「車旅日記」2001年黄金週間 初日その1(東京-京都)-金町、高円寺駅、調布駅、日野駅、弁天島温泉天下茶屋 【目指したのは彼女が暮らす京都。この時からしばらく、向かう先は劇的なまでに西になったのでございます。】
車旅日記2001年5月3日・・・金町、高円寺駅、調布駅、日野駅、弁天島温泉天下茶屋
2001・5・3 8:51 東京葛飾金町
予定より出発が1時間遅れている。多少の欲望は抑え込む必要があるが、こんな日には致命的なものでない限り野放しにしていていい。
旅が始まる。これからは自由だ。すべて思うようにやる。
目覚まし音で起きなかったことは結果的にプラスの作用をもたらしている。ベッドから出て梯子を下りる頃には雨は小降りになっていた。それまでベッドの中で雨の音を聞きながらその時が来るのを待っていた。
もう落ち着いている。若干の焦りは、過ぎていった時間に対して。
すべてがうまくいくとは思っていないが、ベッドの中ではこうするより他にないと思っていた。つまり出発の時間を遅らせることについて。それがあの時のオレが考え得たたったひとつの希望でもあった。
準備はできている。傘はいらない。たぶん、お日様が顔をのぞかせた時には笑みが浮かぶだろう。
10:27 高円寺駅 27㎞
いつもと比較して何か足りないものを感じていた。
走り始めてしばらくすると思い当たった。それは東京に残してきた思い。
全然ないんだ。心配事もない。こんなにも思いのままでいいのか戸惑うほどに。
環状7号線の高架を越える際に不意に彼女からメールが入った。明日の宿泊地の情報が書かれている。滋賀県志賀町は今日お祭りがあるらしい。彼女とのコミュニケーションは昨日から噛み合っていない。メールという手段に限界があるのだろう。
環7が空いている。この道は上り下りとも何度も通っているが、こんなにも流れたことはない。一番最初は亀有に住んでいた女性を駅で拾って東京ディズニーランドに行った時になるだろう。今じゃオレは亀有の隣町で暮らしている。縁とはおかしなものだ。彼女とはその日以来会っていない。
それからしばらくして彼女はアメリカに渡った。一度、誰かから現地で成功していると聞いたような気がするけど、それが誰だったのかは覚えていないし、関わり合いも絶えたのだろう。
過去には、取り戻そうとしても決して取り戻せないものが確実に存在する。若い二人は、あの日に二人きりで夢の国にいたのに手も握らずに別れた。当時のオレにはそんな勇気はなかったし、おそらく彼女にもなかっただろう。
アトラクションの名は忘れたが、暗い中を列車で進むのに乗って、鏡に映った二人が戸惑うように黙って前だけを向いていた光景を覚えている。
雨の中の旅立ちは初めてになる。今日の雨はとても冷たい。この季節に東京の空がこんなにも冷たい雨を降らすことがあるとは。
桜が咲いてから雪が降ったように、今年の天はなんだかおかしなものを降らす。もっとも、すぐに忘れてしまうようなことではあるけれど。
11:31 調布駅 43㎞
雨の中、東京は静かに混みあっている。いつものようなざわめきが聞こえてこない。
20号国道にはただただ静かな車列が続いている。雨具に身を包んだウォーキングの一団、葬儀の準備をしている男たち。そして町を出る人々。すべてが黄金週間後半を静かに迎えている。
一番大きな音は雨音。オレの耳は外の音をそんなふうに聞いている。
12:51 日野駅 58㎞
不安を探すかのように走ってきた気がする。素直に安心したり、喜んだりしてもいいのかと思うんだ。
日頃はそれほど心配事に囲まれて暮らしているのか。具体的に今は出てこないにしても。
静かな渋滞は続いている。果てしない気持ちになる。風景がだんだん退屈になってきた。
15:55 20号国道‐弁天島温泉天下茶屋 82㎞
予想していなかった峠の渋滞にはまり、とっさの判断でここに避難した。国道の渋滞はなお続いている。
さっきは少しアホらしくなった。休日に好きなこともできないこの国の仕組みについて。いろいろ考えたよ。例えば、引き返したうえで車を返して、明日電車で京都を目指そうかとか。
そしてこれまでに考えたこともなかったことが頭に浮かび、真剣に考えてみようかと思い始めている。
こんな国など出てしまおうか。
この時期には珍しいことじゃないのだろうが、部屋を出て7時間にもなろうとするのに、進んだ距離は100㎞に満たない。この状況にはこの列に参加しているすべての人々がうんざりしているだろう。
問題は、諦めて今後もこうした状況の訪れを我慢するか、何か他の行動を探すか。人生で初めて後者を考え始めている。
停滞はしていたくない。すべてにおいて、停滞はしているのはイヤなんだ。他の人々が何を考えようと構わないけれど。
ここの湯はオレにはちょっとぬるかったよ。
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