「鉄旅日記」2006年初夏【これが最後の車旅でございます。鈴鹿山脈を回るように、終着駅を探して走ったのでございます。】初日-平塚、国府津、沼津、掛川、三河大塚、尾張一宮、岐阜(東海道本線/御殿場線)
鉄旅日記2006年7月15日
2006・7・15 20:30 東横イン名鉄岐阜813号
暑い朝だった。
目覚まし音を待つまでもなく4:30には目覚めていた。
のんびりと時間を過ごして朝刊の配達を待ったが、来ない。
やたらに新聞受けにたまっているのを見るのが嫌なんだ。
それに3日も家を空ければ不安も出てくる。
何より新聞に目を通したい。
でもやっぱり来ない。
じゃあ出発か。
外に出たら、なかなかに爽やか。
岐阜まで6,300円。
旅は始まった。
まずは平塚まで。
折よく平塚行に乗り合わせる。
七夕祭りを終えた街の朝は気怠くて、強い日差しが街行く人々の足取りを重くさせている。
駅から湘南海岸は遠く、嗅ぎたかった潮の香りは街まで届かない。
駅前風景は都会的で、テレビ塔も都会的な姿をしている。
かつて中田英寿が所属していたベルマーレ平塚がJ2に降格してから久しい。
全日本プロレス中継が1時間枠から30分枠に短縮される際、1時間枠で最後に放送された大会の開催地が平塚だったと記憶している。
メインイベントは、川田利明×スタン・ハンセンのチャンピオン・カーニバル公式戦だった。
平塚球場には横浜ベイスターズ×中日ドラゴンズがやってくると、貼られていたポスターで知った。
平塚駅に入居している食堂連は、駅での商売ゆえに朝からやる気に満ちている。
朝からカレーというのはオレの選択肢にはないが、「朝カレー」というメニューを掲げているカレー屋の前を2度通り、2度とも気持ちは揺れた。
東海道本線からはすでに湘南の海が見え隠れしている。
行先にはこんもりとした高麗山が印象的な姿を見せている。
進むにつれて奥行きを持つ山であることを知る。
国府津まで。
跨線橋から西湘の海が見える。
あたりは鄙びている。
オレにとっては都合のいい景観と旅情。
そして夏の到来を感じた。
駅前には古い商店しかなく、田舎駅のたたずまい。
海までは歩いていけないこともない。
団体職員宿舎のような白い駅には威厳がある。
ターミナル駅でもあり、開業当初から重要な駅だったのだろう。
御殿場線に乗り換える。
単線の線路は山北まで街道を逸れる。
工場や水田の脇を往く。
相模湾は離れていき、葬儀に出席するご夫婦の話し言葉には明らかな訛があった。
山北、御殿場、岩波、裾野。
富士の属峰の裾に広がる高原地帯は懐かしくもあり、目にしたかった風景でもある。
放牧地帯や自衛隊の演習場を想起する。
実際に自衛隊はそこでサバイバル的な訓練を行うと聞いたことがある。
満員の乗客を乗せたまま、やがて沼津。
沼津駅は変貌していた。
駅前風景に変化はない。
アーケード街に西武百貨店。
2018年9月15日撮影
かつての恋人と少しだけ街を歩いたことがある。
あれから10年になる。
そんな過去をごく軽い気持ちで思い出していた。
静岡までは眠ってしまった。
高架ホームから見渡す静岡は見事なまでに都会だった。
いつか泊まることを考えることもあるだろう。
掛川へ。
昼時でもあり蕎麦屋に入る。
そこまでの道で、ラーメン屋を除いて他に食堂を見かけた記憶がない。
街は掛川城の他に見所を持つようには見えず、静まりかえっている。
天竜浜名湖鉄道の駅舎には味があった。
掛川は関ヶ原合戦までの山内一豊の居城。
そうした理由で大河ドラマ「功名が辻」のポスターが至るところに目立つ。
地下道を通って新幹線口に回ると行列ができている。
流行りのラーメン屋が作る行列などとは規模が違うので何事かと思ったが、あれはエコバへ向かうバスに乗るための列なのだろう。
今夜はJリーグのオールスター戦。
その会場なのだろう。
浜松へ、豊橋へ。
弁天島の風景はいつ来ても素晴らしく、かつて東京駅と大阪駅を同時に発車した列車がすれ違う場所で、その撮影のために全国から集まる鉄道ファンで大変な騒ぎだったと、乗り合わせた初老の男性が奥さんに話して聞かせていた。
さらに、名阪地帯からやってくる列車は豊橋止まりだったのが、最近じゃ浜松まで延びたとも聞いた。
豊橋からは岐阜行各駅停車に乗り換える。
三河湾を見たかった。
三河大塚駅で、案外近くに海が見えたことから衝動的に降りる。
開業30周年という比較的新しい駅だった。
しかし三河湾は遠く、小高い場所から眺めることで目的は済ませた。
駅に戻り缶コーヒーと煙草。
並行する新幹線高架を何本もが行き交う様を漠然と眺め、お墓に手向ける花を手にした女性を眺め、背後の墓地を眺め、夏空を見上げた。
女性とは何度か目を合わせ、暑さの中を列車の到着を待った。
急行列車に貨物列車が行き過ぎる。
暑かったけど、今年でいえば、2月の安房勝山駅、大津港駅についで思い出深き三河での一場面だった。
蒲郡の競艇場、岡崎、刈谷。
三河人、尾張人の中に紛れていることにすでに抵抗はなく、また眠りに落ちる。
金山、そして名古屋。
4月5日にストーンズの名古屋ドーム公演を見終えて、尾張人に紛れて酒を飲んだ後、深夜に立った名古屋駅のホームとは違って雑踏。
あの夜を偲ぶことはできず、次の駅では大都会名古屋は終わっていた。
尾張一宮まで。
改札を抜けると明るい商店街で、まずは本屋に寄り、探していた井上ひさしさんの「吉里吉里人」上中下巻3冊を購入。
5月の旅で吉里吉里駅に寄って以来ずっと探していたが見当たらず、ここ一宮で探し得たことに縁を感じる。
強い日差しを送っていた夏空はすでになく、雨が落ちていた。
中町商店街まで。
雨降りの夕暮れの街に人の通りは少ない。
かつて繊維産業で栄えた街と聞いていて、今はその面影はないとも聞いていた。
尾張一宮は、NWA世界王座をジャイアント馬場から奪回した王者ハーリー・レイスが、仮面貴族ミル・マスカラスを挑戦者に迎えた街であり、同じくジャイアント馬場を破りPWF王者となったキラー・トーア・カマタが、挑戦者ビル・ロビンソンに破れた街でもある。
木曽川が繁栄を支えていたのだろう。
名鉄側には百貨店が聳え、JR側には煤けた色の駅舎がある。
立派な姿で、伝説の名大関にでも不意に出会ったような気にさせられた。
外からじゃ2階、3階は空のように見えたけど、3階の片隅には広告会社の所在を伝える貼り紙が窓にあった。
次の木曽川駅が夜を待つ風情は美しかった。
岐阜駅前は変わり果てていて、雨粒は大きくなっていた。
かつて寄った際には存在していた時代遅れの駅前デパートは撤去され、跡地には工事中のロープが張り巡らされている。
広大な空地となった空間に、新幹線駅のような姿となった岐阜駅がぽつんと街から浮いていた。
2017年8月11日撮影
1軒も開いていない薄暗い繊維街を抜けて大通りへ。
廃墟もあるし、更地もある。
悲しいくらい人を見かけなかったけど、街は長良川まで続く。
2017年8月11日撮影
柳ヶ瀬は岐阜一番の繁華街。
まだ時間が早いせいかアーケード街に人通りは少なく、路地に灯るスナックの灯も暗い。
気に入った店もなく、ただ歩いた。
金華橋が架かる長良川までは歩いていける距離じゃないらしい。
名鉄市内線が走る路面軌道があるが、縦横に走るはずの路面電車をまったく見ない。
廃線になったのだろうか。
開放的なおでん屋には気持ちを誘われたけど、19時開店とのこと。
のんびりしたものだ。
あちこち物色して歩くうちに名鉄岐阜駅へ。
近くの海鮮居酒屋に入る。
本来は回転寿司屋だが、回っていない。
オレはそれで構わなく、美味いものを食べた。
地方にしては高いと感じたよ。
山上のテレビ塔と稲葉山城がライトアップされている。
岐阜城は市内から離れている。
織田信長が築いた中世の岐阜の繁栄は、現在でいえばどのあたりに見られたのだろうか。
「柳ヶ瀬ブルース」が流行った頃の岐阜はどんな雰囲気だったのか。
雨が降る夜を歌っていた。
夜景に参加していた高島屋はネオンを消してしまったが、山上の2拠点はまだその存在を消していない。
城下町だが、かなり特殊な街の構造といえる。
昨日と変わらず破壊的に暑い一日も終わる。
ライトアップが消えた。
それでも岐阜の街明かりは十分だ。
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