にも近くなってきた。
コーヒーとカロリーメイトを買いに立ち寄った店の女性がことのほか素敵だった。
14:24 294号国道‐みつかいどうロードパーク 1462㎞
下館からは平らな田園地帯。
6号国道まではあとわずか。
オレの暮らす町までおそらく50㎞を切っている。
この旅の終わりも近い。
広大な田園が広がっている。
見渡す限りに山を見ないため、東北の山河とは趣を異にするが、なかなかの眺めだ。
もしかしたら車を止めるのはここが最後になるかもしれない。
294号国道はドライバーには親切で、立ち寄ることはなかったが、ここに着くまでに2つの道の駅が用意されていた。
次に通ることがあるなら計画を立てやすい。
さあ、もう少し。
もうじきこの旅も終わる。
とうとう特定の女性を想うこともなく、この旅も終わる。
20:59 東京葛飾金町 1504㎞
金町に帰り着いたのは約5時間前。
長い旅だったけど、帰りはすんなりといった。
心配していた車の傷は、どうやら以前からあったものらしい。
心を曇らせる必要などなかった。
6号国道では柏あたりで滞っただけで、苛立つことはなかった。
東京入りがこんなにも楽だとは思っておらず、事は計画通りに運び、5日間一緒だった品川ナンバーのヴィッツに別れを告げた。
小さいなりの割によく走る車で、財布をずいぶん助けてくれた。
1500㎞を走って約7000円。
ボディにキスしてやりたかったよ。
名残惜しくて何度か振り返る。
レンタカー屋は怪訝そうな顔をしている。
ひとりで旅しなきゃ、この気持ちは分からないだろう。
今夜はどこの車庫に収まるのだろう。
夏にまた指名するよ。
今回とまた同じやつに乗っかりたいものだ。
部屋に戻ると真っ先にビールを開ける。
そいつが今飲んでいる十和田ワインや、さっきまで飲んでいた田沢湖ビールよりも効いたよ。
疲れや焦り、不安がその1本に降りかかったのだろう。
ひと通りの片づけを終えて夕食の買い出しに行き、かごをぶら提げて物色している時、昨日郡山で友人に紹介された女性を思い出した。
彼女は郡山駅近くで、オレと同じようにひとり暮らしている。
こんなふうに買い物もするだろう。
「またお会いしましょう」。
そう言って昨夜自転車で帰っていく彼女を見送った。
はっきり言うが、オレは社交辞令を言ったことはこれまでにない。
もうひとつ。
ウソを言うわけでも希望的観測を書き残したいわけでもなく、彼女にはまた会えると確信している。
もしかしたら今後、彼女の存在が大きくなっていくかもしれない。
昨夜の友人と彼女との別れの後は泣きたかったよ。
今日は旅の最終日。
ここに帰ってきてからもテレビなんかつけないでやっていこうと思った。
寂しくなるかもしれないと思いつつ、さっき手に入れたオリジナル・ラヴの楽曲が救ってくれた。
これでいい。
旅の空の下にいる間に、今度は佐賀で悲劇が起きたという。
詳細など知りたくなかった。
聞きたくなんかないんだ。
馬鹿なヤツらが何をしたかなんか知りたくない。
オレには心配する人がいる。
その人たちを守れる場所にいないことで自身を責める時は、どうしていいか分からなくて、悲しくて。
映画「グリーンマイル」に登場する大男のコーフィーの言葉をよく思い出す。
「もう悲しいことを見聞きしたくないんだ。つらくて。」
そして彼はグリーンマイルを歩き、電気椅子に座る。
一度ひとりで旅に出てみるといいんだ。
そしたら分かるだろう。
東北じゃ胸を張って生きていたのに、なぜ東京じゃうまくいかなったのか。
そんなことも考えた。
ひとつ確信したことがある。
人生において不安を持たない時期などないのだと。
旅を彩ってくれた様々な楽曲の中で、気分を高揚させてくれたものを再びかけることはなかった。
もう終わったことなのだと、前を向いて次のCDをセットした。
それでいい。
夏にはどこに行こうか。
どうでもいいが、今夜の酒代はずいぶん高くついた。
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