*

「車旅日記」1996年黄金週間【友を訪ねて大阪へ。そして約束の地、金沢へ。夢を見ながら国道を走った日々でございます。】最終日 北陸より東京へ‐その1(北陸道→R8)有磯海SA、玉ノ木パーキング、親不知ピアパーク、能生

公開日: : 最終更新日:2025/05/13 旅話, 旅話 1996年

車旅日記1996年5月6日

3:40 北陸自動車道-有磯海SA
多少はスッキリしたんだ。
あれから2時間以上経っているしね。

だけど寝ていないことも確かなんだ。
タフなツアーだよ、まったく。

夜は深く、ひどく寒かった。
雨は上がったよ。

オレの友である月も、三度頭上を照らしている。
兄弟、出発だろ?

目覚めてうどんを食べに行ったら、日本の夢がひとつ消えていたよ。
日本男子バレーボール代表のアトランタへの道は、日本海に降り注ぐ雨の中で消えたんだ。
サービスエリアを覆う早朝のけだるさの中で、やけに劇的な報道だったよ。

恋する女よ、昨夜のことは夢の中の出来事のようだよ。
東京から何100㎞も離れた場所で君に会えたんだからね。

あのまま君の眠る街で一晩明かすことも考えられたけど、今オレはこんなところにいる。
オレのツアーは移動することが目的なんだ。
いろんな場所を通過していく。

調子のいい時のオレは、その作業を夢をつなぐ作業だと言いふらす。
路上の生活もたまにはいいもんだよ。
だいいち月と友達になれたじゃないか。

さてと、地図を広げよう。
ブルース・スプリングスティーンの「サンダーロード」。

最後の旅が始まる。

4:34 8号国道‐玉ノ木パーキング
ガソリンスタンドのおじさんと挨拶を交わし、ともに月を愛でた。

しばらくハイウェイを走る。
ほんの数分のことだ。

最初に到着するインターチェンジがハイウェイの終着点。
料金所の男が怪訝そうな表情で尋ねる。

「どこかで休んでいたのか?」。
その通り。
サービスエリアで寝ていたんだ。

彼の疑問にはうなずける。
数時間ハイウェイに乗っていたけど、走ったのはわずかに一区間だけだったから。

料金所を出るとテープを巻き戻して、再度「サンダーロード」から始め、魚津のわずかな夜景を視界に入れて8号国道に戻った。

早朝の日本海路を通る車はほとんどなく、「オレの道」を往くオレを感じていた。

地元ナンバーをつけた車は例外なくオレを追い抜いて、どこかへ消えていく。

湿った路面に簡素な漁村の風景。
ブルース・スプリングスティーンが歌う光景を、自分の心象風景のように感じながら走った。

まだ眠い。
5月の夜は寒い。
しかもここは北陸。
車の中で暖房も焚かずに眠るのに適当な季節じゃない。

ブルースの楽曲にもそんな光景が現れる。
アメリカの貧しくてタフな男の話だ。

住むべき家を持たず、妻や子供とともに毎晩を車の中で過ごし、後部座席に眠る子供が今にも死にそうな咳をするのを聞きながら、現状に苛立つ男。

普段の生活では考えられないような世界が自然にR&Rに乗ってオレの中に入ってくる。
この時間帯の北陸の道にはそんな魔力があった。

いずれにしろさっきのハイウェイでは得られなかった睡眠という休息をとる必要があった。

目の前には、今日君を東京へ帰す線路が敷かれ、その先に日本海が横たわっている。
ただ線路と海があるだけだ。

食い入るように見続ける。
柵に腰かけて寒風に吹かれながら、さらに見続ける。

空は鈍色に曇っている。
海も同じ色だけど、忘れがたい風景だよ。

昔、あるブルースマンは線路伝いに歩いていった。
メンフィスからシカゴまで。
あるいは国境を越えて自由を求めて歩いていった。

チープなコートのポケットには友人から借りた2、3ドルの金しか残っていない。
たどり着いた街でギターを弾いて路銀を稼ぎ、また線路伝いに歩いていく。
そんな光景が頭をかすめる。

オレもまた彼等に似ていた。
だけどオレには惚れた女性がいる。
だからオレの行先は決まっている。

彼女が戻ってくる東京へ。
車に戻ってエンジンキーに手をかける。
隣に車を止めている男はよく眠っている。

オレもそうしたかったが、波の音が許さない。
次の場所へ。
再び朝靄の路上に出る。

君はまだ眠っているだろう。
オレの方はこのとおりだ。
ひと足先に日本海路を抜けることにするよ。

もう一度海を見に行った。
金沢行の夜行列車が通り過ぎていった。

君がここを通るのはどれくらい先の話だろう。
先に行くよ。

5:09 8号国道‐親不知ピアパーク
ブルース・スプリングスティーンが貧しくてタフな男の歌を歌っている。

線路はやがて険しい山の方へ進路を変えていった。
いくつものトンネルをくぐっていくのが見える。

ブルースマンはトンネルを回避したのだろうか。
あんな道をひとりで行くもんじゃない。

そしてオレの前方にもタフなカーブがやってきた。
そこはかつてブラザーと北陸道を走っていて、度肝を抜かれた場所だった。

天下の難所、親不知。

浄土、風波。
そんな名のついた洞門を抜けてきた。

多くの旅人がそこで命を落としてきたのだろう。
そこは険しい巡礼の道にどこか似ていた。

注意深くハンドルを切る。
切りそこなえばオレと車は目も当てられない姿になり果てるだろう。
そんな焦りは対向車を襲い来る獣のように見せる。

一連のタフなカーブを抜けて、ここに着く。
果てしなく海だ。

このルートを往くオレを気に行っている。
ここは男の世界なんだ。
男が見たいと思っているものがすべて揃っているんだ。

オレの服装は昨日と変わらない。
無精ひげもずいぶん伸びた。
でもそんなスタイルがここには似合う。

風は吹き、海は荒れ、波が襲いかかる。
ここは男がひとりで来る場所だ。

雄々しさが世界を覆っている。
そんな男には惚れた女性が必要だ。

その女性がたとえ遠い街で生活していようと、いた方がいい。
オレにとってのそんな女性は今から数時間後にこの風景を列車の窓から見るだろう。
あるいは友達と喋っているうちに通り過ぎてしまうかもしれない。

タフな旅路の末に、やがてオレは彼女にたどり着くことができるだろう。
そう思うことが心を休めた。

ここでも眠ることを試みたが、またしても波音が許さない。
オレの旅路と一緒で、波の音までタフで、しかもハードだ。

ルート変更だな。
このまま直江津まで行こう。

もう少しこの海と付き合っていたいんだ。

6:20 8号国道-能生
日本海が見えるうちは彼女がすぐそばにいるような気がしていた。

金沢から、日本海が見えるうちは二人は同じルートを行く。
それが何か重要な意味を持つように思えた。

何度でも海を見に行く。
それにしても、なんて風の強い町なんだ。

天気は悪くなさそうだけど、この町には厳しい朝が訪れている。
海沿いの町の厳しさを、ここで初めて知ったよ。

だけど日本海を走るのは朝に限る。
さっきも言ったけど、ここには男が求めるすべてのものがある。

関連記事

「鉄旅日記」2018年神無月 初日(東京-米原-福井-越前大野)その1-金町、大垣、米原、近江塩津、王子保、湯尾(常磐線/東海道本線/北陸本線) 【北陸へ。信州へ。友を訪ねての巡礼旅でございます】

鉄旅日記2018年10月6日・・・金町駅、大垣駅、米原駅、近江塩津駅、王子保駅、湯尾駅(常磐線/東海

記事を読む

「鉄旅日記」2021年師走 最終日(古川-東京)その1 ‐古川、岩出山、有備館(陸羽東線)/岩出山城址(城山公園) 【特急乗り放題の大人の休日倶楽部パスで冬の国へ。山田線完全乗車と鳴子温泉郷を始めとした陸羽東線沿線を歩くことが目的でございました。】

鉄旅日記2021年12月5日・・・古川駅、岩出山駅、有備館駅(陸羽東線)/セレクトイン古川/岩出山

記事を読む

「鉄旅日記」2019年如月 最終日(安中-東京)その1-安中、松井田、西松井田、横川、軽井沢、大屋(信越本線/しなの鉄道) 【週末パスで東京から伊豆。そして上州、信州へ。友人は言ったものでございます。何気に大層な移動距離だと。】

鉄旅日記2019年2月10日・・・安中駅、松井田駅、西松井田駅、横川駅、軽井沢駅、大屋駅(信越本線/

記事を読む

「車旅日記」2006年初夏 2日目(岐阜-近江八幡)その2-津駅、伊勢奥津駅、名張駅、伊賀上野駅、信楽駅、紫香楽宮跡駅、ホテルはちまん【これが最後の車旅でございます。鈴鹿山脈を回るように、終着駅を探して走ったのでございます。】

車旅日記2006年7月16日・・・津駅、伊勢奥津駅、名張駅、伊賀上野駅、信楽駅、紫香楽宮跡駅、ホテル

記事を読む

「鉄旅日記」2017年春【近鉄に乗る日々】2日目(新大宮-大阪難波)その2-生駒、鳥居前、宝山寺、生駒山上、布施、俊徳道、JR俊徳道、河内山本、信貴山口、高安山(生駒ケーブル/奈良線/大阪線/信貴線/西信貴ケーブル)

鉄旅日記2017年3月18日・・・生駒駅、鳥居前駅、宝山寺駅、生駒山上駅、布施駅、俊徳道駅、JR俊徳

記事を読む

2020年如月【水上温泉につかりにいったある週末の記憶をSNSへの投稿より振り返ります。】-土合、水上、後閑、沼田(上越線)

鉄旅日記2020年2月8日~9日・・・土合駅、水上駅、後閑駅、沼田駅(上越線) 水上に投宿する前に

記事を読む

鉄旅日記」2012年初冬 最終日(長野-東京)その2-小諸、岩村田、佐久平、中込、臼田、小海、野辺山、清里、大月(小海線、中央本線) 【週末パスで、甲信越途中下車旅】

鉄旅日記2012年12月9日その2・・・小諸駅、岩村田駅、佐久平駅、中込駅、臼田駅、小海駅、野辺山駅

記事を読む

「鉄旅日記」2023年浅春 最終日(松本-東京)その3 ‐茅野、甲府、高尾、中野(中央本線)【友を訪ねての信濃旅でございます。篠ノ井線全駅下車を果たした旅でもございました。】

鉄旅日記2023年3月5日・・・茅野駅、甲府駅、高尾駅、中野駅(中央本線) 12:39 茅野

記事を読む

「鉄旅日記」2022年皐月 最終日(磐梯熱海-東京)その1 ‐磐梯熱海、新白河、小山(磐越西線/東北本線)【日光線全駅乗降を果たし、猪苗代湖畔に遊び、磐梯熱海の湯につかり、国定忠治を訪ねた旅でございます。】

鉄旅日記2022年5月8日・・・磐梯熱海駅、新白河駅、小山駅(磐越西線/東北本線) 2022

記事を読む

「鉄旅日記」2019年霜月 最終日(北上-東京)その3‐仙台、国見、愛子、山形(仙山線) 【津軽鉄道、弘南鉄道に乗りにいきました。羽州街道を歩いた晩秋の旅でございます。】

鉄旅日記2019年11月4日・・・仙台駅、国見駅、愛子駅、山形駅(仙山線) 14:39 仙台(せん

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2023年七夕月 初日(東京-輪島)その3‐富山、岩瀬浜、金沢、七尾、穴水(富山地方鉄道富山港線/北陸新幹線/七尾線/のと鉄道七尾線)【令和6年能登半島地震の半年前に能登を、輪島を訪ねておりました。】

鉄旅日記2023年7月15日・・・富山駅、岩瀬浜駅、金沢駅、七尾駅、

「鉄旅日記」2023年七夕月 初日(東京-輪島)その2‐東京、富山、電鉄富山、越中八尾(北陸新幹線/高山本線)【令和6年能登半島地震の半年前に能登を、輪島を訪ねておりました。】

鉄旅日記2023年7月15日15日・・・東京駅、富山駅、電鉄富山駅、

「鉄旅日記」2023年七夕月 初日(東京-輪島)その1‐金町、北千住、日暮里(常磐線)【令和6年能登半島地震の半年前に能登を、輪島を訪ねておりました。】

鉄旅日記2023年7月15日・・・金町駅、北千住駅、日暮里駅(常磐線

「鉄旅日記」2023年桜時 ツレと訪ねた横須賀~大宮旅でございます。そして江戸川堤菜の花の頃。佐野元春さん「sweet 16」永遠にありのままで。/横須賀駅/横須賀中央駅/大宮駅/内宿駅【Facbookへの投稿より振り返ります。】

【雨の軍都から江戸川堤。そして静かな午後】 2週にまたがる週末

「車旅日記」2001年盛夏 最終日(松山-東京)その3-伊吹PA、浜名湖SA、由比PA、足柄SA、海老名SA、葛飾金町【思い出深き四国初上陸でございます。福山に帰省していた友と待ち合わせ、いつも想っていたのは京都の彼女のことでございます。】

車旅日記2001年8月15日・・・伊吹PA、浜名湖SA、由比PA、足

→もっと見る

    PAGE TOP ↑