*

「車旅日記」2004年春【旭川に下りて、思う存分に北の大地を走った旅の記録でございます】4日目(旭川-稚内)走行距離428㎞その3-稚内サンホテル

公開日: : 最終更新日:2024/05/25 旅話, 旅話 2004年

車旅日記2004年5月4日・・・稚内サンホテルにて

21:39 稚内サンホテル325号
素敵な部屋に案内してもらった。

稚内駅のホームが見える。
やがて踏切の音が聞こえ、特急列車が入ってきた。

22:00発札幌行き。
待合所にいた連中が最北の街の寒さに堪えながらずっと待っていた時間がようやく訪れた。

そしてこの5月4日に、この街にやってくる者は絶えた。

明日の朝までいつものように門を閉ざす。
この最果ての街では。

ホテルの朝食は6:00から。

この街にやってきた者はそのあまりの遠さに畏怖の念を持ち、出発時間を急ぐ。

そんな事情から営業開始時刻が決まったのだろう。
この最果ての街では。

街で一番背の高い建物は全日空ホテル。

列車に乗ったんじゃ札幌まで最短でも4時間半。

空を制した者がこのあたりじゃ一番大きな顔をする。
山口県の宇部でもそうだったな。

オレのように車やバイクでやってきた者は疲れ果て、安宿に泊まり込む。

大きな街からやってきた者が大きな声で自分が暮らす街の話を始める。

誰もサハリンビールなんて注文しやしない。
この日本最北端の街では。

22:00。
札幌行きの特急がホームを離れた。
ドアはゆっくり閉まり、僅かな客を乗せて街を出ていく。

街が発する音があることに気を止める機会は普段あまりない。

でも特急が行っちまったら、何も聞こえなくなって、その存在を知った。

この街にやってきた者は必ず帰っていく。

自分なりに最果てを感じたら元いた場所に帰っていく。

明日のオレも同じだ。

やがて暴走行為を行う者たちが発する騒音が聞こえ、消えた。

まるでこの街にやってくる客みたいだ。

木製の電柱が岬へと続いていく。
他に人工物は見当たらない。

宗谷岬では強く冷たい風に吹かれた。
気温は5度。

この街に着いても温度計は同じ数字を表示している。

でも岬の風はここまでは入ってこない。

開拓民が最後に行き着いた場所だ。

彼等がどこからやってきたのか知らないが、ここで生活していくことを選んだ民に、そして今もこの街を造っている人々に偉大さを感じる。

40号国道を走る車の音はまだ聞こえる。

最果ての北の街。
その看板だけを目指して人々はやってくる。

人は、特に男は北を目指すもんだ。

最南端はそうじゃない。
そう言えば沖縄は2月ですでに夏だった。

でもここでは5月になっても冬の気温。
最北端の街に行くには覚悟がいる。

特急がやってきた。

今夜はもうこの街以外のどこにも行かない特急がやってきて、決して少なくない数の乗客が降りた。

まだ門は開いていたのか。

街中にはスナックもバーもある。
まだ開いてるよ。

オレもタコしゃぶを食べた店を出たあと、どこかで一杯ひっかけていこうという気はあるにはあったんだ。
でもこのホテルのフロントの眼鏡をかけた女性の顔がなぜか思い出され、真っ直ぐに帰ることにした。

たぶんオレの場合その方がいい。
好きなビールならここにも置いてある。

ひとりで来たのなら、最後までひとりでいるってもんだ。

ひとりで到着するのにこれほど適した街はない。
最果ての街で暮らす人々はそのことを知っている。

昔、親父はあのホームを出る汽車に乗って北の大地を旅した。

そんな話を聞かせてくれたことがある。

どんな理由で、どんな経路でこの街にやってきたのか、次に会う時に聞いてみたい。

当時は名寄あたりからオホーツクに向かう線路が敷かれていたんじゃないのか。

そして今から30年も経てば、オレにもそんな話ができる息子がいるだろう。

聞いてくれるだろうか。
どうして親父がこの最果ての街にやってきたのかを。

ホームの明かりが消え、最後の乗客を運んできた特急も車庫に帰っていった。
パチンコ屋のネオンはまだ盛大にやっている。

オレは今最果ての北の街にいる。

そして目の前に35歳になった男の顔が映っている。

2004年5月4日、オレは稚内までやってきた。

関連記事

「鉄旅日記」2009年晩秋【陰陽を行き来した3日間。この国の秋は美しゅうございました。】初日(東京-倉敷)その2-北条町、姫路、播州赤穂、日生、備前片上、西片上、倉敷(北条鉄道/加古川線/山陽本線/赤穂線)

鉄旅日記2009年11月21日・・・北条町駅、姫路駅、播州赤穂駅、日生駅、備前片上駅、西片上駅、倉敷

記事を読む

「鉄旅日記」2015年夏【日本最南端の終着駅、枕崎までの往復旅】2日目(新南陽-鹿児島中央)その3-宇土、松橋、八代、出水、牛ノ浜、草道、鹿児島中央(鹿児島本線/肥薩おれんじ鉄道)

鉄旅日記2015年8月13日その3・・・宇土駅、松橋駅、八代駅、出水駅、牛ノ浜駅、草道駅、鹿児島中央

記事を読む

「鉄旅日記」2008年初秋【秋になると北陸に行きたくなるものでございます。能登半島をはじめ、いくつもの終着駅へと行き着いたのでございます。】最終日(福井-東京)-福井駅前、武生新、武生、大府、武豊、知多武豊、刈谷、安城、蒲郡、東京葛飾(福井鉄道福武線/北陸本線/東海道本線/武豊線)

鉄旅日記2008年9月15日・・・福井駅前駅、武生新駅、武生駅、大府駅、武豊駅、知多武豊駅、刈谷駅、

記事を読む

「鉄旅日記」2019年弥生Part.1【和歌山電鐵に乗るために、青春18きっぷで紀伊半島一周を思い立ったのでございます。】初日(東京-紀伊田辺)その1-金町、名古屋、多気、川添、三瀬谷(常磐線/東海道本線/関西本線/伊勢鉄道/紀勢本線)

鉄旅日記2019年3月2日・・・金町駅、名古屋駅、多気駅、川添駅、三瀬谷駅(常磐線/東海道本線/関西

記事を読む

「鉄旅日記」2009年秋【女川を目指した旅。ここには震災前の女川の姿が残されております。】初日(東京-新庄)松戸、取手、友部、上菅谷、常陸太田、高萩、いわき、郡山、福島、米沢、山形、新庄(常磐線/水郡線/水郡線常陸太田支線/磐越東線/東北本線/奥羽本線)

鉄旅日記2009年10月10日・・・松戸駅、取手駅、友部駅、上菅谷駅、常陸太田駅、高萩駅、いわき駅、

記事を読む

「鉄旅日記」2008年初秋【秋になると北陸に行きたくなるものでございます。能登半島をはじめ、いくつもの終着駅へと行き着いたのでございます。】初日(東京-羽咋)その2-新西金沢、野町、加賀一の宮、西金沢、羽咋(北陸本線/北陸鉄道石川線/七尾線)

鉄旅日記2008年9月13日・・・新西金沢駅、野町駅、加賀一の宮駅、西金沢駅、羽咋駅(北陸本線/北陸

記事を読む

「鉄旅日記」2009年秋【関東ぶらぶら旅その3-武蔵国で遊ぶ日。7つの交差点へ。】-越生、坂戸、小川町、寄居、羽生、久喜、新越谷、南越谷(東武越生線/東武東上線/秩父鉄道/東武伊勢崎線/武蔵野線)

鉄旅日記2009年11月3日・・・越生駅、坂戸駅、小川町駅、寄居駅、羽生駅、久喜駅、新越谷駅、南越谷

記事を読む

「鉄旅日記」2012年初冬【週末パスで、上越途中下車旅&高田で友人の結婚式に参加】初日(東京-長野)-吹上、北鴻巣、長野、豊野、新井、高田、春日山(高崎線、長野新幹線、信越本線)

鉄旅日記2012年12月8日・・・吹上駅、北鴻巣駅、長野駅、豊野駅、新井駅、高田駅、春日山駅(高崎線

記事を読む

「鉄旅日記」2014年秋【休日おでかけパスで、関東ローカル旅】その2-富田、佐野、佐野市、大平下、新大平下、栃木、思川、新白岡、白岡、東大宮(両毛線/東北本線)

鉄旅日記2014年11月3日その2・・・富田駅、佐野駅、佐野市駅、大平下駅、新大平下駅、栃木駅、思川

記事を読む

「鉄旅日記」2020年弥生【富山地方鉄道に乗りにまいりました。太多線、高山本線に乗るのも楽しみにしていたのでございます。】2日目(高山-速星)その4‐富山大学前、丸ノ内、南富山駅前、南富山、電鉄富山駅前、富山(富山地方鉄道市内線)

鉄旅日記2020年3月21日・・・富山大学前電停、丸ノ内電停、南富山駅前電停、南富山駅、電鉄富山駅前

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】最終日(武生-東京)その1‐越前武生、武生、三方、美浜(北陸本線/小浜線)

鉄旅日記2020年11月23日・・・越前武生駅、武生駅、三方駅、美浜

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】2日目(砺波-武生)その6‐三国港、田原町、福井駅(えちぜん鉄道三国芦原線/福井鉄道)

鉄旅日記2020年11月22日・・・三国港駅、田原町駅、福井駅電停(

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】2日目(砺波-武生)その5‐福井、新福井、勝山、福井口(えちぜん鉄道勝山永平寺線)

鉄旅日記2020年11月22日・・・福井駅、新福井駅、勝山駅、福井口

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】2日目(砺波-武生)その4‐七尾、金丸、宝達、宇野気、本津幡(七尾線)

鉄旅日記2020年11月22日・・・七尾駅、金丸駅、宝達駅、宇野気駅

「鉄旅日記」2020年晩秋【大人の休日倶楽部パスで北陸へ。新幹線、在来線特急乗り放題でございます。魚津、雨晴をめぐり、氷見線、万葉線、城端線、七尾線、えちぜん鉄道、福武線、北陸鉄道との再会でございます。】2日目(砺波-武生)その3‐羽咋、能登部、徳田、七尾、和倉温泉(七尾線)

鉄旅日記2020年11月22日・・・羽咋駅、能登部駅、徳田駅、七尾駅

→もっと見る

    PAGE TOP ↑