「車旅日記」2003年夏 3日目(北見-帯広)走行距離682㎞ -北見東急イン、美幌駅、摩周湖、知床斜里駅、羅臼、根室駅、納沙布岬、釧路駅 【北海道初上陸。2,300㎞を移動した5日間の記録でございます。】
車旅日記2003年8月15日・・・北見東急イン、美幌駅、摩周湖、知床斜里駅、羅臼、根室駅、納沙布岬、釧路駅
2003・8・15 7:37 北見東急イン1122号室
朝靄の街に日が差した。
今日もどうやら北の大地の天気は崩れない。
3日目。
岬巡りの車が往く。
8:23 美幌駅(8月13日の函館空港より929㎞)
気温21度。
高原の涼しい風が吹いている。
次の列車を待つ客はひとり。
朝の駅はひたすらの静寂の中にある。
山小屋風の駅では、時計台が町の時を刻んでいる。
北海道の地名はどれも美しく、どこか女性的なはかなさを覚える。
これから噂の湖へ。
妖精はまだオレの前に姿を現したことはない。
9:42 摩周湖(8月13日の函館空港より997㎞)
24号国道を弟子屈まで。
高原の空気は冷たく、牧場が広がる。
美幌峠では一面の霧に覆われ、10メートル先の視界すらグレーに包まれる。
峠の頂で車を下りなかったことを少しだけ後悔している。
あんな霧の中を漂う経験はそうはできないだろう。
屈斜路湖の姿は2、3度目にした。
湖畔は人を寄せ付けず、道もない。
霧の道は摩周湖まで続き、神秘の湖も霧の中。
一瞬だが僅かに霧が晴れ、ようやくベールは剥がされた。
でもあまり多くを見せたくはないらしい。
そんな声を眼下の湖の方から聞いたような気がしたよ。
まさに霧の摩周湖。
正体も全貌も正確には分からない。
それも神秘的でいい。
そんな存在は滅多にない。
しかしこの霧はどこで晴れるのだろうか。
11:07 知床斜里駅(8月13日の函館空港より1,064㎞)
北海道に下りてから今日が一番長い日になる。
この地に吹きつける風はオホーツク海からのものか。
それとも秘境知床からの風だろうか。
荒々しい風だ。
391号国道を小清水まで。
そして334号国道へ。
起伏のあるオホーツク国道の先には2つの頂が見える。
まるで西部劇で見たアメリカの荒野のようだ。
地平線に、180度に広がる雲。
本当に見たいと思っていた風景がそこにあった。
これまで様々な場所で車を走らせて、晴れ晴れとした気持ちにさせてもらった。
その時々の感動を否定するつもりはないが、この大地の雄大さは他を凌駕している。
ここは知床の玄関口。
ここから先に線路はなく、これから先も計画に上がることはないだろう。
人気のない駅では自転車部隊がマシンの点検をしている。
待合室には数人の客。
北海道では甲子園の実況もあまり聞かれない。
ホームにはディーゼル列車が止まっている。
ここから旅を始めるのもいいだろう。
それにしても強い風だ。
13:05 335号国道-道の駅知床・羅臼(8月13日の函館空港より1,136㎞)
知床へ。
多くの道人が集まる場所。
これだけ広い北海道にも、人々が目指す特別な場所はそうはないのだろう。
宇登呂への道でオホーツク海との出会いがあり、豪快なオシンコシンの滝を横目に知床峠へ。
摩周湖ほどじゃないにしても頂上付近は濃霧。
人々の姿はぼやけ、峠の碑の前では朧気な記念写真を撮る者たちがいる。
とうとうオレもここまできた。
不意に感動が沸き起こる。
オホーツク海を見るために、はるばる東京からやってきたんだ。
人生とはやはり素晴らしい。
狭い海辺にはひっきりなしに車やバイクが押しかけ、喧騒の中に今いる。
知床岬はさらに先。
道はなく、人力では到達できない。
そしてここ羅臼でオホーツク海を間近にした。
カモメやカラスと一緒になって海を眺めた。
人がいる方じゃなくて、彼等に仲間に入れてもらったよ。
沖には巡視船。
あるいは不審船かもしれない。
国後島が近いが、海上には靄がかかりその姿は見えない。
北にいることを感じて、ロシアの存在を感じる。
前にしているのは根室海峡。
冬には流氷がやってくる。
15:40 根室駅(8月13日の函館空港より1,278㎞)
オホーツク国道を往く。
羅臼を出ると次の町は標津。
寒村だ。
広大で荒々しい海はグレーで、空もまた同じ。
すぐ近くの外国は見えない。
標津を過ぎて次の町へ。
広大な平野に一望の緑。
牛の楽園のような大地の先にどんな街があるのか。
そこで人々はどんな暮らしを営んでいるのか。
好奇心は募る。
しかし一向に街の気配はなく、やがて大きな温根沼大橋を渡る。
随分遠かった。
その先に展開していたのがこの街。
風蓮湖と温根沼の先にある。
この国で一番東の街、根室。
朝日に一番近い街。
20㎞ほど先には納沙布岬。
最果ての駅は飾りもつけずひっそりとたたずんでいる。
この街から釧路方面に向かう列車は日に10本もない。
あっけないとも言える装いの街だが、あの橋を渡ってから違和感を持っている。
何の変哲もないとも言えるが、これまでに着いたどの街とも異なる雰囲気を持つ街。
オレがSF的な街を描くとするなら、こんな街。
この違和感は何だろう。
16:24 納沙布岬(8月13日の函館空港より1,302㎞)
根室の中心街を抜け、納沙布を示す標識に従って角を曲がると声を上げた。
そこにはこの国のどこにもないような果てしない荒野が広がっていた。
所々に沼が点在し、放牧された牛の姿も見える。
まるで大海に浮かぶ島のようだ。
とても日本とは思えない。
おそらく北方領土の島々の風景もこんな感じなのだろう。
感動したよ。
こんな思いを味わうことまでは想像していなかった。
そしてそんな荒涼とした地にも人々が暮らす村がある。
巨大な風力発電塔、そして岬の灯台。
納沙布岬の入口に飾り気はない。
遠くにぼんやりと貝殻島か、歯舞群島のロシア監視所と思しき塔が見える。
岬の先端には日の丸の旗が翻り、遠くの監視所を威嚇している。
そう言えば、今日は終戦記念日。
北方領土返還の話は、今までは言ってみればどうでもよかったが、ここに来ると考えさせられる。
返還要求の署名欄にサインしたよ。
それがこの国に生まれた者が、この場所に来た時の務めのように感じたから。
車から降りると強烈な潮の香りが鼻を衝く。
海猫の鳴き声はとても物悲しい。
犬の鳴き声に似ていたよ。
函館から1,300㎞。
函館ナンバーをつけた車は、道東に来てから見かけない。
おそらく、この車も初めてだろう。
こんな果てまで連れ回されたのは。
空は曇り、海の果ては靄のようにはっきりしない。
ここから引き返すのかと思うと寂しい。
北海道の雄大さは素晴らしい。
そしてここ根室半島は、海のムコウの島々と共に昔からこんな風景だったのだろう。
シベリアあたりをオレはもう想像できる。
18:53 釧路駅(8月13日の函館空港より1,453㎞)
釧路国道44号線を釧路へ。
根室を出て以来、厚岸まで町はなく、その後も釧路まで同じ状態が続く。
遥かな平原。
一度牛の群れが往く手を塞いだ。
その事態に慣れた運転者が車を群れに近づけると、同じくその事態に慣れた牛の群れは牧草地に引き返すが、最後までその状況を呑み込めなかった一頭が大慌てで群れに後続する姿は微笑ましかった。
厚岸で海が見えて空も明るくなり、音楽はストーンズ。
「worried about you,oh yeah」と思い切りシャウトする。
あたりもだいぶ暗くなり、相当な距離を走った頃に旧釧路川を渡る。
橋の先に宝石が並んでいる。
根室方面から街に入るとそんな夜景に出くわす。
市内は混雑し、駅舎は昔ながらのレンガ色。
駅前にはチャペルが建ち、海猫の鳴き声が聞こえる。
釧路湿原をはじめ観光名所に事欠かない街だが、残念ながら今回は時間がない。
一昨日小樽。
昨日網走。
そして今日の日暮れは釧路で迎えた。
どこの街にも海辺の味があった。
さて、一昨日昨日と違って今日はここからが長い。
帯広まで120㎞。
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