「鉄旅日記」2019年弥生Part.2 その1-天王台、植田、泉、いわき、富岡(常磐線) 【青春18きっぷ常磐旅。この当時、常磐線は富岡止まりでございます。そしてこの季節、臨時駅の偕楽園駅に列車が止まります。】
鉄旅日記2019年3月10日・・・天王台駅、植田駅、泉駅、いわき駅、富岡駅(常磐線)
2019・3・10 5:47 天王台(てんのうだい)駅(常磐線 千葉県)
朝焼けの町に降りる。

かつて北へ向かう旅の途中に寄った駅でもある。
あの時は夜だった。
こんな駅前だったな。
夜明けの空が美しく、コンビニの明かりに誘われてウイスキーハイボールを購入。


この町に暮らす女性から2年振りに連絡があった。
仕事での付き合いだが、飲みに誘ってほしいとメールにはある。
当時もそんな話をしていた。
2年もあれば、その間に何かあるものだ。
彼女との縁に感謝して、週明けに再会に向けた動きをしようと思う。
利根川を渡った。
空が真っ赤に染まっていた。
8:26 植田(うえだ)駅(常磐線 福島県)
常磐国境を越えていわきにいる。
日差しに満ちた車内は暖かく、水戸で買いたしたウイスキーハイボールの酔いも手伝い、うららかな陽気の中で目をつぶり、関東平野を眺めていた。
岩間で山塊が現れ、常陸多賀を過ぎるとまぶしい太平洋が現れる。
東日本大震災が起きたのは8年前の明日。
多くのものを奪い去ったあの海。
けれど海が悪いわけじゃない。
昨日たまたま目にした番組で被災者がそう語っていた。
実直な駅長さんに切符を見せて降りる。
居酒屋やスナックが並ぶ駅前もまた日差しに満ちている。
ひと回りして駅に戻る。
離れがたい思いにかられた素敵な町だった。



8:53 泉(いずみ)駅(常磐線 福島県)
奥州泉藩城下町の石碑が立つ駅前。
藩主は徳川四天王のひとり本多平八郎忠勝の血をひく。

幕末戊辰戦争の際は、奥羽越列藩同盟に加盟。
会津に向かう新政府軍の前に降伏開城したため、会津攻防戦における局面にその名はない。
大きく開放的な窓を持つ駅にはカモメが似合う。


「小名浜観光」の文字に懐かしさを誘われ、在りし日に思いを馳せる。
友と訪ねた灯台。
友と、やがてその伴侶になる女性とも訪ねた灯台。
50年の人生の記憶や魂に刻まれたものが、こうして不意に現れる時を歓迎している。
駅前に植田で見てきたように商店の類いはなく、歩き出せない。
今日3本目のウイスキーハイボール。
うららかな春の陽気が素敵な休日を寄越してくれた。
9:22 いわき駅(常磐線/磐越東線 福島県)
前述の友と待ち合わせたこともある。
あの当時の重厚な駅の姿はネットで探せばすぐに出てくるだろうが、オレは敢えて記憶を探っている。
あんな姿をしていたと、朧気に浮かんでくるものはある。
あれは確か2月だったよ。
あの日に泊まったホテルは名前を変えていて、あの日に飲みにいった店も同じだったかどうか分からない。
無常を感じる他にたいして意味のある行いじゃないが、オレという男の人生の中で、決して薄れることのない存在を持つ街ではある。



列車は限界地とも言える富岡に向けて走り出している。
四ツ倉を過ぎるとまぶしい太平洋。
この土地にいればあの震災を抜きにはできないが、打ち寄せる波に悪魔が乗り移る姿を見るのは、人生で一度きりで済むのだろう。
波打ち際。
その悪魔を防ぐ処置がとられつつある様を列車から眺めている。
10:05 富岡(とみおか)駅(常磐線 福島県)
護岸工事の槌音が響く駅前。
降りていった人々はどこへ向かったのだろう。


東日本大震災による東京電力福島第一原発事故の影響から、ここから浪江までの区間は現在も不通になっている。
みちのくの景色も冬枯れから緑を取り戻しつつある。
先週の紀伊半島よりも花粉を感じる。
富岡道中の行き帰りの風景に目をやると、変わらずうららかな春の陽気。
ただ、岸辺の風景は何もかもがすっかり変わってしまった。
もう戻らないものがあることを知る。
十分に知っているつもりでいたけれど、思い知らされる。
「富岡は負けない」の文字に触発されて、ウイスキーハイボールをもう一本。
酒の他に金を落とすものを思いつけないが、せめてね。
富岡から4駅前。
行きに通った広野駅は拓けていた。
再生の道を見つけたのだろう。
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