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「鉄旅日記」2007年皐月【夜汽車に乗って東京を離れ、山陰山陽へ。鉄旅最初の長旅でございました。】初日(東京-米子)-静岡、豊橋、本竜野、播磨新宮、佐用、東津山、米子(東海道本線/姫新線/因美線/山陰本線)

公開日: : 最終更新日:2024/05/15 旅話, 旅話 2007年

鉄旅日記2007年5月3日・・・静岡駅、豊橋駅、本竜野駅、播磨新宮駅、佐用駅、東津山駅、米子駅(東海道本線/姫新線/因美線/山陰本線)

2007・5・3 1:54 静岡駅(東海道新幹線/東海道本線 静岡県)
東京駅を最後に出る夜汽車に乗る。
「ムーンライトながら」。

品川、横浜、大船、小田原、熱海、三島、富士、そして静岡。
長い静岡県内ではこの夜行列車は終電車にあたる。
熱海や三島で乗ってきて途中で降りていく者たちがいる。

ここで20分の停車。
ビール1本じゃ眠れない。
よく眠れるはずもない。
西へ向かう夜行列車は満杯。

今夜は月がきれいだ。
ずっと目で追っていたよ。

東京駅を出た直後に、だから彼女にも伝えたんだ。
「月がきれいです」。

4:35 豊橋駅(東海道新幹線/東海道本線/飯田線/名鉄本線 愛知県)
浜松で25分の停車。
ここ豊橋では40分の停車。
夜は案外早く明けていくものだ。

改札を出て朝食を仕入れる。
街は朝を迎える準備を整いきれていない。

東の空が明るくなってきた。

7:29 米原駅手前
豊橋からはほぼ各駅停車となり、三河と尾張の客を集めていく。
東京からの満員状態にうんざりしている人々は、名古屋で混雑の緩和がなされると思っていたが、案に相違して状態は変わらない。

東海道は長い。
三河湾、蒲郡競艇場、名古屋、一宮、木曽川、揖斐川、長良川、岐阜、そして夜行列車の終点大垣。

乗り換え客の凄まじさは東京の朝を思わせる。
その集団はそのまま加古川行に吸い込まれたようにも思ったが、そうでもないらしい。
一体どこへ向かったのだろう。
答えは出ていない。

伊吹山地に漂う朝靄、太平記の里、近江長岡、大垣の元駅員宿舎のような廃墟。

そんな風景を目に焼きつけながら西に向かっている。

9:51 西明石を過ぎて
須磨の海は遥かなり。
山陽道にもこうした素晴らしい車窓風景があったとは。

海に浮かぶ巨大な釣り堀では多くの釣り師が連休と青空を楽しんでいる。

やがて明石海峡大橋が見えてくる。
何年ぶりになるのか。

狭い海峡の先に浮かぶ淡路島は霞んでいた。

11:34 本竜野駅(姫新線 兵庫県)
姫路では名物の「駅そば」を食べる。
和風のつゆに中華麺が。
確かにここでしか味わえないだろう。

姫路城は案外遠くに見えた。
姫路での記憶も、明石で思い出していた記憶と同じ日のもの。

車寅次郎が、太地喜和子さん演じる播磨芸者の「ぼたん」と恋をした播州龍野。
駅から少し離れた揖保川沿いに城跡があり、古い家並が密集した町で、高台にある市庁舎があたりを睥睨している。

「男はつらいよ」の時代の匂いは嗅いだ。
夏とかき氷が似合いそうな民話とソーメンの町だった。


12:38 播磨新宮駅(姫新線 兵庫県)
女子高生たちが行ってしまって、重いディーゼル音が響き渡った。

新宮八幡神社は新宮藩陣屋跡でもあり、杉の大木が変わりゆく世界から風景を守っている。
神前ではこの町の発展と、かすかに彼女とのことを願った。

あの吊橋はおそらくこの町の名物なのだろう。
城跡へと続く立派な橋を渡った先には結婚式場があった。
葛飾を出てから半日。
姫路を離れた姫新線はかつての国境をいくつか越えた。

播磨の国は低い山に囲まれている。
このまま作州津山まで大きな街を通ることはない。

13:43 佐用駅(姫新線/智頭急行 兵庫県)
「あさぎりと星の都」佐用は、智頭急行との接続駅。
佐用川沿いの小さな町だった。

おそらく智頭急行の開通によって新しくなったのだろう。
無機的なコンクリートの駅舎が町の中心にある。

どんな歴史があったのか知らないが、今は鉄道の町に見える。
一番元気そうに見えたのはスポーツ用品店だった。
「時代屋」という酒場に、寿司屋が一軒。

ここを出ると、次は尼子一族と英雄山中鹿之助の希望と絶望の地、上月。

16:23 東津山駅(姫新線/因美線 岡山県)
美作の国都、津山。
駅も街も記憶より小さかった。

タクシー運転手の横で、「駅そば」のカレーうどん。

因美線の発車まで待たねばならず、歩き出す。
隣駅の東津山まで。

街中を吉井川が突っ切っている。
廃れたアーケード街に、映画館が入った角の場末を思わせるビル。
学校帰りの高校生の他に街を歩く者を見ない。

津山は城下町。
3年前だったか、4年前だったか。
あの時は城跡には気づかなかった。
街を見下ろす小高い場所で、その美しい姿を見せている。

吉井川へと流れ込む小川に鯉幟が架かる様は壮観だった。
去年の5月、同じような風景を津軽の大鰐温泉で見ている。

駅につながる大通りを挟んでは新旧の大型店がにらみ合っている。
旧勢力は街に溶け込み、新勢力は街に革新を迫っている。
最近じゃそうした対立のない旧国都は存在しないだろう。

ここ東津山駅で因美線、智頭行を待っている。

数時間前に姫新線で通り過ぎた林野。
そこからやってきた話好きのオジサンに話しかけられたが、何を言っているのかほとんど理解できず、適当に相槌を打つよりほかになかった。

無人の待合所に、いい香りとは言いがたい甘い匂いが漂っている。
その匂いを発しているのが、線路を挟んだ所に立つティッシュ工場なのだと気づくのに時間がかかった。

23:14 ホテルα1米子301号
因美線の道は記憶通りだった。

津山を過ぎると右手に印象的な山が見えて、やがて物見峠に向けて坂を上がっていく。
ディーゼル車はその急勾配を苦しげな音を響かせながら上がっていく。

秘境駅として取り上げられた知和駅を確認した。
国境を越えると坂を下る。

下りきったところに智頭がある。
乗換の鳥取行はすぐに出るので改札を出る時間はなかったけど、駅前風景は3年前のままだった。
あの日にあたたかな気持ちに浸った駅灯の灯を見たかったけれど。

鳥取駅周辺はかつて寄ったいかなる時よりも賑わっていた。

記憶の中にある鳥取はもっと廃れていた。
夜の明かりに目をくらませたのかもしれないが、鳥取は大丈夫。
そう感じられたことは喜びだった。
若者たちも爽やか。
土産を鞄に詰めてビールを飲みながら米子行の発車を待った。
白兎の像があったはずだが、それだけが見当たらなかった。

米子までの山陰路からはすでに明かりが消えていた。
向かいに座っていた美しい因州娘は倉吉で降りた。
かつて頻繁に甲子園に姿を見せていた倉吉北高校のある倉吉は気になっていたが、同じく闇に包まれていた。

米子は鉄道の街。
山陰じゃ一番大きな駅になるのだろう。
山陰本線に、陰陽連絡線の伯備線、そして日本最大の漁港でもある境港へ向かう境線と3線が乗り入れている。
国鉄の頃は機関区があったという。

駅前では地元のラッパー共が都会に対して一歩も引かない態度を示している。
通りを歩く人は見かけないが、酒場はいっぱい。

客のいない寿司屋に入る。
好々爺の大将の握る寿司は美味く、彼の耳は遠かったけど話は弾んだ。
素敵な時間だった。

親父からメールが入った。
見合い話が持ち上がり、その女性が会いたいと言ってきたらしい。

島田雅彦さんの「無限カノン3部作」を読みながら、ずっと愛について考えていた。
答えの出ない話だ。

作州娘も因州娘も美しかった。
明日は雲州娘、芸州娘を見る。
だけどオレはずっと彼女を想っていたよ。

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