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「車旅日記」2004年春【旭川に下りて、思う存分に北の大地を走った旅の記録でございます】4日目(旭川-稚内)走行距離428㎞その3-稚内サンホテル

公開日: : 最終更新日:2023/04/26 旅話, 旅話 2004年

車旅日記2004年5月4日
21:39 稚内サンホテル325号
素敵な部屋に案内してもらった。

稚内駅のホームが見える。
やがて踏切の音が聞こえ、特急列車が入ってきた。

22:00発札幌行き。
待合所にいた連中が最北の街の寒さに堪えながらずっと待っていた時間がようやく訪れた。

そしてこの5月4日に、この街にやってくる者は絶えた。

明日の朝までいつものように門を閉ざす。
この最果ての街では。

ホテルの朝食は6:00から。

この街にやってきた者はそのあまりの遠さに畏怖の念を持ち、出発時間を急ぐ。

そんな事情から営業開始時刻が決まったのだろう。
この最果ての街では。

街で一番背の高い建物は全日空ホテル。

列車に乗ったんじゃ札幌まで最短でも4時間半。

空を制した者がこのあたりじゃ一番大きな顔をする。
山口県の宇部でもそうだったな。

オレのように車やバイクでやってきた者は疲れ果て、安宿に泊まり込む。

大きな街からやってきた者が大きな声で自分が暮らす街の話を始める。

誰もサハリンビールなんて注文しやしない。
この日本最北端の街では。

22:00。
札幌行きの特急がホームを離れた。
ドアはゆっくり閉まり、僅かな客を乗せて街を出ていく。

街が発する音があることに気を止める機会は普段あまりない。

でも特急が行っちまったら、何も聞こえなくなって、その存在を知った。

この街にやってきた者は必ず帰っていく。

自分なりに最果てを感じたら元いた場所に帰っていく。

明日のオレも同じだ。

やがて暴走行為を行う者たちが発する騒音が聞こえ、消えた。

まるでこの街にやってくる客みたいだ。

木製の電柱が岬へと続いていく。
他に人工物は見当たらない。

宗谷岬では強く冷たい風に吹かれた。
気温は5度。

この街に着いても温度計は同じ数字を表示している。

でも岬の風はここまでは入ってこない。

開拓民が最後に行き着いた場所だ。

彼等がどこからやってきたのか知らないが、ここで生活していくことを選んだ民に、そして今もこの街を造っている人々に偉大さを感じる。

40号国道を走る車の音はまだ聞こえる。

最果ての北の街。
その看板だけを目指して人々はやってくる。

人は、特に男は北を目指すもんだ。

最南端はそうじゃない。
そう言えば沖縄は2月ですでに夏だった。

でもここでは5月になっても冬の気温。
最北端の街に行くには覚悟がいる。

特急がやってきた。

今夜はもうこの街以外のどこにも行かない特急がやってきて、決して少なくない数の乗客が降りた。

まだ門は開いていたのか。

街中にはスナックもバーもある。
まだ開いてるよ。

オレもタコしゃぶを食べた店を出たあと、どこかで一杯ひっかけていこうという気はあるにはあったんだ。
でもこのホテルのフロントの眼鏡をかけた女性の顔がなぜか思い出され、真っ直ぐに帰ることにした。

たぶんオレの場合その方がいい。
好きなビールならここにも置いてある。

ひとりで来たのなら、最後までひとりでいるってもんだ。

ひとりで到着するのにこれほど適した街はない。
最果ての街で暮らす人々はそのことを知っている。

昔、親父はあのホームを出る汽車に乗って北の大地を旅した。

そんな話を聞かせてくれたことがある。

どんな理由で、どんな経路でこの街にやってきたのか、次に会う時に聞いてみたい。

当時は名寄あたりからオホーツクに向かう線路が敷かれていたんじゃないのか。

そして今から30年も経てば、オレにもそんな話ができる息子がいるだろう。

聞いてくれるだろうか。
どうして親父がこの最果ての街にやってきたのかを。

ホームの明かりが消え、最後の乗客を運んできた特急も車庫に帰っていった。
パチンコ屋のネオンはまだ盛大にやっている。

オレは今最果ての北の街にいる。

そして目の前に35歳になった男の顔が映っている。

2004年5月4日、オレは稚内までやってきた。

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