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「車旅日記」1996年5月【26歳、初めてひとりで旅に出た理由】その2-東北道を郡山まで、一般道で日本海、酒田、そして帰京

公開日: : 最終更新日:2019/08/14 旅話

冒険家志望のあなたへ【1話】

 

車旅日記1995年5月5日
11:09 猪苗代湖畔
さっきまで丸二日、友と奥さんが構えた暖かい家庭に厄介になっていた。
嬉しいじゃないか。
この世界にはオレを歓迎してくれる友がいるんだ。

彼の奥さんが用意してくれた朝食は一流だった。
友の運転する車の後ろには渋滞が発生していたけど、彼は気にしない。
奥さんも気にしない。
周りも気にしない。

イライラしていたのは東京からやってきたオレみたいな落ち着きをなくしたヤツだけだったんだろう。

友人夫婦の幸せの中に身を置いて、オレも幸せだったけど、でも今回の旅はそういった優しさを求めるものじゃないことを次第に悟っていったよ。

渋滞中。
この後もこの現象はオレを悩ませるだろう。

しかしこの青い山河は健在だ。
この流れを抜ければ会津盆地が青い海に見える坂の上に出る筈だ。

あの時は同行者は何人いたっけ。

ひとりになっちまったな。

12:20 塩川駅
小さな村。
オレはこんな風景が見たかったんだ。
GWの喧騒とはおよそ関係のない村。

オレの脇には二本の線路が敷かれ、乗客は見当たらない。
村の年寄りの顔はひどく穏やかだ。
きっとここで暮らす人々は朝日磐梯の山並の移り変わりに一喜一憂しているんだろう。

今日は上天気。
そして暖かい。
風も爽やか。

ひとりは寂しい。
でもひとりでよかった。
この気持ちをうまく言い表せない。

たんにこの田舎の風景に感動している。
休憩場所にはいつもこんな静かな所を選びたい。
でもここは決して用を済ますためだけに立ち寄るような場所じゃない。
さしあたり何も見当たらないけど、ここに暮らす人々は必要以上のものは何も求めていないような気がするよ。

とにかく、この風景、青空、白い雲。
どれをとっても最高だ。
来てよかった。

のんびりいこうよ。
できれば線路を歩く猫にでもなったような気分で。

ここにいてしばらく経つが、初めて列車が通りすぎた。
この去りがたい風景に別れを告げる時がきた。

13:25喜多方プラザ
恋人よ、約束の土産はひとつクリアしたよ。
昼飯はまだだけど、どうでもいい。
駅前で喜多方ラーメンでもと思っていたけど、あまりの人出に今日のオレには相応しくないと離れてしまった。

徹底的にひとりになるつもりなのかオレは。

これからオレはまず新潟に向かう。
天気予報を信じて、走れるだけ走るんだよ。

14:28 おくやま橋ー阿賀野川
こんな風景に出会えると思っていたよ。
ここは最高だ。
きっと地図にも載っちゃいないだろう。

なぜ人々は立ち止まらずに通りすぎていくのか。
鳥の囀ずり、風が木々を揺らす音、そして川のせせらぎの中で。

少し走り疲れた。
休憩場所を探しにいこう。
さっきは少しヤバかった。
道を誤って三国岳に吸い込まれそうになったよ。

14:58 徳沢駅
友よ、君の言うとおり村のお年寄りとふれ合ってみたよ。

そのご婦人はぽつんと座って列車を待っている。
列車はなかなかこないと穏やかな顔で愚痴る。
オレが向かうのは新潟だが、彼女はひとつふたつ先の駅に降りるためにおそらくいつまでも待っている。

地方の鉄道事情とはこういうものか。
オレは何も知らないに等しい。

オレが携えている道路公団が配布してる東北道MAPじゃ今どこらあたりにいるのかさっぱり分からないが、どうやら福島新潟県境に近いようだ。

知らない人に接して心を潤して少しは旅らしくなった。
先を急ぐわけじゃないが、次の場所へ向かおう。

15:30 459国道ー阿賀野川
恋人よ、名もないところにいる。

オレが見てる地図はそもそも大雑把だし、あたりに地名を知らせるものは見当たらない。
電柱がありゃ十分なんだけど、ないんだ。

川辺に降りて石の上に腰掛けて川を眺めていた。
ややこしいことや煩わしいこと。
そんなもん何も考えなくていいんだ。

雄大な阿賀野川の流れに見とれていた。
車が行き過ぎると物音が絶える。
暗くなるまでここにいたいよ。

恋人よ、この旅の目的は何かと聞かれれば、まず友人夫婦に会いにいくこと。
君のいない東京から離れること。
場所はどこでもいい。
そして今ここにいる。

さっき言ったようにここが何という土地なのか記さずに離れることになるけど、次に同じ道を往ってもここだと特定できる自信はある。
とても贅沢なことをしてることを知ったよ。

計画じゃ東京には明日帰る。
だけど一向に帰りたいと思わないんだ。

16:30 49号国道ー新発田市内
恋人よ、街が近づいている。

飽きもせず車の群れは生産性のない行列を作り出している。
この苛立ちと闘うためにこんなことしてる訳じゃない。
つまらない思いは潰していかなきゃ。
今はGWだ。
日本が活気を取り戻そうとする季節なんだ。
オレも祭の中に入ろう。

それにしても街は騒がしいね。

さっきまでオレは仙人の国にいたんだ。

18:25 345国道ー村上市内瀬波温泉
恋人よ、海だ。
日本海だよ。
郡山を出て250km走ってようやく着いた。
夕日に間に合った。
そして今日本海に沈もうとしている。
計画がうまくいったことを一緒に喜んで欲しい。

夕日のメッカから外れているのか人の姿は見られず、とても静かだ。
とてもいい場所に出くわした。

Tシャツ、ビーサン姿のオレにさちょっぴり肌寒い。
でもあの夕日はオレだけのもんだ。
しばらくこうしていよう。
そして体を休めよう。
そして旅心は置いて君を愛しく想うことを再開しよう。

君は今頃彼氏とこの期間中最後の西国の夜を迎えようとしているわけだ。
天気はどうだっただろう。
そもそも楽しかったかい?
明日帰ってくるんだろ?

オレの方はまだ分からない。
もうしばらく先へ行ってみようと思っている。
まだ帰りたくないんだ。

寂しくはないな。
さあ、日が沈む。
初めて立ち会う。

この旅の目的と言えば、日本海で夕日を見るのが最大のものだったような気がするよ。
そして君を心から愛しく感じたかった。
今がその時。
その時はこうしてきちんとやってきた。
これから君への土産を見つけにいこう。

夕日が消えていった。
でも波の音が引き留める。
でも行くよ。
次の街へ。

君に会いたい。

19:55 瀬波温泉
ようやく風呂にありつき腹に飯を入れた。

目の前にはオレと似たようなヤツがいて、ひとり煙草をふかして疲れを癒していた。

彼にこれからどこに行くのか聞きたかったけど、「よしっ」と気合いを入れるとすぐに立ち上がって行ってしまった。

オレは天ぷらそばにありつき、そいつを平らげて席を立とうとしたら彼と同じような気合いが洩れた。

一通り土産は買い込んだ。
ただし彼女への土産だけが見つからない。
もう少し走れば何かあるだろう。

酒田へ行こうと思っている。
その酒田にいつ着くのか見当もつかないけど、眠くなってきたよ。

21:01 345号国道ー道の駅
恋人よ、見上げてほしい。
満天の星なんだ。
あれに手を伸ばしてみてきたヤツ等の気持ちが分かるよ。
あんだけあるんだ。
どれかひとつくらい手頃な大きさのが落ちてこないもんか。
そしたら君への土産は決まりだ。

今は新潟山形県境あたりだろうか。
鶴岡まであと40km地点に車を止めている。
まだ走ることは止めない。

さっき両親には電話を入れたよ。
3日ばかり消息を絶っていたからね。
心配してくれる人がいるのなら、その人を安心させてあげなきゃならない。

明日の夜帰る。
さあ、いこう。

22:22 酒田駅
日本海に沿ってずっと走り続けた。
月明かりがなきゃそこが海だなんて分かりゃしない。

今夜の最終目的地着。
思った通り静かな街だ。
ビールを仕入れようと思っていたけど思い通りにはいかない。

これから秋田まで・・・。
ちょっと厳しいな。
楽しいけどタフだ。
ここらで前進を断念した方がよさそうだ。
望郷の念にかられたわけじゃない。
明日の夜に帰ることを約束したばかりだ。

恋人よ、おやすみ。
取り敢えず四国での最後の夜だ。
いい夢見るといい。
オレも明日帰ることにしたよ。

うまく説明できないが、酒田には来たかった。
街を庄内ナンバーの車が支配している。

庄内の人々よ。
今夜の寝床は車の中なんだ。
どうか穏やかに眠らせてほしい。

23:40 酒田駅
駅前の駐車場で眠れず、寝床を求めて血迷ったかのようにしばらく走ったけど、また同じ場所に戻ってきた。

ビールを買って、彼女の大好きな曲が流れ、想いを暖めて、アテはここしかなかった。

眠れない夜には恋人を想うもんだ。
会いたいな。

仕方ないから幸せを祈る。
おやすみ、今度こそ眠れそうな気がするよ。

明日は最上川から始まる。
これで元の計画に戻ったわけだ。

5月6日
1:45 酒田駅
恋人よ、眠れないんだ。
悲しいわけじゃないけど、涙が出てくる。
さっきまで泣いてたよ。

目が疲れたんだな。
ムリもないさ。

巡回のお巡りさんは素朴で質問も的を得ていた。
オウム騒ぎもあるし妙なヤツはどこにでもいる。
それに他県ナンバーだ。
警官として不審に思うのは当然だろう。
もちろん心外だけどな。

それにしても眠れない。
日の出まで、いや明るくなるまでどれくらい待てばいいんだ?

昨日一昨日オレに暖かい寝床を用意してくれた友人夫婦はありがたかった。

こうしてみて、どんなに尊い好意を受けたのかやっと分かったよ。
まるでバカだ。

2:16 酒田駅
庄内の夜は寒い。
何も掛けずに眠ってりゃ5月のこの時期はどこの街にいても同じかもしれないけど。

いずれにしても、もうこれ以上ここにはいられないよ。

出発だ。
前進しよう。
構わないだろう?
出発だ。

彼女も帰ってくる。
東京へ帰ろう。

3:00 458国道ー白糸の滝サービスエリア
ここが酒田に源を持つ友人が教えてくれた場所なんだ。

おぼろ気に滝の存在が確認できる。
それよりも何気なく外に出てみて空を見上げたら、何て表現したらいいんだろう。
不格好な星が無造作に散らばっているんだ。

途方もなく巨大な勢力に空から監視されている訳じゃないが、感動するよりもむしろ恐怖を感じた。
本当は見えるのに見えていない存在があることを空の中に知った。

ここで眠れるだろうか。
あまり自信はないけど、明るくなったらすぐそこに最上川がある。

満天の星を見ながら彼女とのことを考えていた。
いつもふたりで車の中で聴くテープをかけていた。

アレ、流れ星だろ?
そんなら願いが叶うか。
そう信じて、次のが落ちるのを待ってる。

なあ、寂しいよ

6:54 458国道ー白糸の滝サービスエリア
見た夢は覚えていないけど、少し眠ったようだ。

もう大丈夫だ。
正式に一日を始めよう。
気持ちいいよ。

8:20 458国道
寒河江方面は積雪のため通行止め。
雪が積まれて先に行けないようになってる。

それでもどうにかなると思い突っ込むと、車の腹が雪に乗り上げ立ち往生。
よく考えりゃ当然の結果だ。
バカ丸だしもいいとこだ。

ただ不思議と悲壮感はなく陽気さも失わず、車が通りかかるのを待った。
そのうち軽トラックに乗ったおじさんがやってきて、事情を説明したら快く引っ張ってくれて無事に脱出。

丁重にお礼を言うと「気をつけていけ」と笑顔。
世の中には頼りになる大人がいる。

これも面白いじゃない。
そう思わせてくれる天気と風土だ。

いずれにしても仕切り直しだ。
新庄方面に戻らなきゃならない。

陽気にいこう。
今日も先を急ぐ旅じゃない。

8:50 31号県道ー大蔵村パーキング
目覚めの悪さやさっきのトラブルで心のゆとりを失いつつあった。
強がってみても旅先だからとて人が変わった訳じゃない。
この旅で一番触れたかった自然を賛美することを忘れていた。

恋人よ、ここは素晴らしい。
眼下を最上川が流れ、対岸の田園と背後に広がる雪をかぶった出羽の山並の美しさ。
写真でもこんな風景見たことないよ。
風も穏やかで天気もいい。
急く気持ちは捨てて、しばらくこうしていたい。

山形市内で休みたいけど到着は11:00頃か。
このまま国道を走って東京に帰るんだ。
今日も長い旅になる。

今さっきから眺めている絵に鷹だか隼だかが加わった。
ウグイスの声も聞こえる。

北国に春がやってきた。
オレにもこれから新しい日々が訪れる。

12:30 山形霞城
山形の街をふらついてみた。
どこにいてもオレは変わらない。
この旅ではどこにいてもそうだったけど、ここでもひとり夏の装いでいたよ。

時は穏やかに過ぎた。
あまりにも気持ちがいいんで公園のベンチに寝転がって少し顔を焼いておいた。

夏はオレはどこにいるだろう。
取り敢えずGWは成功だ。

さあ、東京に帰ろう。
高速道路の事情は関係ない。

国道は道を開けてくれるだろう。
次は米沢か。

15:27 郡山アンジェロ
友よ、長い旅だったけど、昨日の朝以来こうして無事に君の住む街に帰ってきたよ。

君と奥さんにはとても世話になった。
本来なら土産でも用意して君の家に立ち寄るのが筋なのかもしれないけど、さっきまでまったく思いつかなかった。
どうか許してほしい。

あれから回った東北の山河はどこも美しかった。
たった二日だけど、やりきって、なりたかった気分にもなれた。

今のオレは太陽と埃にまみれて昨日までのオレじゃないけど、こうなれてよかったよ。

この旅はどこでもよかった訳じゃないんだ。
北国を選んだのにはいい加減なものにしろ理由がある。

男がひとりで目指す場所があるとするなら、それは北だよ。
誰に刷り込まれたのか知らないけど、そう思ってたなオレは。
ほら、車寅次郎や健さんがよく北の街にいたじゃない。

いま遅い昼食をとろうと二日前の夜に三人で訪れた店でビールを飲んでいる。
店員はオレがこれから東京に帰る男だと見抜くことができるだろうか。
どうでもいいことだけど、何だか誇らしい気分でいるよ。

そして今のオレは東京に帰る気分じゃない。
他に行きたい場所が思いつかないから取り敢えず東京に向かっている。
そんな感じ。

東京とは、オレの家があって彼女が帰ってくる場所。
そのふたつの要素が揃っていれば、別に東京じゃなくていい。

食事がきた。
これを平らげたら今度は西に向かう。

友よ、また会おう。
どうか元気でいてほしい。
近いうちきちんと便りを出すよ。

18:01 4号国道ー西那須野
取り敢えずなんて思いながらこんなところまで来ちまったよ。

着実に家路を辿っている。
でもまだ帰っているという実感はない。

まだ東北の山河の中にいたかった。
もっともっと先へ行きたかったんだ。

でも疲れた。
ここらあたりで人は一旦家に帰るべきなのかもしれない。

考え事はさておき、さっき見えた沈みいくお日さんにこの二日間のことを感謝しておいた。
本当に素晴らしい日々だった。

友よ、恋人よ、家に帰ろう。
家に帰ろうよ。

そして、次にはもっと先へいこう。

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