*

「鉄旅日記」2007年皐月 2日目(米子-福山)-松江、宍道、出雲横田、出雲坂根、備後落合、塩町、府中、福山(山陰本線/木次線/芸備線/福塩線)/福山城 【夜汽車で東京を離れ、山陰山陽へ。鉄旅最初の長旅でございました。】

公開日: : 最終更新日:2025/05/20 旅話, 旅話 2007年

鉄旅日記2007年5月4日・・・松江駅、宍道駅、出雲横田駅、出雲坂根駅、備後落合駅、塩町駅、府中駅、福山駅(山陰本線/木次線/芸備線/福塩線)/福山城

2007・5・4 10:21 松江駅(山陰本線 島根県)
大山が見たかった米子の朝。

8:07に通り過ぎた安来では、懸命に「安来節」を思い出そうとした。

街の大きさを見誤って、松江で2時間を過ごすことになった。

かつて2度の訪問はいずれも雨だったけど、3度目の正直の今日は晴れ。
昨日の親父からのメールを受けて、母親に電話を入れる。
そしてここ松江で正式に見合い話が決まった。

偶然一緒に降りた雲州娘が宍道湖大橋までの道連れ。
湖畔で大きく伸びをして風の強い街を歩いていく。

中海とをつなぐ運河に架かる橋に旅情を感じ、一度は駅に戻った。
だけど出雲市行は出たあと。

気を取り直して松江城に向かうバスに乗った。
松江城に興雲閣。
観光客は多い。


帰りはタクシーで駅まで。
運転手さんに街のことを聞くと、大人にはいいが、子供には退屈だと言う。
ただ街に対する誇りは感じられる。

「一畑」というブランドが松江にはある。
百貨店に、鉄道に、その冠がついている。

人情のいい街だ。
美人もまた多い。
鳥取、米子もそうだったが、自動改札は導入されておらず、笑顔の素敵な駅員さんが迎えてくれる街でもある。

ビールを飲みながら、次にくる益田行を待っている。

10:59 宍道駅(山陰本線/木次線 島根県)
宍道湖に沿う景勝路線で、湖と表情に愁いを帯びた出雲美人を眺めていた。

木次線へ。
広島へ。
計画とは違ったが、接続はいい。

涼し気な駅前から宍道湖は遠い。
地図を眺めるオレの横には、松江で見かけた時刻表を持つTシャツ姿の外人。

駅舎にはターミナル駅としての風格があった。
何やら車掌さんにケチをつけている男や、山登りの一団などを乗せてディーゼル車が間もなく発車する。

彼女にメールを送る。

12:48 出雲横田駅(木次線 島根県)
数分の停車。

13:17 出雲坂根駅(木次線 島根県)
スイッチバックと延命水の駅にはトロッコ列車が止まり、多くの鉄道ファンが集まり、そして乗り込んできた。

スイッチバック区間に差しかかり、車内が色めいている。
こうした雰囲気に乗り合わせるのは初めてだ。

鉄道にとっては尋常じゃない標高差を上がっていくわけだ。
出雲坂根駅が右下に見えた。

駅に残った人々はずっと列車の運行を見守っていたようだ。
手を振ってるよ。

車掌さんがさらに説明を加え、列車はあえいでいる。

13:59 備後落合駅(芸備線/木次線 広島県)
松江から一緒だった例の時刻表を抱えた外人は新見方面に去った。

東京で仕入れていた情報とは違う。
備後落合~備後西城間は台風の後遺症で、1月の高山本線の時のように代行バスが出ているはずじゃないのか。

普通に三次行が走っている。
復旧したのなら、それに越したことはない。

交通の要衝、備後落合は谷間の小集落だった。

木次線についで芸備線もまた険しい路線で、狭い崖上を速度を落として這うように進んでいる。

16:24 塩町駅(芸備線/福塩線 広島県)
ずいぶんと鄙びた駅に降り立ったものだ。
「福塩線」という線名の由来にもなっていることだし、てっきりターミナル駅かと思っていたが、たんなる分岐駅だった。

あたりに人里はあるが、商店はない。
一段高い位置にあるホームに降りた時には、駅舎すら持たない駅なのかと途方に暮れたけど、地下通路をくぐると駅舎内。

高校生がひとり待っている。
口笛だか鼻歌だかを発していたが、オレの姿を認めるとやめた。
礼儀正しい少年だと、その時思った。

駅舎を出て煙草を吸いながら身の振り方を考える。
でもいい案が浮かばない。
昼飯のアテもない。

そこへさっきの少年がいつの間に駅舎を抜け出していたのか、目の前を通りかかった。
丁重に聞いた。
ここで1時間半をつぶさなきゃならないが、何かアテはないだろうかと。

すぐの場所にはないが、セブンがあるという。
「セブン・イレブン」のことだ。
始終広島弁を喋ったいた少年がたった一言発した都会語だった。

そこまで案内してくれないかと頼むと、彼は快く引き受けて、共に川沿いの国道を往復40分歩いた。

庄原で生まれた彼は、塩町駅から坂を上がった場所にある高校に通う一年生で、バスケットボールをやっている。
そして黄金週間の今日も部活で学校に行っていたわけだ。

「オレも君の当時はそうだった。
剣道をやっていて休みなんかなかったよ」と、懐かしく話して聞かせた。
彼もいろいろな話を聞かせてくれたよ。

気になったのは、高校を卒業したら町を出るだろうと言ったこと。
そういうものなのかと応じた。
オレのような身勝手な旅行者は、できれば彼のような男には、生まれた町に残って、しっかりやっていってほしいと思う。

でも様々な情報を容易に手にできる現代人としては、ここでは得られない刺激を感じずにはいられないだろう。
またそれを感じずに老いていかなければならないのだとしたら、それはフェアじゃない。

セブンではビールや昼食を購入して、彼にも何でも好きなものをカゴに入れろと勧め、駅に戻り話を続けた。
無人だと思っていたが、委託されたのであろう老人が事務室から出てきて一瞥をくれる。

やがて少年を庄原に帰す列車の到着時間が迫ってきた。
彼と同じ高校に通う少年たちもちらほらと集まってきた。

「頑張れよ」と彼の肩を叩く。
ホームに上がった彼はケータイに目を落とす。

そうしていれば退屈はしないのだろうが、きっとその行為を退屈だと思っていたのだろう。
だからオレの正体も聞かずに仲良くしてくれたのだろう。

もともと性質のいい少年だったことは言うまでもない。
この旅の一番の思い出になることだろう。

あの少年はセブン・イレブンに案内するにあたり、彼の荷物はすべて駅に置いたまま歩き出した。
気にする風もない。
そして当然のごとく、駅に戻ると彼の所持品は手つかずに置いてある。

東京での想像とは違ってとても小さな町だったけど、人が暮らすうえで実に美しい町だった。

18:29 府中駅(福塩線 広島県)
福塩線は、さっき少年と歩いた川沿いの道と離れずに山陽に向かう。

たどっていく駅はどれも小さく、駅員の姿はほとんど見られない。
福山への直通列車はなく、三次を出たワンマンカーはことごとくが府中で折り返す。

学生の下校時間にあたるから乗客は多かった。

府中に着く。
首無し地蔵に、日本一の石灯篭がある街。

国府の名のついた古い街を歩く。
駅から少し離れたところにある古いアーケード街に営業している店はなかった。
そういう時間帯だったのか、あるいは祝日ということも事情に挙げられるのだろうか。

路地では幼い少女が自転車に乗って遊んでいる。
オレはたんなる古い街を歩いていたのか。
府中にいる間は何とも不思議な時間だった。

福山行に乗っている。
女子高生たちの語尾はまるで東京言葉。
塩町で出会った少年とはまるで違う。

塩町から府中までは約90分。
福塩線とは長大な距離を走る列車なのだと知った。
福山はまだ遠い。

府中は不思議な印象を残した。
飲み屋は一軒もと言っていいほど見かけなかった。
街の役割を思うと足りないものが多い気がして、現実の街を歩いている実感を持てなかったけど、見ていたのは確かに街だった。

19:31 福山城にて

22:16 福山プラザホテル201号
味のある大将の店でひとり飲んだ。
他に客はいなかった。

無口な男だった。
聞かれたことには答えるが、余計なことは喋らない。
注文されたものを揃えたら店の隅で船を漕いだりしている。

出されたものはすべてが美味く、スープ付きの湯豆腐を初めて食べた。

高倉健似の大将に、塩町で出会った少年。
今回の広島での思い出はそれだけでも構わないと思えるほど濃厚だった。

21:00に灯が消えた福山は、オレを誘いもせず、好きにしていろと広島弁で言った。
ヤクザがいたな。
花を抱えた者もいた。

この福山で、オレがこうしていることにもきちんと意味はあるのだろう。
そしてこの福山を故郷に持つ者を、オレは最高の友にしている。

島田雅彦さんの「無限カノン3部作」が止まらない。
そして彼女を想う。

メールを送りたいが、酔っている。
それが今夜の代償だというのなら、後悔する気はまったくない。

関連記事

「鉄旅日記」2020年文月 2日目(香住-東萩)その1‐香住、柴山、餘部(山陰本線)/余部鉄橋 【コロナ禍でございます。内緒の旅でございました。余部鉄橋へ。萩へ。霧の街へ。東京五輪延期で浮いた4連休の記録でございます。】

鉄旅日記2020年7月24日・・・香住駅、柴山駅、餘部駅(山陰本線)/余部鉄橋 2020・7

記事を読む

「鉄旅日記」2019年弥生Part.1 初日(東京-紀伊田辺)その1-金町、名古屋、多気、川添、三瀬谷(常磐線/東海道本線/関西本線/伊勢鉄道/紀勢本線) 【和歌山電鐵に乗るために、青春18きっぷで紀伊半島一周を思い立ったのでございます。】

鉄旅日記2019年3月2日・・・金町駅、名古屋駅、多気駅、川添駅、三瀬谷駅(常磐線/東海道本線/関西

記事を読む

「車旅日記」2005年冬 最終日(人吉-熊本空港)走行距離240㎞ その1-人吉駅、一勝地駅、球泉洞駅、佐敷駅、上田浦駅、千丁駅、有佐駅、道の駅不知火 【どこへ行こうか。まっさきに浮かんだのが、昨夏に旅した南九州でございました。】

車旅日記2005年2月13日・・・人吉駅、一勝地駅、球泉洞駅、佐敷駅、上田浦駅、千丁駅、有佐駅、道の

記事を読む

「鉄旅日記」2022年如月 初日(東京-常陸大子)その4 ‐鹿島神宮その2、大洗、水戸(鹿島臨海鉄道)/塚原卜伝生誕地 【十二橋駅~潮来駅、鹿島神宮西の一之鳥居~鹿島神宮、棚倉を歩く旅。】

鉄旅日記2022年2月5日・・・鹿島神宮駅、大洗駅、水戸駅(鹿島臨海鉄道)/塚原卜伝生誕地

記事を読む

「鉄旅日記」2019年年始 最終日(一ノ関-東京)その2-本吉、柳津、前谷地、石巻、宮城野原、仙台空港(気仙沼線/石巻線/仙石線/仙台空港鉄道仙台空港線) 【雪が見たくて北へ向かいました。そして初めて仙台空港線に乗ったのでございます。】

鉄旅日記2019年1月6日・・・本吉駅、柳津駅、前谷地駅、石巻駅、宮城野原駅、仙台空港駅(気仙沼線/

記事を読む

「鉄旅日記」2020年卯月 最終日(新津-東京)その3‐小野新町、要田、いわき(磐越東線) 【緊急事態宣言発令直前のことでございます。常磐線全線運転再開を祝して人知れず旅に出たのでございます。】

鉄旅日記2020年4月5日・・・小野新町駅、要田駅、いわき駅(磐越東線) 12:33 小野新町(お

記事を読む

「鉄旅日記」2019年弥生Part.3 最終日(多治見-東京)その1-多治見、瑞浪、明智、岩村、極楽、恵那(中央本線/明知鉄道) 【明知鉄道、名鉄築港線。その2線に乗るために、東海道を下っていったのでございます。】

鉄旅日記2019年3月24日・・・多治見駅、瑞浪駅、明智駅、岩村駅、極楽駅、恵那駅(中央本線/明知鉄

記事を読む

「鉄旅日記」2014年冬 最終日(桐生-東京)-間藤、足尾、通洞、神戸、水沼、大間々、相老、桐生、西桐生、新里、膳、大胡、江木、中央前橋、治良門橋、三枚橋、太田(わたらせ渓谷鐵道/上毛電鉄/東武伊勢崎線) 【フリー切符で行く、両毛ローカル旅】

鉄旅日記2014年12月29日・・・間藤駅、足尾駅、通洞駅、神戸駅、水沼駅、大間々駅、相老駅、桐生駅

記事を読む

「鉄旅日記」2016年春 最終日(石巻-東京)その2-久田野、新白河、豊原、白坂、黒磯、西那須野、那須塩原、矢板(東北本線) 【下北半島から東日本大震災被災地へ】

鉄旅日記2016年3月21日その2・・・久田野駅、新白河駅、豊原駅、白坂駅、黒磯駅、西那須野駅、那須

記事を読む

「鉄旅日記」2011夏【みちのくひとり旅】2日目(秋田-函館)-秋田、男鹿、追分、八郎潟、北金岡、大館、浪岡、新青森、青森、中沢、郷沢、蟹田、三厩、五稜郭、函館(男鹿線/奥羽本線/津軽線/津軽海峡線/江差線)

鉄旅日記2011年8月14日・・・秋田駅、男鹿駅、追分駅、八郎潟駅、北金岡駅、大館駅、浪岡駅、新青森

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2022年皐月 初日(東京-磐梯熱海)その4 ‐関都、猪苗代湖畔、上戸、磐梯熱海(磐越西線)/志田浜~上戸浜/伊東園ホテル磐梯向滝【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】

鉄旅日記2022年5月7日・・・関都駅、猪苗代湖畔駅、上戸駅、磐梯熱

「鉄旅日記」2022年皐月 初日(東京-磐梯熱海)その3 ‐黒磯、泉崎、白河、郡山(東北本線) 【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】

鉄旅日記2022年5月7日・・・黒磯駅、泉崎駅、白河駅、郡山駅(東北

「鉄旅日記」2022年皐月 初日(東京-磐梯熱海)その2 ‐文挟、鹿沼、鶴田、宇都宮(日光線) 【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】

鉄旅日記2022年5月7日・・・文挟駅、鹿沼駅、鶴田駅、宇都宮駅(日

「鉄旅日記」2022年皐月 初日(東京-磐梯熱海)その1 ‐金町、上野、宇都宮(常磐線/東北本線) 【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】

鉄旅日記2022年5月7日・・・金町駅、上野駅、宇都宮駅(常磐線/東

「鉄旅日記」2022年弥生vol.2 最終日(静岡-東京)その5 ‐東浦和、東川口、吉川、吉川美南、南流山(武蔵野線) 【念願の大井川鐡道に乗る旅。帰りは身延線経由、武蔵野線全駅下車達成でございます。】/江戸川堤菜の花絶景

2022年3月21日・・・東浦和駅、東川口駅、吉川駅、吉川美南駅、南

→もっと見る

    PAGE TOP ↑